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15話『とある朝、目を腫らす彼』


 朝、いつものように僕は早めに学校に着くと、珍しいことにゆーたんが教室に居た。いつもは気だるげに朝礼時間ギリギリに来るのだが、何かあったのだろうか。



「おはよう、ゆーたん。今日は早いね、何かあったの……って、うわぁ」



「人の顔見てうわぁ、はねーだろ。昨日の夜から俺も大変なんだよ……」



「えっと、()()()の突発的な花粉症ってやつ?」



「……そうそう、特に春のこの時期は花粉が大変でな」



 彼の顔を見て、つい声を上げてしまった。目が真っ赤に腫れ上がっていたのだ。


 彼はおもむろに鼻をすすって見せた。僕は花粉症にかかった事がないのでよく分からないが、彼の疲弊した様子を見るに相当大変なものなのだろう。すっとポケットティッシュを差し出す。



「うー、ありがとう。くっそ、早く腫れ引かねえかなぁ」


 彼はそう言うと、ぐしぐしと手の甲で目をこする。


「こすっちゃダメだって、ほら、我慢我慢」



 月に一度くらい、彼は花粉症を発症する。目が痒くなり、擦っているうちに目が腫れ上がって、鼻水が止まらないらしい。


 僕はいつゆーたんがこの突発的な花粉症を発症しても良いように、ポケットティッシュを常備するようにしている。……は? 別にデレてないし、日頃のお礼とか、そういうやつだから! 


 彼はマスクを外して、手渡したティッシュでチーンッと鼻をかむと、悪く笑って僕の方を見た。



「……んで、どうだ? 生徒会の方は。実咲から聞くに、なんか頑張ってるらしいじゃん」



「み、実咲ほどじゃないよ。まだまだ仕事覚えたてだし……本当、足元にも及ばないっていうか」



 ……あれから僕は毎日生徒会に通い、自信をつけるために仕事を手伝っていた。


 マコトさんの外回りの仕事だけでなく、実咲の書記としての役割も、ナオさんの会計としての仕事も手伝った。主に仕事が忙しい所の補助として仕事をする事になっている。


 僕は改めて生徒会メンバーのおかしさを知った。


 まずは実咲。彼女の仕事は主にマコトさんや生徒会全体としてこなした仕事の内容を書き留めて保存することだ。彼女のお気に入りの高そうなボールペンを器用に走らせては素早く書きまとめた。


 驚くべき点はその正確さである。僕が目で見たもの、耳で聞いた音をそのまま文字にしたのではないかというほど事細かに描写した。


 圧倒的なまでの文字の量がそれを物語っていた。仕事一つにつき、使った原稿用紙は10枚を超えていただろう。そんな馬鹿げた量の仕事を、放課後の短い時間にやり遂げるのだ。


 僕が手伝える事といえば、お茶やお菓子を出したり、書き終えた原稿用紙を眺めて少し添削したくらいだった。


 次はナオさん、彼女の今の仕事は主にレポートをまとめる事だった。


 実咲が書いたその大量の原稿用紙を読み上げ、わかりやすく噛み砕いて、短くまとめてレポートとしてまとめた。原稿用紙10枚分の仕事をたったA4サイズに打ち込むのだ。相当文を読み込む必要がある。


 彼女は、それを一目読み上げただけでやってのけた。マコトさんが言っていた『計算能力の天才』というやつであろう。あのマコトさんが言っていたのだ。折り紙付きである。


 僕が手伝える仕事が無いことなんて、もはや言うまでも無い。お茶を淹れる天才でもあるナオさんにお茶を淹れるなんておこがましいが、僕の仕事はそれとお菓子を出すこと、そして10枚中の1枚くらいの原稿用紙をまとめるくらいであった。



 まぁ何が言いたいかというと、つまり仕事をしているようで全然仕事をしてないということである。正直めちゃくちゃ申し訳ない。


 ……そんな僕に対しても生徒会の方々は優しく接してくれた。下校時刻ギリギリまで皆で仕事をして、終わった時の達成感を分かち合った。



 生徒会はまるで家族のような暖かさを感じた。初めて生徒会室に入った時の混沌が嘘のようであった。


 実咲は悪戯好きでワガママな、それでも憎めない可愛い妹のようで、ナオさんは優しくて包容感のある、どこか抜けている姉のようであった。


 マコトさんは物事に対して達観しており、一つ上とは思えないくらい大人びているのに、たまに子供のように無邪気な一面を見せては、まるで父のように僕を支えてくれた。


 京香さんは最初は僕に対して冷たかったが、今では少し甘えてくるポンコツさも見えて可愛げのある、でもそんな中でも仕事をする時にはピシッと雰囲気が変わる、カッコいいお母さんのようであった。


……なんて、みんなに言ったら笑われてしまうだろうけど。


 僕は、暖かくて優しいその場所を気に入っていた。やっている事は一見面倒だけど、それでもみんなとする仕事はやっぱり楽しかった。当初の目的であった自信はまだまだ付いてないが、それでも仕事をするという経験は自分の身についていると感じた。



「へへ、そっかそっか。まぁ頑張ってれば自信もすぐに付くだろうさ」



 そんな僕の様子を見て、腫れた目でゆーたんは嬉しそうに頷いた。



「ありがとう、頑張るよ」



 なんて話していると、先生が教室に入ってきて、ざわざわと賑やかだった教室は穏やかにその音を静めた。


 面倒そうに伊藤先生は声を上げる。



「んじゃ、ホームルーム始めるね、藤沢、お願いっ」



「起立、……気をつけ! 礼!」



 藤沢くんの号令も、もう聴き慣れたものだ。最初はぎこちなかったが、今ではもう彼の号令じゃないと違和感を感じる程である。


 彼は顔だけでなく人格も整っていて、クラスのリーダーとして健気に頑張ってみんなをまとめていた。

 そんな優しい努力家の彼のことをクラスの子は応援していたし、反発するような子は居なかった。やはり日頃の行いというものであろう。人柄も良く、サッカー部の友達との楽しそうな会話がそれを物語っていた。



「えっと、今日の連絡はっと……あ、そうそう。藤沢、放課後にちょっとお仕事だ、ちょっと多いかもだから、副委員長も手伝って……って、今日は休みか。ならお手伝いマンの小鳥遊、手伝ってやってくれ」


「お手伝いマンて……」


 先生は僕が生徒会のお手伝いをしていることを知っていた。にしてもそのあだ名は酷い。ネーミングセンスのことを僕が言うのもなんだが、流石にダサい。



 チラッとさやちゃんの方に目をやると、僕の方を見ておかしそうに笑っていた。


……控えめに言ってすっごい可愛い。


 そうして目が合うと、また嬉しそうに照れて笑った。HP全回復である。今なら魔王でも裏ボスでも倒せそうだ。つい頬が緩んでしまう。朝から幸せであった。




……藤沢くんはそんな僕を見て、少し複雑そうに、笑った。




昨日更新できなくてすみません……!


先輩の作家さんのアドバイスを元に、あらすじと序盤の展開をいじってました。


これからまた毎日更新を頑張りますので、良ければ応援宜しくお願いします!(*´∇`*)

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― 新着の感想 ―
[一言] これは藤沢君ライバル宣言か…!?
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