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7話『信念とお仕事』


「ごめんってば京香! 許してくれよー」



 東城さんは掌を合わせて申し訳なさそうに仁坂さんの方を向いた。対して仁坂さんはツーンッ!という効果音が出そうなくらい拗ねている。端正な顔立ちが勿体ない。いや、ほんとに。



「今日という今日は絶対に許さん……絶対いつかギャフンと言わせてやるからな……!」



「え? そんなんでいいの? ギャフンギャフン」



「違うっ! そうじゃないんだ……!」



 仁坂さんは席に座ると、拳を握ってぐぎぎ……!と悔しそうに目を瞑った。もう多分一生東城さんには勝てないと思う。あと浜崎さんが後ろでニコニコしながら仁坂さんを撫でているのは何なのだろうか……風物詩?



 諦めたようにため息を吐いて僕の方を向いた。彼女はキリッと生徒会長の表情をした。これが会長モードと言っていたやつであろう。気迫が違う。



「……まぁいい。ところで小鳥遊、お前生徒会の手伝いをしたいと言ったな」



「は、はい」



「そもそも生徒会という立場は生徒会選挙という正当な行事を踏まえた上でやっと立てる場所なんだ。分かるな?」



 ぐうの音も出ない言葉である。何も言い返す言葉は無い。そもそもこの生徒会の錚々たるメンバーにお手伝いなんてものが必要なのだろうか。·····彼女は続けた。



「そして、私はまだ小鳥遊が生徒会の手伝いをしたいという理由を知らない。お前の本心を、何がお前を動かすのかを知りたいんだ」



「んー、まぁ、そうだな。俺も小鳥遊が手伝ってくれる理由くらいは知っておきたいかな?」



 笑ってそう言うと彼は僕の前に立って、じぃっと僕の瞳を見つめた。心まで見透かされてるようだ。緊張からか、腹の下辺りがふわふわする。一息おいて、ゆっくりと真顔で問いかける。



「さて、じゃあ何でここに来たか言ってみ?」



「好きな人に、悪く言われないために、です。……仁坂会長や、東城副会長のようにカッコよくなりたいんです! 弱い自分を、変えたいんです!」



 彼はじぃっと僕の方を見続ける。かなり恥ずかしい事を言ったのに真顔である。余計恥ずかしいので笑い飛ばして欲しい。いや待って佐倉さんめっちゃ笑ってますやん。プルプルしてますですやん。


「こ、こいつ、正直者だよ……!」



 そう言うと東城さんも吹き出した。あはは!と機嫌良さそうに声を上げる。笑ってたは思ったもののやはり笑われたらそれはそれで恥ずかしい。顔が熱くなるのを感じる。



「ふ、ふふっ、正直で清々しいな……小鳥遊。私がそのような理由で許可を出すとでも思ったのか?」



 仁坂さんもぷるぷる震えながら僕のほうを眺めた。何ですかこの羞恥プレイ。いやもう恥ずかしすぎる。·····何言ってるんだ僕は。



「はぁ、はぁ。いやぁ、うん。気に入ったよ、小鳥遊! もぉすっげえ気に入った!」



「·····おい、真? 正気か?」



「じゃあ生徒会の超人員不足は誰のせいなんだ?京香?」



 ぐっ、という苦虫を噛み潰すような表情を見せる。痛いところをついたのであろう。しかし、何故かあの理由で東城さんにはとても気に入られたようだ。はぁ、と溜め息をついて仁坂さんは僕の方を向いた。



「……分かった。ならお前の想いの強さを仕事で見せてみろ、小鳥遊。今から真について行って一緒に仕事しろ。真だけだと不公平だから実咲も監視について行ってくれ」



「……え、でも私の仕事は·····」



「こっちの仕事は私がやっておこう。任せたよ、実咲」



「はい、分かりました! あー、外回りなんて久しぶりだなぁ」



 佐倉さんは楽しげに立ち上がって準備し、僕の方をニヤニヤと見つめた。



「好きな人に悪く言われないように、ねぇ?」



「滅茶苦茶はずかしいからやめて!?」



 と言うと佐倉さんはあははっと意地悪に笑って見せた。東城さんもドSだが、佐倉さんも完全にSだ。俗に言う小悪魔というやつだろう。実に厄介である。



「んじゃ、時間もヤバイし、行ってくるわ、仕事任せたぞ、ナオ、京香!」



「はーい、行ってらっしゃい〜」



「期待しているぞ、小鳥遊!」



「はい!」


 

 それじゃ、行こっか。と爽やかなイケメンスマイルで僕に笑いかけた。男たらし(?)である。これは惚れても仕方ないだろう。男として、以前に人間としての何かが劣っている気がする。なんか泣きそう。


 行き先も分からないまま、とりあえず東城さんに付いていき、歩いていった。仕事の内容の事などを考えていると、ふと佐倉が尋ねた。



「ところで、なんで京香さんには小鳥遊のこと言わなかったんですか? 真さんに限ってそんな凡ミスないでしょ?」



「んー? だって言ったら絶対3時間くらい臭い台詞とか考えて来ちゃうじゃん?」



「あー、なるほど。納得です」



「……え、敢えて言わなかったんですか!?」



 驚愕の事実であった。東城さんは仁坂さんを気遣って、あえて伝えなかったのだ。分からないように裏でサポートするという姿に、男としての憧れを覚えた。



「……まーな。京香はなぜか生徒の前でカッコつけたがる習性があるからさ。それで寝不足とかほんとしょっちゅうだしなぁ。ったく、ポンコツ京香はこれだから困る」



「イケメンだ……」



 思わず言葉がこぼれた。彼は照れ隠しのようにぽりぽりと頬を掻きながらボヤく。佐倉はニヤニヤと東城さんを眺めていたが、カッコいいとは思わないのだろうか。


 彼はぱっと振り向いた話をすり替えるように言った。



「さて、変なこと言ってないで、仕事だ仕事! 俺の仕事は主に外回り。んで、今日は部室棟と教室の点検ってところかな」



「点検……ですか?」



「そ、壊れてる所、何か足りない所とかをチェックして、報告するだけ。簡単だろ? 今からやるからとりあえず見とけよ。ほら実咲も手伝ってくれ」



「はーい、まぁ仕事ですしね」



 階段を少し降りただけである。が、そこからは部活動の活気盛んな声が聞こえてくる。吹奏楽部の演奏、演劇部と放送部の発声練習。


 仕事の内容は、部室内での壊れた箇所や足りないものなどの視察であった。東城さんはその類稀なる観察眼で部室の窓からじいっと見て回って、その都度正確に伝えては、彼女はメモ帳にスラスラと書いていった。



「よし、文化部はこれで終わりっと。んじゃあ次は一年の教室なんだけど……そうだ、小鳥遊、お願いしていいか?こんな感じで言っていったらいいからさー」



「は、はい!」



「おう、任せたよ。俺は二年と三年の教室見てくるからさ。実咲、ちゃんと見とけよ〜?」



「はーい、任されました」



 そう言い残すと東城さんは二階の二年生の教室へと向かって階段を登っていった。さて、と僕は一年生の教室に入り、電気を点けたり消したりしてみたり、ロッカーの中身を数えてみたり、と破損箇所を確認していった。


 ……しかし、小さな破損箇所を見つけていくのは至難の業であり、彼の観察眼ありきの仕事であることを痛感する。明らかに壊れている所はともかく、どうしても見逃してしまう部分もある。一年生の教室は六個あり、その一つ一つを僕の目で確認していくのはどうしても時間がかかるだろうし、見落としも増える。


 当たり前だが、僕には観察眼など無い。しかし、あのイケメン副会長の東城さんが持っていなくて僕が持っているものなんて、考えられない。じゃあ僕に出来ることは?


 考えろ、考えろ。足りないものを、破損箇所を見つけるには?



『────例えばの話だ、』



 ふざけた親友の話を思い出した。彼の例え話は、いつも分かりにくいが的確に答えを教えてくれた。



……例えば、『壊れたところ』『足りないモノ』に気づくとき、どんな時に気づく?



そんなのこの前の問題に比べたら簡単だ。


『それ』を使う時である。なら、いつもこの教室を使っている人に聞いてみれば·····



「ごめんね、ちょっと一回り見終わったら職員室に行ってみていい?」



「……? いいけど?」



 頭に疑問符を浮かべつつも彼女は従った。僕は一年生の各教室の担任の先生に話を伺い、何処か困っている所が無いか聞いて回った。



「あー、そうそう! 磁石が足りないんだよなー」


「6組、磁石っと、何個くらいです?」


「んー、そうだな。五個くらいかなぁ。あ、あとあれだ、扇風機が壊れてたって話聞いたなぁ。確か右後ろの!」



「扇風機っと。これは要相談だねー」



 佐倉は先生の言葉をスラスラと丁寧にメモをとっていく。6組なのでこれで終わりだが、本当に頼りになると感じた。相当仕事慣れしているのだろう。個数などもしっかりと聞いていた。


 この季節に扇風機など使わないので僕の力では気づくことはできなかっただろう。無論、磁石が足りないなんて事も知りようがない。やはりこの作戦は成功だと感じていた。



────帰り道に彼に出会うまでは。



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