10話『あなたと同じ帰り道』【中編】
本当は前後に分けるつもりでした……
電車に座っているだけなのに、心臓が強く心を叩く。隣にさやちゃんが座っているのだ。そりゃ異常事態だろう。心臓は速さを増して僕に伝える。……好きなんだろう?と。分かってるから。そんなの僕が一番分かっているから。
笑顔で彼女は話しかける。ねぇ、と。
「どうしたの?」
「生徒会に入ったんだよね? それもお手伝いって。それって、どうして?」
そう尋ねては首をかしげた。まんまると大きいその目が僕の瞳を貫く。電車内は暖房が効いていて暖かく、外の寒気で冷えた身体がゆっくりと温められるのを感じた。そのせいか彼女の頬は少し紅潮しており、整ったその顔立ちをより一層と彩った。
まぁごちゃごちゃ言っているが要するに言いたいことはすっごい可愛い。と言うことである。
「えっと……そんなに見られると恥ずかしいんだけど……?」
そう目を背けてはより顔を赤くした。誰がどこからどう見ても柔らかいその頬を両手で覆い、赤く染まったそれを隠した。
「あっ、ごごごめん! ぼーっとしてた! えっと、何で生徒会に入ったんだって話だよね?」
……そこまで言ってから気づく。あっ、これ言えないやつだ。と。
しかし僕はそんなに器用な人間でなく、咄嗟に上手いこと嘘をつくなんてことはできなかった。
恐る恐る告げる。
「……ごめん、やっぱりこれも秘密なんだ」
「良いよ、そんなに申し訳なさそうに言わなくても。言えないことなんて、私もいくらでもあるからさ」
とは言ったものの、少し寂しそうに眉を下げた。電車内は明るく、彼女の表情の変化が分かりやすい。笑顔を作っているが、その実やっぱり聞きたかったのだろう、少し腑に落ちない所が感じられた。
「じゃ、じゃあ、これも公平に行こう。次の質問には絶対正直に答えるよ」
「……それ、本当に言ってる? 何聞いちゃおうかなぁ?」
「ごめん、程々にお願いね?」
可笑しそうに、少し意地悪く笑った。うーん、と腕を組んで考えた後、彼女は閃いたように指を立てた。頭には豆電球が浮かぶ。いちいち可愛い。
彼女が話した途端、タイミング悪く電車が隣を通った。
「じゃあ幸人は……〇〇〇………〇〇こと、どう思う?」
「ご、ごめん、もう一回言ってくれる?」
さやちゃんは、指を立てた先程の姿勢ままピシッと固まってしまった。と思えば口元がへにゃっと笑う。顔はみるみるうちに赤くなり、耳まで真っ赤になった後で目を逸らした。
逆にどうした。
「ご、ごめん……何でもないの。忘れて……」
「今なんて……」
「ヒ・ミ・ツ!! これで公平でしょっ?」
また可笑しそうに笑っては、はぁ。と一息ついていた。
一体どうしたと言うのか。まぁヒミツなら仕方ない。これでなんとか僕の秘密も守られたのだ。うん。
『まもなく……岡澤駅……岡澤駅……』
ここで最寄駅に着いた。無論、彼女も一緒に降りる。やはり今日の帰り道は一瞬のように思える。やっぱり、幸せだ。
幸せな時間を惜しむように彼女の顔を見ると、彼女もこちらを向いていた。どこか切なそうな、悲しそうな表情だ。
目が合うとパッと笑顔を咲かせた。
「ね、もう暗いしさ。一緒に帰らない? 一人で帰るの、ちょっと怖いからさ。ほら、ポスト前の所までで良いからさ」
ポスト前というのは、彼女の家と僕の家の分かれ道の場所で、昔は別れを惜しんでよくそこで何時間も話したものだ。
『4時まで話したら帰ろう』って決めてはちょっと過ぎるまで話に夢中になり、また決めては過ぎて……という幸せな永遠ループである。結局暗くなるまで喋るせいで彼女を家に送ることとなっていた。
そのため『ポスト前』という単語ではもうそこしか思いつかない。懐かしい、幸せな思い出である。
───だけど、僕はそれに賛成ではない。
「え? いや、勿論! ……っていうか家まで送るつもりだったんだけど……もしかして、嫌?」
少し控えめに尋ねるが、こちらとしてはもっともっと一緒に居たいのだ。家まで送り届ける気満々だったのだが、それはそれで問題だろうか。
彼氏でも無いのに女の子の家まで付いていくっていうのはもしかして半分ストーカーになってしまうのだろうか。いや、でも元々彼女の家なんて知ってるし、なんなら僕の家から歩いて10分くらいだし。
っていうかさやちゃんの心情的に鬱陶しい男が家まで付いてくるのは如何なものだろうか。
ハッとして彼女の方を向くと、
「じゃあそれで……お、お願いします」
なんて言った。顔は完全に逆の方向を向いていたが。あぁ、待ってこれ気持ち悪かったやつだ。思わず表情に出ちゃってこっち向かないやつだ。
コンビニで肉まん買った時に『からし付けましょうか?』の質問に対する答えばりばりの『じゃあ、お願いします』である。それ使わないじゃあん。絶対要らないじゃあん(違うそうじゃない)
「えっと…じゃあ行こっか」
「うん、行こっ!」
意外にもこちらを向いたその表情は明るいもので。またも心臓は高鳴る。
……やっぱり、好きだなぁ。なんて感じた。この瞬間、この一分一秒を宝物にしよう。
これから始まる生徒会の仕事も、保健委員の仕事も。ずっと続けてきた修行も。彼女の為なら、頑張れるのだ。変わるのだ。絶対に。
まるで地図でも作るかのように僕たちは一歩一歩踏みしめて歩いた。ゆっくりと、ゆっくりと。お互いののペースに合わせて。
さて、さやちゃんは何と尋ねたでしょうか!?
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