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11話『涙とタオルと夢』

 突然、涙が溢れた。


 へ?なんで?


「へ? な、なんで……?」


 つい心の声がそのまま出た。何故か、何故か涙が、止まらない。


 いつもなら全然泣かずに我慢できてたのに。……傷なんて、いくらでも受けてきたはずなのに。なんで、よりにもよって幸人の前で。



……いや、違う。



 傷を受けていたのは、幸人の方だ。そして、その傷を付けたのは……私だ。


 もう、嫌だ。私、気持ち悪いだろうなぁ。挨拶に来て、いきなり泣かれて。勇気を出してしたことが全て裏目に出てしまう。


 あぁ、もう。涙が止まらない。恥ずかしい。泣き顔なんて見せたくないのに。


 馬鹿だなあ。私。



 消えてしまいたい。



 俯いて、ただ立ち尽くす私に。ふわっと、タオルがかけられた。



「姉崎さん! ほ、保健室! 連れてって!!」



 幸人の大きな声が聞こえる。その後すぐに寧々は私の手を取って廊下に出た。歩きながら焦ったように尋ねた。



「大丈夫!? どしたの!?」



 私の手をぎゅっと握ってくれた。あーもう。ほんと寧々は優しいなぁ。こんな私、放っておけばいいのに。



「……ごめん……ね。迷惑かけたよね」



 俯いたままで答えた。喉が締め付けられて上手く声が出せない。


「……こりゃ重症だわ。ほら、保健室いくよ」


 少し間を置いて、呆れたようにため息を吐いた。手は、ぎゅっと握られたままだった。



 今は寧々の優しさが胸に刺さって痛かった。気持ち悪い私を責めて欲しかった。なのに。



「あのね、沙耶。女の子が涙を流してて、それが男の前だったら100%男が悪いんだよ。沙耶が自分を責める理由は全く無いから安心して。……まぁ、あのオロオロしてる様子とそのタオルを見るに多分、小鳥遊あいつが何かやらかしたって訳でも無さそうだけど。」


 寧々、優しすぎだよ。悪いのはぜんぶ私なんだって。でも、少しだけ楽になった。ありがとう。


 そういえば、タオル。幸人のだったんだ。他の人に泣いてる姿を見られないように、かな。


……優しいなぁ。ほんとに。何でこんな私に優しくしてくれるんだろう。そういえば、ただ訳もわからずに立ち尽くしてた私に寧々を呼んでくれたのも幸人だった。


 私は、幸人のそういう優しい所が大好きなんだよ。


 ──瞬間、胸にぎゅううと痛みが走った。ダメだよ。こんな気持ち、持ってちゃいけないのに。……持ってちゃいけないのに、なぁ。


 気づくと既に保健室の前に居た。寧々が保健室の扉をノックし、扉を開いた。



「2年2組の姉崎です。すみません、友達の調子が悪そうなので診てやって下さい」



「えぇ、大丈夫? とりあえず熱はかろっか?」



 先生はよっこらせっと。と、女性ではありえない声を出して椅子から立ち上がり、私に体温計を渡した。


 熱を測ってみると、37.3℃と、微熱があった。別に体調も悪いことは無かったし、健康だと思っていたので驚いた。


 先生にそれを見せると、先生はなるほどね……と呟いて、とりあえず次の授業はベッドで寝ているように、と指示した。すると寧々が突然馬鹿げたことを言い出した。



「あ、先生ー? 男子生徒は完全に面会禁止で。あ、小鳥遊は除いて」



こんな時に何言ってんの寧々! 恥ずかしいよ!?



「ふうん、了解。まぁこれだけ可愛かったら寝顔見たくなっちゃう気持ちも分かるけどねー?」



 いやいや、了解じゃないし! ってその気持ちも分からないで!? なんてツッコミをする余裕も無く、心の中で叫んだ。



「まぁ、そういう事で授業行ってきます。沙耶、後でね!」



 後でね! にかなり念がこもってた。きっと後で色んなこと聞かれるんだろうなぁ。でも、きっと寧々なら優しく頷いて聞いてくれるんだろうな。なんて。やっぱり私、体調悪いのかな。



 そうして寧々は足早に立ち去った。先生は隣の部屋にいるらしく、保健室は驚くほど静かだった。

涙でぐちゃぐちゃになった顔をタオルで拭こうとした時、ふとそのタオルの香りが気になった。


 どこか懐かしくて、とても安心する匂いだった。

そのままタオルに顔をうずめてすぅーと息を吸うと、とても安心した。幸人の胸に抱かれているような気分になって、ただただ幸せだった。


……って、へ、変態じゃん! 顔が赤くなるのを感じる。私にこんな一面があったなんて……と恥ずかしくなった。や、で、でも……もう一回だけ……。


 一応周りをきょろきょろと見回し、またぼふっと顔を埋める。いい匂い……! 足をバタバタさせる。幸せすぎでしょ……! なにこれ!?


 またもや安心した気分に覆われて、そのまま睡魔に襲われた。あぁ、このまま寝ちゃおう。


 ゆっくりと目を瞑ると、そのまま意識を失うのにあまり時間はかからなかった。





────夢を見た。それはそれは幸せな夢だった。




 そこでの私は幼くわんわんと泣いていて、隣に昔の幸人がいた。


 大丈夫、大丈夫。と背中を優しくさすってくれる幸人。丸まって、小さくなって、ぐすっ。と泣いている私。私は後ろから私と幸人を見ていた。


 あぁ、懐かしい。昔の幸人だ。困ったようにただひたすらとくん、とくんという心音に合わせて背中をさすってくれた。


「……あんたは、私から離れないの? 私のこと、嫌いにならないの?」


 ぐすっ、ぐすっと鼻をすすって尋ねる。


「なるもんか。……だって、さやちゃんのこと好きだもん」


 彼は照れ臭そうに顔を赤くして笑った。懐かしい、人懐っこい笑顔だ。ほんとに可愛い。


 幼い私は顔を真っ赤にして目を見開いた。こっちも初々しくて見てらんないや。


……さやちゃん、か。懐かしいなぁ。また、こうやって呼ばれたいな。



「……は、恥ずかしいこと言うな! 気持ち悪いのよ! ばか!」



「えへへ、ごめんね……? でも、絶対に嫌いになんてならないから」



 ん、んなっ!? 気持ち悪いって何よ!! 幸人すっごい可愛いじゃん! なんでこんなに素直になれないかなぁ……。


 幼い私がこんな酷いことを言っているのに、また幸人は自嘲するように笑った。


 心が、痛くなった。



『絶対に、嫌いになんてならないから』



 その言葉を聞いた私は、夢の中で涙を流した。そんな彼を嫌いにさせてしまったのだ、私は。



 対して幼い私は、もう目一杯に顔を赤くして、彼を睨みつけた。嬉しいくせに。


「絶対、だからね。嘘だったら許さないんだから!」


 なんて言い捨てて、彼の身体にその赤い顔をぎゅううと押し付けて隠した。


……あぁ、このときの匂いか。そりゃ安心する訳だ。だって、ほら。私すっごくにやにやしてるもん。はぁ。全く。


 幼い私が羨ましい限りだ。側で見ていた私は、泣き顔で笑った。


 幼い彼は、そんな私を見た。くりくりと大きな目で私の瞳を貫いた。


 私は彼と突然目が合って驚いた。が、そのまま彼は私をじいっと見つめた後、くしゃりと顔を歪めた。


 彼は、()()()の顔で私に尋ねたのだった。


「天野さんは、まだ僕のこと嫌い?」なんて。



私はドキッとして目が醒めた。




好きな人の匂いってめちゃくちゃ安心するんですよね。


少しくらい汗臭くてもそれはそれで全然嫌じゃなくて、むしろ愛おしく感じるんです。



え?変態?…え?


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