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17話『重要なミッション』


 変わるために、僕には何ができるのだろうか。それはこれまで散々考えた事であるので、もう答えは出ていた。親友と何度も話し合って決まったのだ、今更疑う余地もない。


 そして彼は僕が強くなる機会(チャンス)までくれた。なら、僕のやるべき事は仕事だ。生徒会の仕事を何度もこなして自信をつける。それが一番の近道であり、僕にとって最後の希望であったのだ。


 そして、もう一つ彼と話し合って分かった事がある。僕の努力の方向はズレていたということ。そして僕はさやちゃんの男の子のタイプが分からないと、どう努力すれば良いかなんて分からないことである。


 ならば僕にできる仕事のない今、僕のやるべき事は一つ。彼女の理想を知ることである。彼女の理想、もとい好きな男のタイプを聞き出すのだ!




☆☆☆



 次の日の朝、僕は生まれて初めて待ち伏せというやつを実行した。彼女の家の場所は知っているので、いつもより早くに家を出て、ポスト前で彼女の姿を待つ。


 胸の内で強い罪悪感を感じる。拳をぎゅっと握りしめて、自分に与えられた時間の短さを言い聞かせる。もう手段を選んでいる場合では無いのだ。良心は捨てろっ!


 しばらくすると、さやちゃんが現れた。僕は偶然を装って彼女に話しかけた。



「わ、わぁ。偶然だね! おはよう!」



「ひゃああっ!? ゆゆゆ幸人!?」



……彼女は奇声をあげながらキュウリを後ろにそっと置かれた猫のように大きくバックステップで跳んだ。なんていいリアクション。10点満点です。


 なんてバカなことを考えていると、彼女はやっと安心したのか、挨拶を返した。


「お、おはよう! こんな時間に珍しいね、寝坊でもしたの?」


「え? ……あ、うん、そうそう、寝坊しちゃったんだ!」


「ふーん、まぁいいや、行こっ?」


 あ、危ない……。そういえば僕はいつもと違う時間に出ていた訳を考えていなかった。待ち伏せしていたなんてバレたら一瞬で嫌われてしまうだろう。


 彼女は少し嬉しそうに笑ってまた歩き出した。横顔でもわかるくらいにやけている。何か良いことでもあったのだろうか。


「ね、何かいい事でもあったの?」


「え、うーん。あっ、そういえばこの前の日曜日に寧々と遊びに行ったんだ! って、なんで?」


「ふふ、そうなんだ。あ、なんか頬が緩んでたっていうか、にやけてたから?」


 そう言うと彼女は恥ずかしそうに手のひらで顔を隠した。少し耳が赤くなってるのが分かる。


「……幸人は、今私の顔見るの禁止!」


「え、な、何で!?」


「い、今はダメなの! ほら、へ、変な顔してるかもだから」


「全然全くこれっぽっちも変じゃなかったよ! むしろ可愛かったっていうか……! って、待って今のは違う」


「へ……!?」


 彼女は顔を真っ赤にしてこちらを向いてはぎゅっと目を瞑ってそっぽを向いた。


 ……終わった。やっちまった。無言の時間が淡々と流れる。



「……」


「……」


 二人で顔真っ赤にしてすたすたと歩き続ける。その間、僕はいたたまれない気持ちにおしぶされそうになっていた。

 朝からナンパ紛いのことをしてしまったのだ。申し訳無さ過ぎる。誤解は解けるだろうか……。弁解の言葉を焦る頭でぐるぐると考えては時間は過ぎてゆく。


 学校の最寄り駅に着くと、姉崎(イケメン)さんが駅で待っていた。おーい、とさやちゃんに手を振っては、となりの僕の姿を見てはふぅん……? と悪く笑った。嫌な予感しかしない。下手な弁解は更なる誤解を招くのだ。ここは一旦退散しよう。


「あっ、ごめん。お邪魔みたいだからここで僕は行くね。じゃあさやちゃん、また!」


「あー待ってよ。ほら、小鳥遊くんとは私も話してみたいと思ってたんだ。例えば、沙耶がこんな真っ赤なのはどうしてだろう? とかぁ?」


「ね、寧々っ!」


 そうやって僕の猛烈に痛い所を突いてからかった姉崎さんをさやちゃんが少し怒った素ぶりで制止した。


「はは、ごめんって。でも折角だし一緒に行こうよ。小鳥遊くんとは話してみたいって思ってたのは本当だからさ、ね?」


「そ、そういう事なら……お邪魔します」


 そう言って、ちらっとさやちゃんの方を向くと。彼女はむう……と頬を膨らませて姉崎さんを睨んでいた。そんな顔ですら滅茶苦茶可愛いかった。本当に反則だと思う。


「ところでなんでこんなに顔赤いの? 何があったか詳し〜く聞きたいんだけど」


「い、今はダメっ! 後でね? ねっ?」


 こうしてお邪魔になってしまったが、しかしながらこれは僕にとって好都合だった。僕がこうしてさやちゃんを待ち伏せしたのは『好きなタイプを聞き出す』という重要なミッションがあるからだ。


 僕の失言のせいで多少計画が狂ってしまったが、ここから学校までの時間でなんとか巻き返すことができるだろう。


 僕にはもう時間が無いのだ。ミスはもう許されない。ここでカタをつける。尋ねるタイミングならイケメンさんの登場でほのぼのとした今しかないだろう。


 僕はパッと話を切り替えた。


「あっ、あのさ! さやちゃんって好きな男の子のタイプとかってある?」


「な、な!? え!?」


「ぶっ」


 イケメンさん思いっきり吹き出したよ。イケメン、おい、イケメン。


 

寧々「私の好きなタイプはゴースト」


沙耶「え、そういう話なの!? なら私はみずタイプ!」


どこからともなくゆーたん「マリィちゃん」


沙耶「えっそれタイプじゃ」


ゆーたん「マリィちゃんタイプ」


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