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20話『ゆーたんとの決別』

 自分のするべきことは自信をつけること。自信を付けて、マコトさんや京香さんのように格好良くなって、そしてさやちゃんの理想に近づくこと。


 残り一週間という時間で、僕が変わるためには仕事しか無い。


 なら、ひたすら仕事をするしかないだろう。


 放課後、生徒会でマコトさんと外回りを担当した僕は、彼に頭を下げてお願いをした。


「マコトさん、僕に一つ仕事を下さい」


「ん? どうしてだ?」


「僕は、自信をつけるために生徒会に入りました。なのに僕はずっとマコトさんの補助しかしてません! だから、一人で仕事をして、自信を付けたいんです」


「……なるほどな。んで? なんでそんなに焦ってるんだ?」


 彼は目を細め、親元を離れる息子を見るような暖かい目で僕を見て、そう尋ねた。

 彼に隠し事なんてできない。なら正直に伝えよう。


「……一週間後、僕は告白するんです。だから僕は告白する自信が欲しいんです。……早く、変わりたいんです!」


「……そっか。そういう事なら分かった。だけど躓いた時はちゃんと相談するんだぞ? 遠慮とかすんなよ? マジで」


「はい、ありがとうございます!」


 彼は、ふぅ。とため息をついて僕に仕事の内容が乱雑に書かれた紙を渡した。優しい瞳が僕を貫く。悪いことをした気分だ。


 彼に嘘を付いたつもりは無い。だけど僕のする『仕事』の意味合いは大きく違う。


 僕は、京香さんの仕事以外の生徒会の仕事は大抵この目で見て覚えてきた。


 だから、僕がやる仕事はそれらの全てだ。


 僕は放課後に外回りで仕事をして、家に帰った後にそれらを原稿用紙に纏め、そしてそれを添削してパソコンに打ち込む。


 これが、僕が今できる最大級の仕事だ。幸い、生徒会にはまだまだ仕事の依頼で溢れかえっていた。


 放課後の時間を目一杯使って外回りの仕事を終えた僕は、帰宅後に机と向き合った。


 実咲のやっていた書記の仕事である。原稿用紙に今日やった仕事を事細かに描写する。


 そして、僕は改めて実咲の仕事の速さを思い知らされた。原稿用紙10枚近くを描写するのに、結局気づけば夜中の2時半までかかってしまった。晩御飯も食べてない。


 ふぅ、とため息をついて伸びをしては、コーヒーを一気に流し込んで気合を入れる。


 今度はパソコンと向き合った。ナオさんの仕事である。僕はこの仕事に至ってはパソコンを用いることすら初めてだったので、大きく苦戦した。添削作業。ただ添削するだけでなく、分かりやすい文に、読みやすい形にすることを意識してやる。理想を追い求める。変わるために。変わるために。変わるために。


…………結果、その日は一睡もしなかった。


 仕事のせいで勉強を疎かにしてはならない。当たり前だ。学生の本分は勉強である。そうして迎えた放課後、僕は夜通しで作成したUSBを京香さんに手渡した。


 彼女は不審そうに、驚愕の目で僕を見た。


「…………幸人、これ一人でやったのか?」


「はい、どこかミスがありましたか?」


「いや、まぁ多少粗が見えるがよく出来ている。……だが、幸人。これをいつやったんだ?」


 心配そうな目で僕を見つめる。きっと僕の身を案じてくれたのだろう。


「昨日少〜しだけ頑張りました。褒めてください」


 とぼけて笑うと、彼女はくくっと笑った。


「良くやった。頑張ったな、幸人。すごい頼りになってるぞ。ありがとう」


「……! ありがとうございます!」


 僕は、初めて京香さんに褒められた。そして感謝をされた。


 だが、……それでも、まだ自信はつかなかった。


 だから、僕は同じように今日もやった。


 今日も一睡も出来なかった。これで丸2日、僕は睡眠を取ってない事になる。ぼうっとしながら朝ごはんを胃袋に放り込み、学校へと向かう。


「……おい、幸人」


 教室でゆーたんに声をかけられる。


「おはよう、ゆーたん。どうしたの? そんなに怖い顔して」


「…………今すぐに帰れ。何やってんだお前」


「……マジで何言ってんの」


「何言ってんの、じゃねえよ。その顔、明らかに様子おかしいだろ。休めって。無理すんなよ」


 彼は、酷く心配そうな表情で僕を見た。しかし、僕には今日も仕事があるのだ。休んでる場合ではない。僕は、彼を軽くあしらった。


「はは、心配性だなぁ。ゆーたんは」


「……お前まさか。『変わろうとしてる』なんて言いたいのか?」


「……そうだよ? 僕は早く変わりたいんだ。だから、仕事してるだけだよ」


 彼は呆れたように大きくため息を吐いた。少し怒ってるようにも見えた。


「今日は学校来ちまったし、もういいから放課後に付き合えよ。マッカでちょっと話したい」


「ごめんね、放課後は仕事があるんだ」


「…………お前マジでふざけてんのか?」


 彼はこれまで見たことが無いような怖い顔をして僕を見た。何故か彼は本気で怒っているようであった。


「……ふざけてる様に見える? ねぇ、ゆーたんこそ様子おかしいんじゃない? どうしたの?」


「……もういい。実咲に今日の仕事は休むって報告してもらう。だから今日の放課後は開けてくれ。頼むから」


「断る。今の僕にはそんなことしてる余裕は無い。……時間が無いんだよ。ゆーたんは全部知ってるじゃん! 応援してよ、僕の気持ちを分かってよ!」


 そう言うと彼は、くしゃっと顔を歪めて少し泣きそうに、悔しそうに僕を見た。


「……悪い、俺は今のお前のことは絶対に応援出来ない」


「どうして!? なんでだよ!」


「幸人、お前が傷ついて、そうやって自分を傷付け続けて、そんな傷ついていく幸人を見て、なんで俺が傷つくって分からないんだよ……!」


「……ごめん、分からない。僕は、もう努力するしかないんだ。今この仕事を辞めるつもりは、一切ない」


 彼は、心底悔しそうに、悲しそうに僕を見た。瞳には、少し涙が溜まっていた。


「……そうかよ。正直俺も今のお前の気持ちなんて分からない。きっと、最初から俺達友達なんかじゃ無かったんだ。……少なくとも、俺はそう思ってたんだけどな」


 彼は、僕にそう言い捨てて教室を出た。


「意味分かんない……! 何で応援してくれないの? 何で僕の気持ちを分かってくれないの?」


 僕がこの日以降、この一週間で彼と話すことは無かった。その日より、僕が彼と目が合うと。彼は悲しそうに、辛そうに顔を歪めて見せた。


 彼から笑顔で話しかけることも、僕から挨拶をすることも無かった。


 僕は、何か間違ってるのだろうか。


幸人くんが絶対に自信を待てない理由、それは。


幸人くんは自分のことが嫌いだからです。



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