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9話『本音と性根』

  生徒会室へと帰るその道で、僕は彼に出会った。……歩く足が、ピタリとそれを止めた。心臓の音だけがドクドクと響く静寂。



 ────東城さんがそこに立っていた。


 そんなに不思議な話では無い。そこに彼が居るのは彼の仕事が終わったからだ。


 簡単な話である。何も難しいことはない。ただ、その圧倒的なまでの速さに驚愕しているだけであった。おぞましいまでのその観察力に軽く恐怖まで覚える。


 確かに僕達はわざわざ職員室まで出歩き、一人一人先生に聞いて回った。相当な時間を使ったかも知れない。


 しかし、彼は一人でこの仕事をしていたのだ。そう、佐倉さんも今は僕と仕事をしていた。彼女のテキパキとした仕事は確実に僕の仕事を早めただろう。それなのに、僕達のした仕事の、倍の仕事をやり遂げたのだ。その事実は変わらない。


 お手伝いなんておこがましいにも程がある。恥を知れ。自分の助けなんてそもそも要らないのだ。……恐らく、初めから佐倉さんが東城さんに付いていれば、この仕事はもっと早くに終わったはずだ。


 僕が居ることで仕事が遅くなった。突きつけられたその事実にどうしても顔を歪めてしまう。


反して彼は朗らかに手を振った。



「お、実咲に小鳥遊じゃん、終わった?」



 佐倉さんがうんざり、という顔つきで答える。



「真さん早すぎでしょ、いや、ホントにちゃんと見たんですか?……見たんだろうなぁ。もう」



「んー、まぁ慣れてるからなぁ。当たり前だよ! それより、小鳥遊の仕事としてはどうだったんだ?」



照れ隠しに首を掻いて彼は話をすり替えた。



「……いや、これはまぁ後で聞くことにするよ。ちょっと小鳥遊借りてくぞ? 実咲は先に帰っておいてくれー」



 きょとん。と、佐倉さんは彼の顔を見た。僕もだ。そんな話は聞いてない。



「はい? ……まぁ良いですけど。仕事は報告しとくんで、早く帰ってきて下さいね?」



「ん、わかったよ。それじゃあ、行こうか」



「え、は、はい!」



 いこうか、と僕を文芸棟の屋上へと連れこんだ。1つのベンチが設置されており、外周をぐるっと金網で囲まれているただそれだけの殺風景な場所。運動場や校舎が見渡せ、心地よい風がひゅうと吹き抜ける。


……こんな告白の絶好のスポットみたいな場所、あったんですね……。いや、何も言うまい。立ち入り禁止の張り紙とかあったけど。うん。


 穏やかな風に吹かれて前髪がふわっと揺れる。心地いい春風だ。天気も快晴。何故か気分も晴れてくる。外からは運動部の叫び声、下からは吹奏楽の演奏が響く。どちらも程々に喧しくなく、心穏やかにさせた。ふぅ。と息を吐いてすっきりとした顔つきで彼は話し出した。



「ちょっと男同士で話したいことがあってな。……ほら、生徒会って男は俺だけだろ? まぁそれ以外にも話したいことがあるんだけどな」



「男じゃないと話しにくい事なんですか?」



まぁな、と目を逸らしては笑って彼は続ける。



「小鳥遊、好きな人のことでウチに入ろうと思ったんだよな?」



「その通りです。…恥ずかしい話ですが、僕はカッコよくなるためにここに来ました。もっと言うと、告白する自信を、つけに」



「ふふ、ははははは!」



「わ、笑わないでくださいよ……」



「や、悪い悪い。だって俺も()()()()()理由(ワケ)()()()()もんだからつい、さ。」



「同じ……って、東城さんが!?」



僕の反応を見てはくくく。と機嫌良く笑い、彼はゆっくりと話した。



「あぁ。まぁちょっと違うけどな。俺はひとりぼっちで頑張ってた京香の事が好きになって、支えてやりたいと思ったから副会長になったんだよ。だから、小鳥遊の理由は何も恥ずかしがることは無いよ」



 驚いた。まさか東城さんが好きな人のために生徒会副会長になったとは。彼は僕が思っているよりも普通の人なのかも知れない。少し、少しだけ気が和らいだ。



「なんか、東城さんがちょっと身近に感じられた気がします。雲の上の人! ってイメージだったので」



「はは、俺はさ、ちょっと周りより気がきく奴ってだけだよ。凄いやつでも、偉い奴でも、超能力者でもない。普通の人間だ」



「……『ちょっと』ですかね、それ?」



「あぁ、まぁ意識すれば小鳥遊でも多分できるよ。瞬きの数、目線、仕草の癖、人のことを観察すれば人の気持ちを読むなんて簡単にできるよ」



「待って下さい。ツッコミ入れてもいいですよね、これ?」



「はは、流石に冗談。子供の頃から人のこと観察するのが癖だったからさ。まぁ、そんな事できるならもっと女遊びしときゃあ良かったなぁって思うけどな」



「何ですか、それ」



 そんな子供やだなぁ。なんて考えていると、己を覆う劣等感は春風と一緒にどこかへ吹き飛んでいた。


……すると、彼は突然こんなことを言い出した。



「なぁ、ウサギってさ、ひとりぼっちで寂しさを感じると死ぬって知ってた?」



「へぇ、そうなんですか」



 興味深い。ウサギはあの愛くるしいもふもふの身体とくりくりとした大きな目で正に人に愛されるような見た目をしている。


 もしかしたらウサギは人から愛される為にあのような見た目に進化したのかも知れない。なんて妄想してしまう。実に人間の自分勝手な妄想だが、言われてみれば彼らが単独で行動する姿はあまり見られない気がする。



「ごめん、真っ赤な嘘。確かに言われてるけど、まぁ迷信だな」



「何なんですか!?」



 僕の妄想に馳せていた時間を返してください。ごめんなさいウサギさん。君たちは本来からそのような可愛らしい見た目をしていました。僕の浅はかな妄想を許して下さい。


彼は続ける。


「雪兎、よく見る真っ白のウサギは基本的に群れで行動するが、実は一匹でも生きられるんだ。むしろ群れでいない分、見つけられにくいってのもある」



「なるほど……」



「人間も、同じなんじゃ無いかって俺は思うんだ。確かに、しっかりとした人間は自己を管理することができる。1人でも家事をして、食事を摂って、健康に、堅実に生きられる。当たり前の話だけどな」



「だけど、人間は()()()群れる。何故か?」



 彼は、少し悲しそうな顔をして言った。



「人間は、寂しさを感じると死ぬからだよ」



「……え、そ、それも迷信、ですよね?」



「ごめん、冗談。そんな簡単に人間は死なないよ。でも、実質死んでると同じなんじゃ無いかって。1人でも生きられるって無理して無茶して。その辺がポンコツなんだよなぁ、俺もあいつも」



「もしかして、仁坂会長の話ですか?」



「はは、その通り。京香は、しっかり者だから。1人で生きられたんだ。本当に。でも、本当は寂しくて。でも1人で生きる方が良くて。なんて1人でずうっと塞ぎ込んでた」



「……そんな過去が」



 僕は1人でなんて生きられない。自信がある。きっと一瞬で破綻するだろうし、その方が良いだなんて一切思わないだろう。

 でも、一体何が彼女をそう思わせたのだろうか。なんて考えていると。彼は言った。





「生き方が破綻したあいつは、··········自殺しようとしたんだ」



「……は?」



「俺だって驚いた。真顔で、教室でそんなことを決心する京香が信じられなかった。……何より、俺も1人で生きる方が楽だって考えだったから、それが、彼女の生き方が破綻するのは嫌だった……だから、俺は京香を助けた。1人で生きるやり方を俺自身が否定したんだ」



「待って下さい。そんな話、何で僕に」



「あいつの側に居てやって欲しいんだ。誰でもない、幸人が」



 彼は、僕に向かって頭を下げた。驚きの連続であった。仁坂さんの過去、東城さんの本音、そして懇願。僕は、反射的に言った。



「か、顔を上げてください! こちらこそお願いしに来たんですよ。東城さんからそんなことお願いされなくても、這ってでも付いていきます!」



「……言ったな? はは、これから宜しく頼むぜ、幸人!」



 またいつも通りに機嫌良さそうに笑って、彼はこちらを向いた。……少し嵌められた気がした。彼は楽しそうに続ける。



生徒会うちの奴らはさ、皆が皆何かしらの問題を抱えてるんだ。俺も含めて、さ。そんな寂しがり屋の集まりなんだ。だから、人が増えるのは大歓迎。しかも、お前みたいな楽しいやつは特に!」



「東城さんに言われたら自分でもそうなんじゃないかって思えてきました……」



 彼は、おや?といった風に首を傾げた。はは、と機嫌よくおどけて笑っては、僕の背中を叩いた。



「生徒会のメンバーは、お互いに名前で呼び合うんだよ。だから、俺は東城じゃなくて、真だ。幸人もそう呼んでくれよ」



「そういえばいつの間にか幸人って呼んでましたね……。分かりました、マコトさん!」



ふへへ、と嬉しそうに、照れくさそうに笑った。子供のような純粋無垢の笑い方。そんなマコトさんの姿はさっき言ってたような寂しがり屋の子供のように映った。そんな姿を見るとなぜか僕も恥ずかしくなって、つい顔を背けた。


更新ペース上げる上げる詐欺です。本当に申し訳ない……。


 反省の意を込めてこれから毎日更新を実行致します!!


 更新がどうしても無理なら短編を書きます。どうか応援して頂けると幸いです。


感想、レビューにて応援して頂けるととてもとてもモチベーションが上がります。良ければ応援して下さい……!!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 東城さんが美咲を実咲って呼ぶのはなんか意味があるんですか?
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