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5話『生徒会《カオス》』

 放課後、僕は佐倉さんに連れられて、後ろを歩いてついて行っている。


 読めない。ぜんっぜん読めない。ゆーたんのあのニヤニヤ顔も、僕が尋ねてもさぁ?と悪い顔で返すだけであった。ゆーたんめ、僕の反応を見て遊んでやがる。



 無論、地味な僕はこの16年間において、告白なんて一度もされた事はない。ただただ無言かつ真顔で歩く彼女に付いていくだけである。スタスタという歩く音だけが響く。


 歩く先は、主に文化部が活動している文芸棟。主に人気が少ない所であり、帰宅部の僕は一度も入った事などない。彼女の歩く後に続いて階段を登る。……しぃんとした雰囲気が広がる。


 え、何この空気。告白ってこんな感じなの?やばい、変な汗かいてきた。



「ねえ」


突然彼女が振り返り、声をかけた。謎の妄想を繰り返していた僕は驚いて声を上げた。



「ひゃい!?」



「ひゃいって……驚きすぎじゃないです?」



「ご、ごめんなさい。何でしょう?」



 佐倉さんは軽く引いたような、驚いたような表情を見せた。そして、ふふふっと耐えきれないように、楽しげに笑って言った。



「本当に裕太から何も聞いてないんですね。もう、あいつはそういうとこあるからなぁ……」



 裕太、なんて呼ばれてるんだ?ふーん。なるほど?やっぱりゆーたんは見えないとこで頑張ってるんだなぁ。なんて考えていると、彼女は思い出したように続けた。


「そういえば、自己紹介がまだだったよね? 私は()(くら)()(さき)()()()の書記を担当してます!」



「せ、生徒会!? そうなんですか!?」



 驚いた。生徒会なんて雲の上の存在だと思っていた。こんなに身近にいたとは。というか、じゃあ今から行く所って……。



「そ。これでもう行き先は分かったよね? あと、小鳥遊くんももう敬語やめていいよ。ほら、同級生だし! これから同じクラスだし?」



 ゆーたん……行動が早すぎるよ……いや、生徒会に入るってのは賛成だよ?でも、次の日って。彼の行動力にはいつも驚かされるばかりだ。歩きながら僕も自己紹介をする。



「分かった。じゃあ僕からも自己紹介。小鳥遊 幸人といいます。ゆーたんとは仲良くさせて頂いてます。」



「うん、君の名前はしょっちゅう裕太から聞いてるからねぇ。『面白いやつだ』って!」



「え、変なこと言ってないよね!?」



「え〜? どうだろ〜?」



「ゆーたん……恨むよ……」



「冗談だって! やっぱ聞いてた通り、弄りがいのある子だね」



 彼女は楽しそうにあははは!と笑って言った。ゆーたんめ、一体何をどこまで話したんだ……!?なんかすっごい恥ずかしい。



「小鳥遊くんは、私のこと何か聞いてないの?ほら、悪口とか」



「え、佐倉さんのこと?って……いや、え、ぜ、全然聞いてない! 聞いてない、です!」


 『告白する』なんて話絶対に言えない。僕は全力で嘘をついた。



「絶対なんか聞いてるじゃん! 敬語に戻ってるし! ほら、()()()()()の事とか聞いてない?」



 ん?お姉ちゃん?それは本当に聞いていない。まぁご家族の話を勝手にペラペラと喋るのも失礼だし、彼なりの気遣いなのかも知れない。やはりゆーたんは気遣いがサラッとできるイケメンだ。見習いたい。


 彼女は楽しそうに続けた。こんなに明るいタイプだとは思わなかったけど、ゆーたんが好きになったのも納得だ。この2人なら一緒にいて笑顔が絶えないだろう。



「ま、いーけどねー。ほら、着いたよ。ここが生徒会室。京香さんに挨拶しっかりするんだよ?」



「が、頑張ります」



「そんなにガッチガチに緊張しなくても、京香さん優しいから大丈夫だよ、多分」



 緊張するに決まっている。相手はあのイケメン生徒会長なのだ。挨拶はしっかりしないと。うん。あと多分って何ですか佐倉さん。絶妙に怖いですけど。



 彼女はいつも通り、といったように慣れた手つきでコンコンコン、とドアをノックして開いた。



「書記の実咲です。京香さん今お時間大丈夫ですよね?……え、心の準備?そんなの大丈夫ですから、ほら、入れますよー?」



 入って入って、と手招きされた。でも声が少しだけ聞こえていたので突っ込ませてもらいたい。佐倉さん、軽くない? 相手はあの生徒会長様だよね!? もしかすると佐倉さんもかなりの豪胆なのかも知れない。……勉強になります。



 一度大きく深呼吸をして、「失礼します!」と言った。佐倉さんが隣で笑いをこらえている。すっごく恥ずかしい。普通、緊張するでしょ!?



「入りたまえ」



 全校集会などで聞いていた凛々しい声がすぐ側に聞こえる。ふあぁ。手土産とかいるんじゃないかな? 心臓は忙しく心拍音を鳴らすが、隣ではあっけらかんとして佐倉さんが笑っていた。


 やっぱり佐倉さん心強いよね! 師匠って呼ばせて下さい! いや、あの苦しかった滝行を思い出せ。精神統一だ。よし、いける。お前ならやれる。恐る恐る、僕は足を踏み入れた。



「生徒会室へようこそ。さぁ、君の願いは何だ?」



────凛。


 背筋はピンと伸びていて、眼光は僕の視線をしっかりと捉えていた。その迫力は、計り知れない。細くか弱いその身体に何故このような力が宿っているのか、僕は疑問に思う。有無を言わせないその態度。寛容さ。これこそが我が生徒会長である。後光が射して見える。あれ? 神様?



 その時だった。後ろで吹き出した音が聞こえた。



「ぷっ。あはははは! 京香さん、会長モードいいですって。慣れてないんだから、完全に威嚇してるだけですよ、それ」



「む、そ、そそそ、そうなのか? もしかして私は彼を怖がらせてしまったのか? …………援護してくれ実咲。この状況どうすればいい?」



「…………え?」



 か、会長モード?何だそれ。ってか美咲さんやっぱり軽すぎません?ごめんなさい、援護してください。美咲さん。僕もお願いします。援護ぉお!



「はーい、お茶淹れてきたよー? って、お客様? ほら、座って座って? カップもう一つ取ってくるね〜」



 カオス。そう、混沌である。


 ただでさえ援護待ちのこの状況に、お手伝いさん、もといメイドさんがひょいとやってきた。

 謎。もはや手が付けられない。


 さて、状況を整理しよう。こういう時は落ち着いてゆっくりと、そう。目を瞑って考えよう。



まず、生徒会長。えと、すっごいあわあわしてる。僕よりもあわあわしてる。え、二重人格? って思うレベルで変貌を遂げた。あれじゃただの天然系美少女だ。先程までの迫力は微塵までも感じられない。



 次に、佐倉さん。プルプルと震えている。あれは、そう。笑いをこらえているのだ。手のつけられないこの状況に、もう笑い飛ばしてしまいたくなる気持ちは分かるけどね。あはは。……ハハッ。


 そしてメイドさん。完全にメイドさんの風格だった。幻覚ッ!?いや、でもやっぱり見えたよね? 幽霊とかそういう類じゃないよね?あれは、そのアレ?僕の妄想?……やっぱり変態じゃん。



「……ごめんもう笑い死にそう。帰っていい?」



「……え、援護してくれ……実咲」



「佐倉さん、助けて下さい」



「お茶どうぞ〜。あ、砂糖はいくつ欲しい?」



……あ、2つでお願いします。



さて、生徒会メンバーが揃って参りました。


会長、書記、メイド、



……メイド?

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