10話『幸人にとって私は』
長くなっております。すみません!
寧々と軽口を叩きあいながら、そういえば幸人は何してるんだろう。と、チラッと幸人の方を見ると、片桐くんと2人でとても真剣そうに、むむむ……といった表情をして話していた。
な、何話してるんだろ。気になる……!
でも話しかける勇気はまだ無いので、とりあえずぐっと堪えておく。そこで先程気になった事を聞いてみる。
「あ、そういえば寧々は好きな人とかいないの?」
「えー、あたしはなぁ。恋愛にそんなに興味無いっていうか……」
「え、大人だね……! 初恋とかはないの?」
「んー、特にない、かな? まぁでも好きな人とどうこうしたいって気持ちは分からんでもないから、一応脳内シミュレーションはしてる」
「脳内シミュレーション」
思わずおうむ返しである。脳内シミュレーション。何それ、逆に気になる。っていうか寧々ちゃん初恋もまだなんだ。意外……。
「その、シミュレーションって例えばどんなの?」
「え、そんなこと聞いちゃうの? 沙耶って意外とえっちいんだね」
「え、えええ、え、えっちちゃうし!」
「ふ、ふふっ、謎の関西弁出てきたし! キョドりすぎでしょ……!」
あはは! と寧々は堪えきれなかったように大笑いした。なんか負けた気分だ。も、もうっ! 寧々!! 意地悪っ!
え、えっちな妄想とか……そんなの、えっと、興味はある、けど。しないもん! ばか!
顔が赤くなるのを感じる。恥ずかしい…。
そうしていると、休み時間もチャイムの音と同時に終わりを告げ、委員会決めの時間となった。伊藤先生は号令をかけ、早速委員会を決めることにした。
「んじゃ、早速、委員会決めていこっか!」
女性なのに案外サバサバした先生である。とにかく軽い。
「まず、委員長と、副委員長だね、はいやりたい人挙手ー!」
皆が皆の周りの人を見回す。「誰がやるんだろ……」といった好機の目である。
私はこういう責任職はやりたい人がやるべきだ。と考えているので、正直やりたくない。謎の緊迫した雰囲気が周りに張り詰めた時、先生が声を上げた。
「あ、ちなみに立候補者が居なかったら私が独断と偏見で勝手に決めるからね。もちろん強制だよ?」
ええっ!? 独断と偏見!? そ、それは困る。私は何かとこういった役目に回されがちなのだ。
だ、誰か……立候補! い、居ないの!? 周りを見渡してみると、やはりみんなも同じようにだ、誰かやれよ! と、ざわめき出した。
そんなとき、1人の手が上がった。あ、あれは……!
……誰? 男の子である。正直感謝しか無いが、名前はいまいち出てこない。とりあえずありがとう。
「よっし、委員長は藤沢くんだね! はい皆拍手〜!」
ぱちぱち! と大きな拍手が浴びせられる。あ、藤沢くんって言うんだ。
やはりみんな安心したのであろう。もちろん、私もだ。拍手が一通りやむと、私たちは驚きの目を先生に向けることとなる。
「んじゃあ、藤沢くん、後の委員決めは任せた!」
衝撃の一言が先生から発せられた。き、鬼畜! せめて副委員長だけでも決めてからで良かったじゃん! 1人で前に出るのなんて緊張するに決まってるよ! 藤沢くんもポカーンってなってるじゃん! そりゃそうだよ。
しぶしぶ……といった感じに藤沢くんは前に出て恥ずかしそうに声を上げた。
「え、えーっと。じゃあ副学級長を決めます! 挙手お願いします!」
声が裏返っているのが分かる。うわぁ、可哀想……でも彼は私たちの犠牲となってくれたのだ。合掌。ってあれ、結構手上がってるじゃん。
お、女の子ばっかり。全員が戦に向かう目をしている。藤沢くんモテるんだろうなぁ……。苦笑いするしかない。
でも、好きな人と同じ委員に入りたいって気持ちはすっごく分かるから、心の中で少し応援した。頑張れ! 藤沢くん! ……あれ?
こうして魂の死闘を終え、副委員長が決定した。勝ったと思われる女の子はキャピキャピしていた。それを見ないふりで全力スルーを決め込んでいる藤沢くんはええっと、次は……? と声を出した。……うん、合掌。
するとどこかみんなの空気がピリピリしているのを感じる。まぁ、やっぱりみんな保健委員やりたくないんだろなぁ。保健委員は地獄ってよく聞くからね……。
「えー、専門委員決めて行きます! えーまずは、ほ、保健委員かな?」
前に立つことに慣れてきた藤沢くんであったが、やはり保健委員という地雷を発言するのは気が引けたようだ。
辺りのピリピリとした空気が酷くなる。シン……と静かになったその場に見かねた藤沢くんは苦笑いで声を上げた。
「え、えーと。保健委員は後回しにします!」
まぁ、そうだよね。ふう。と溜め息をついた時。突然の出来事だった。
「はいはーい! 藤沢いいんちょー! 僕部活あるので、保健委員なんて入れないです〜!」
か、片桐くん!? なに言ってんの!? 部活やってるやってないに関わらず保健委員はやりたくないのだ。
それに、部活をやっているからという理由で保健委員を断るというのは余りにも傲慢である。他にいくらでも部活をやっている人はいるのだ。皆も何いってんの!? と、ざわざわしていたが、ついに怒号の声が上がった。
「おいっ! 片桐! お前だけずるいだろ! 俺も部活あるし!」
「私もあるもん! 保健委員なんて無理だよ!」
「俺もだぞ! ふざけんな裕太!」
「しばくぞ裕太!」
可哀想だけど皆の方が正しい。ヒートアップしていくクラスメイトにえ、え。とあたふたして彼の方を見てみると。
彼は、ニヤッと笑った風に見せた。
きっと、私しか気づいていないのではないか。一瞬の間だった。……とても(気味が)悪い笑みだった。これってもしかして……罠?
すると、彼はやれやれ。と肩をすくめて立ち上がった。ざわめきが少し治まる。そしてゆっくりと彼は声を上げた。
「待て待て落ち着けお前ら。部活に入ってない奴が、一人だけいただろ?」
彼はゆっくりと幸人の方を向いた。皆の視線も自然と幸人の方を向く。う、上手い! これじゃあ幸人に保健委員になれと言っているようなものだ。なんて人だ。たった1人の帰宅部の人に押し付けるなんて! 最低だ!
って、帰宅部……? え、私もなんだけど……!?
「なァ? 幸人?」
彼の顔は見えなかったが、幸人のうわぁ……というドン引きの反応を見るに相当気持ち悪かったのだろう。
幸人は思わずその衝撃で黙ってしまう。そして、その一瞬をクラスメイトは見逃さなかった。暴言の矛先は幸人に向けられる事となる。
「そうじゃん! 小鳥遊やれよ!」
「どーせ暇なんでしょ!」
「しばくぞ小鳥遊!」
ひ、酷い…。この雰囲気のせいで私も帰宅部だなんて言えないし。周りの反応におろおろと困った顔をした彼は、ため息を一つ吐いた後、仕方ない。と言った風に声を上げた。
「わ、わかったよ。やる! やるってば!」
幸人が受け入れると、私が声を上げる間も無くあっさりと黒板に小鳥遊と名前が書かれた。拍手が大きく盛り上がる。
……決まってしまった。でも、待って。これって実は滅茶苦茶チャンスなのでは無いだろうか。私には『帰宅部』という口実が出来て、尚且つ他に敵なんて居ない保健委員。
────幸人と同じ委員に、入れる?
気づいて、すぐに声を上げようとして、やめた。……怖かったのだ。彼に拒まれるのが。この臆病者め。何で私はこんなにも弱いのか。勇気を出せ、私。こんな願っても無いチャンス、二度と無い。
5年分の後悔を思い出せ。私はずっとこのチャンスを捨ててきたんだ。だから今だけは、勇気を下さい。
「あ、あのー! 私も帰宅部なんだけど……みんな無理そうなら、保健委員入るね?」
手を挙げた。周りの驚愕の目が私に向く。拍手の音はピタリと止んだ。は、はずかしい……!
すると何故か、周りの目は片桐くんに向けられた。ざわめきが起こる。わけがわからない。私と幸人が同じ委員に入ることはそんなに緊急事態なのか。(緊急事態)
すると名前も知らない男子が声を上げた。
「いやいやいや! 天野さんはいいよ! 大丈夫だよ!」
いやいやいや! 大丈夫じゃないよ! 私がやりたいんだよ!! 名前も知らないのに、何故この人に断られないといけないのか。私は思わず睨みつけた。
対して片桐くんがすぐに声を上げた。
「え? じゃあ誰がやるんだよ。お前やるんだよな?」
的確な意見である。代わりにその子が保健委員をやるしか無いのだ。皆は『帰宅部』という理由で幸人に押し付けてしまったのだから。
その男子はそ、それは……と苦い顔をして席に座った。自分がやるとなれば話は変わる。まぁ保健委員は部活がある人には大変だろう。
なんとか、私は保健委員に決まった。私は仕方なく入ったという大義名分を手に入れたので苦笑いの顔を作っていたが、心の中ではもう嬉しすぎて飛び跳ねそうな気分である。
幸人と同じ委員に入ることができたのだ。例えその委員が地獄だったとしても、幸人との共同作業と考えれば天国である。そしてこれまで必死にあれとれと考えていた『話す理由』ができた。これできっと、謝ることが出来る……!
問題の保健委員以外の委員は次々とスムーズに決まっていった。藤沢くんも保健委員が決まったおかげかどこか安心していた。な、なんか迷惑かけてごめんね……?
その様子をニヤニヤして見ていた先生が終わりの号令をかけて、休み時間となった。
私は、幸人の所へ挨拶に行った。ほかのクラスメイトの方も同じ委員の人と挨拶をしていたから、何も不思議に思われないだろう。た、たぶん。
……本当に、久し振りに話すなぁ。嫌がられないかなぁ。昔っからずっと優しい幸人は、恐らく笑って返してくれるだろう。
最初は軽い挨拶でいい。これから話していけばいいのだ。そしたら、きっと、また。笑って一緒に居られるから。そしたら、そしたら好きだと言おう。きっと勇気を振り絞らないといけないけど。
だが、幸人の返答は、そんな私には余りにも残酷なものだった。
「こちらこそよろしくね、天野さん」
昔からはかけ離れた、無理に作ったような引きつった笑顔だった。それに、天野さんかぁ。
……初めて挨拶したみたいだね。
……馬鹿みたいな妄想をしていた私を殴り飛ばしたい。現実が見えていない。余りにも、余りにも甘い。分かっているつもりで、何一つ、何もかもが分かっていなかった。
私は、私は、もう。
『嫌われてる』を超えて、『興味が無い』まで落ちていた。
『好き』の反対は、『嫌い』では無い。『興味が無い』だ。
私がよく実感している。興味のない人からの好意ほど怖いものは無い。
告白? はは。笑える。これなら、嫌われたままで良かった。避けられているだけで全然良かった。
私はもう、幸人にとって、
────ただの他人だったのだ。
涙が、零れた。
リアルの方が大変忙しくなっていて、なかなか更新ができにくい状況です。本当にすみません。
それでも更新できるよう、本気で努力して参りますので、どうか応援宜しくお願いいたします。
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