2話『答え合わせ』
ゆーたんと僕はいつも通りの『恋愛相談会セット』の注文(僕は追加でポテトを頼んだ)を終え、席に着いた。
しかし、僕は注文する時からずっとさっきの例え話について考えていた。
『さて、幸人くんには何が足りないでしょうか?』
この質問に対して、僕の答えた『駅までの道のり』が正解であった。が、本当にそうなのだろうか?この問題の答えは一つではない気がする。
何故なら、『じゃあそれが正解だな』からの『じゃあ』でわかる事だが、答えが決められていないということだ。今更気づいたが、あの時ツッコミを入れるべきだった。
では、僕に足りないものは「駅までの道のり」以外に何がある?いや、そうじゃない。「駅までの道のり」が二つ以上の意味を持っている可能性も考えられる。
そもそもこの例え話において、「帰り道」自体が何を表しているのだろうか。
帰り道、ということは当然だが僕の家がゴールだ。じゃあ『マッカに寄り道』は僕にとってどういう意味を成す?
『ちょっと道が逸れただけ』
……これだ。
ゆーたんは「道が逸れた」を直接的に「寄り道」として例えたのか。ゆーたんらしい直接的な例えだ。
じゃあ道が逸れたというのは僕にとってどういう意味か。これは委員会決めの時に教えてもらった。
『努力の方向性』の話である。この時のゆーたんの話を思い出そうとすると、さやちゃんがムキムキになった姿が脳内に出てきた。やめて、サイドチェストするのやめて。さやちゃん。
……脱線したけど、確かこの時の話は、「今までの努力は案外間違いじゃない」が答えだった。
なら、この話をもう一度帰り道に当てはめると。
「帰り道の途中でマッカに寄ってしまうこと」が「努力の方向性を間違えてしまうこと」に当てはまる。なるほど。分かってきたぞ。
あの時ゆーたんは、僕に対して「めちゃくちゃカッコいい」と言った。これは、まぁ。お世辞だろうけど。
ただ、帰り道の途中、というかむしろほぼ目の前に駅があるこのマッカという場所は、ほとんど道を間違えていないことを示す。だけど、それはおかしい。だって僕は『変わらなかった』のだから。
じゃあこれを踏まえた上で、僕の家、つまりゴールは何を表すのか。それは、多分。
「理想の、自分?」
そうだ。ゆーたんは委員会決めの時に僕に言っていた。『最終目標が見えない』と。
つまり僕の家は、最終目標、つまり『理想の自分』に当てはまる。
え、じゃあ『駅までの道のり』は、え?なんだ?
……僕はてっきり『駅』が目標だと思っていた。が、僕の目標は『家』だった。駅は僕にとって何を表す?電車?
いや、むしろ『駅までの道のり』が全然解決していない。『家までの道のり』なら分かるのだが。
理想の自分への道、つまりこれからの努力や行動のことだろう。多分。間違ってたら恥ずかしいやつだな、これ。
だが、やっぱり『駅』が分からない。答えは一つではないことも含めて考えると……
「ー?きとー? ゆーきーと!」
「んぁっ? 何? ごめん?」
ゆーたんに揺さぶられて意識を向けた。ったく。と大きく溜め息を吐いた。眉を上げて仕方ねぇなぁ。と言った風だった。
正直に降参だ。ゆーたんの考えは読み切れなかった。きっと賢い彼はその事を悟ったのだろう。悔しいなぁ。
「おい、まだいただきますといつものやつがまだだろ!全く、仕方ない奴だなぁ。まぁお腹減ったのはわかるけどさー!」
「違うし違ったよ。いやもう、大きく違ったよ」
あれ?僕っていつからツッコミキャラになったんだった?賢い彼なんて考えた僕がバカだった。逆に悔しい。むしろダブルで悔しい。
気を取り直して手を合わせた。
「「いただきます。」」2人で挨拶をする。そして、
「恋愛相談会、開幕だな!」
と、いつものように超ドヤ顔で言った。絶対にツッコまないから。
「……いやん、恥ずかしい。なんか言ってよダーリン♡」
「スミマセン、ヨクワカリマセン」
「Siriになって回避しようとするのやめて!?いや、なにその回避方法、予想外なんだけど!」
騒がしい奴だ。全く。はっ?いや、全然楽しくなんてないけど。勘違いしないでよね!(誰得)
「んで、早速なんだけどさっきの例え話の答え教えてさ。結構考えたけど無理っぽいんだよね……」
「あーそれでさっき難しい顔してたのか。てっきり腹減りすぎて精神崩壊したのかと」
「逆にその発想に至った訳を知りたいよね。一緒に教えて?」
ゆーたんは、わはは!と大笑いしてから上機嫌でポテトをつまみながら答えについて話した。僕のなんだけど。おい。
「っと、まず帰り道が幸人のなりたい自分への道ってのはわかったんだよな?」
うん、と頷いて続きを促す。少しゆーたんは嬉しそうだ。ふんふんとゆーたんも一緒に頷いて続ける。
「なるほど、んじゃああれか。分からなかったのは『駅までの道のり』か」
「そう!それ!『駅』ってなんなの!?」
「まぁ難しいよなぁ。特に鈍感幸人くんには厳しい問題だったな」
ど、鈍感幸人くんて。ツッコミを全力で我慢して、続きを聞く。
「まぁ、まずはマッカから駅までの道のりについての話をしようか。注目するのは、俺だよ」
「ゆーたん?」
素っ頓狂な声が出てしまう。予想外だった。
「そ。俺はこの近所だから電車は乗らない。あと店員さんも流石に電車まで一緒にって訳にはいかないだろ?そゆこと」
つまり、『駅』いうのは『ゆーたんが干渉できる範囲』を指すということか。では、『駅から家』は1人で行動する事を意味する。なるほど。
「あと、駅といえば、電車だ。電車は歩くよりも圧倒的に早いだろ?そゆことだ、簡単簡単」
「どゆこと」
反射で食い気味についツッコミを入れた。そゆこと。じゃないし。全然分からない。
「まぁ、そうだな……これは自論なんだけどさ、何かを達成しようとするとき、1番効率がいい方法って知ってるか?」
「え、地道な努力でしょ」
「そりゃあ幸人らしいな。……まぁ俺の自論だし、答えかどうかは知らないんだけど、1番効率が良い方法ってのは、その道の上級者に尋ねる事だと思うんだよな」
幸人らしいな、とゆーたんはまた上機嫌に笑った。でも、ゆーたんの自論はかなり説得力のあるものだった。
一理ある。どころか、百理くらいある。分からない事をがむしゃらにやるより、ある程度経験を積んだ人に聞いた方が効率が良いに決まっている。
「んで、幸人に生徒会に入れって言ったのもそういうことだ」
「つまり、生徒会には僕に丁度いい先生がいると」
「その通り!幸人も知ってるだろ?うちの生徒会長と副会長、超イケメンじゃん?」
そういう事か。だからゆーたんは僕に生徒会に入れって言ったのか。つまり、僕は生徒会に入る事でイケメンになる方法を教われば良いのか。
『効率が良い』これは、『徒歩と電車』という事か。生徒会のイケメン2人に教わるなら、そりゃ特急電車だろう。
それで、駅と電車。謎が解けてすっきりした。でも、ゆーたんもイケメンなんだから教わりたいことはいっぱいあるんだけどなぁ。だが恥ずかしいので言わない。
「幸人に足りないものの中でトップクラスに強敵だから、しっかり頑張れよ?」
「それ失礼じゃない?」
頬を引きつらせながら言った。
「いやいやいや、ホントのことだろ!幸人に足りないもので1番ヤバイやつ。まぁ言っちゃうと『自信』のことだな」
予想外。確かに生徒会のお2人様は自信に満ち溢れていると思う。背筋をシャキッと伸ばしてハキハキと目を見て話すその姿。また観衆の前でも物怖じしないその豪胆。どちらも相当な『自信』がなければできない所業だ。本気で尊敬する。
「俺からはアドバイス程度に『知識』と『経験』そっから生徒会で『自信』を付けたら、そりゃもう理想の自分なんて目の前だろ」
どうだ?分かったか?と、ドヤ顔で僕の方を見た。く、悔しいけど抱えていたモヤモヤは全部解消された。これからやるべき事、なすべき事、それから理想の自分までほとんど決まってしまった。
流石の一言である。ホントに頼りになる親友だ。
『アドバイス程度』なんて謙遜するレベルでは無い。心の底からゆーたんがカッコいいと思った。
「ゆーたん、本当に相談して良かった。ありがと。頼りにしてるよ」
本心だった。素直な気持ちが出てきた。少し照れたけど、それでも言うべき言葉だ。ありがとう、ゆーたん。
「んなっ、なっ、いや、そこはドヤ顔についてツッコむところだろ!?た、ったく、幸人は仕方ねえやつだな。うんうん」
そんなゆーたんはかなり照れていた。いつものキレが無い。噛み噛みだし。ゆーたんみたいになりたいと思った。冷静に色んなことを判断できて、的確に言葉にできるカッコいい男。
まさに、理想の自分だった。
言動は少し腹が立ったが、腹立つくらいが浮ついた心に心地よかった。
ゆーたんと友達になれて、良かった。そう思った。
まだマッカ回は続きます!
幸人のこれからの方針が決まる重要な回でした。
これからも全力で更新頑張りますので、良ければ是非是非ブクマ、感想等宜しくお願い致します!!