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3話『逆方向だよ』

「あ、そういや幸人っていつ天野さんとそんな話したんだ?」


 照れていた様子からぱっと切り替えて彼は質問を投げかけた。いつものハンバーガーのセットはお互いに既に無くなっていて、ドリンクをちゅーと吸ってから質問に答えた。



「え、昼休みだけど」



「ん?昼休みって、天野さんは確か保健室だよな?男子は面会禁止って言ってなかったか?」



 彼がきょとんとした顔を見せる。ん?おかしい。僕が保健室に行った時は、むしろ無理矢理中に連れられたような気がする。もっと言うといきなり2人っきりにされた覚えがある。面会禁止なんて……



『ごめんねー、男子は面会禁止なの』



 っと。しっかりと耳に残っていた。保健室の先生の気だるそうな声だ。あれ?じゃあ僕は何で入れたんだ?


 むしろ、男子が面会禁止の理由は何だ?思い当たらない。さやちゃんは起きていたし、特に熱っぽさは無かった。となると……あぁ。分かった。男子が何人も来ると対応が面倒だったのだろう。仕方ない話だ。なんといってもさやちゃんは学年のアイドルなのだ。面会が握手会に変化するのは目に見えて分かる。



 でも、この説は僕という存在だけで破綻する。1人くらいなら会っても良いだろうなんて理屈が通じる訳が無い。じゃあ、他の男子は何て言われて面会を拒絶されたのだろうか。



「昼休みにさやちゃんのお見舞いに行った人ってなんて言ってたの?」



「あー、確か……うん。天野さんが寝ているからだったな。男子のやつが『寝顔超見たかったー!』って叫んでたしな……」



 手を顎に付け、目線を上に上げて思い出したように遠い目をして言った。うん。ドン引きだよね。


 もちろん、『天野さんが寝ていたから』というのは真っ赤な嘘だ。僕が入った時にはしっかり起きていた。



と、なると……なんで僕だけ入れたんだろうか。



「俺さ、やっぱり天野さんは幸人のこと鬱陶しくなんて思ってなかったと思うぞ?」



「そんな訳、ないじゃん」



 5年前、さやちゃんは僕にそう言ったのだ。間違い無い。だって、さやちゃんは正論しか言わないのだ。あの日の言葉が蘇る。僕は、嫌われていたんだ。ずっと否定されてきた。……弱かったから。



彼は続けた。



「だってさ、そんな鬱陶しいやつに会いたいなんて思うか?面会だって他の男子と同じ理由で断れただろ?」



「それは……そうかも、だけど」



 もちろん、ゆーたんが間違った事を言っているとも思わない。でも、否定されてたのも確かだ。もし、もしそうなら、どうして今更僕に会いたいなんて思ったのだろう。



『お願い、さやちゃんって、呼んで?』



 パッと思い出した。目を見開く。どうして、何で、あんなこと言ったんだろう。そもそも話すのが5年ぶりなのだ。僕からの呼び名なんて、忘れてしまっていても何もおかしくない。



 そもそも、そんなお願いなんてされなくても呼ぶに決まっている。まるで僕がさやちゃんと呼びたくないみたいな言い方をした。


 もしかしたらさやちゃんは何かを勘違いしているのかも知れない。そんな事を思っていた時。



彼がとんでもない事を言い出した。



「まぁ、もしそれが本当なら、俺は天野さんのこと普通に軽蔑するけどな」



「は?な、何言ってんの?」



「や、だってそうだろ?1人で泣いてたのを心配して一緒に居たのに、いきなり鬱陶しいだ?ふざけんなよって話だろ?」



「待ってよ、悪いのは全部僕で……」



「幸人は悪くねーよ。親友が断言する。お前は、悪くない! むしろ人に誇れることをしたんだ! 胸を張れ! ドヤ顔を決めろ!」



 彼は、ドンと胸を叩いていつものドヤ顔で言った。親友、だってさ。恥ずかしげもなく言ってくれる。全く、恥ずかしい奴だ。だけど、世界一カッコいい親友だ。って、恥ずかしいのはどっちだ。



「いや、ドヤ顔はしないけどね。……ありがとう。もうちょっと、色々とさやちゃんと話してみるよ」



 笑ってゆーたんの方を見てみると、ゆーたんは意外そうに僕の顔を見て、ニヤニヤとした。なんだなんだ。



「な、なに?」



「いやぁ?別にぃ?なにもぉ?♡」



「きもっ」



「ちょ、いや、悪かったよ? うん、わかる。でもね?ストレートは効くんだよね。うん。もうちょっとね、変化球とかね? ほら、ボールでいいからさ」



 んねっ?と、いつものノリでやっている。なんだかんだもうこのノリも気に入ってしまっているのもどうかと思う。


 というか、何でゆーたんはニヤニヤしたんだろうか。結局はぐらかされたままだ。まぁ、いいか。



 そうしてどうでもいいことを面白おかしげに話し合って、そうしているうちに時間はあっという間に過ぎていって、僕らは別れた。



「帰り道、分かるか?」



 なんてバカにしてくるものだから、ふざけてのっかって



「分からないや〜、教えて〜?」



なんて言ってやると、奴はくくっと笑って、悪い笑みのまま、言った。




「まんま俺と()()()だよ。分かるだろ? ……ったく」



 と、やれやれと言った風に言いやがった。これくらいが丁度いい。どうせまた明日顔を合わせるのだ。別れは軽くでいい。そんな気持ちで手を振った。



ゆーたんは僕に大きく手を振って見送った。



僕も大きく手を振って応じた。


ドヤ顔を決めろっ!(どやぁ)

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