第7話 夏休み前日
夏季休みに入る前日になった。
クラスメイト達は明日からの夏休みに向けて浮足立っていた。
明日からの予定を友達に話す者、夏休みに遊ぶ約束をする者と様々だ。
そんな騒がしい教室内に担任の声が響く。
「明日からの夏休みを楽しみにするのはいいのですが、夏休みの課題は忘れないように!くれぐれも最終日にまとめてやるなんて事はしないように!」
そう釘を刺したのだった。
毎年毎度の事ではあるが、夏休みに浮かれ過ぎて課題をやらずに休み明けを迎える者達が一定数いたからだ。
その担任の言葉に一瞬にして静かになる教室。担任は間をおいて話を続ける。
「これで夏休み前のHRは終わりです。夏休みの登校日にまた会いましょう。家に帰るまでは夏休みではありません。忘れ物をせずに気をつけて帰りましょう。」
そう言って話を絞めるとクラスメイトが一斉に「「「「「はい」」」」」と答えた。
学校からの帰り道『那須デオコンダルランド』へ行くのを心待ちにしている美玖に話しかけられた。
「明日から夏休みだね!小学校最後の夏休みだから恵一と・・・ううん、みんなで楽しい思い出作りたいね!」
とびっきりの笑顔で話す美玖。美玖にとってこのイベントは恵一との距離を縮める最大のチャンス。
中学に入ってしまうと今のように同じクラスになれるかわからなければ、一緒に登下校したりできるかもわからない。ましてや中学からは部活動への参加を強制され自由になれる時間も制限されてしまう。
美玖にとっては小学校最後の夏休みにあやふやに感じる関係を明確にしたいと考えていたのである。
恵一は美玖の気持ちに知ってか知らぬか美玖がそれとなくアピールしてもスルーしたり素っ気なくあしらうような態度をとるなどが多く、美玖も周囲もその様子にはヤキモキしていた。
恵一本人としては、グラモスとして過ごした頃に創世の魔王クラリスに何時もされていた事と同じように対処しているつもりでしかなかった。
なにせ、クラリスのアピールは美玖よりも直感的で激しかったのとクラリス自身が素直に言葉にせず行動と言葉が合わない事が多く単なるじゃれあいでしかないと誤魔化していたのがあったため、その経験が大きくこのような態度になってしまっていた。
「そうだね。中学からは別の学校になってしまう仲間もいるし、同じ中学に入っても同じクラスになれるかわからないし。」
恵一は当り障りなく答える。
ただ、内心では何も起きない事を願い続けていた。
その恵一の態度に美玖は何かを感じたのか
「恵一、何か心配事でもあるの??」
もう少しで唇が重なってしまうかもしれないという距離で心底心配している表情でそう尋ねた。
突然の事に恵一は内心驚きを隠せなかった。
普段、君付けで呼ぶ美玖が君付けをせずにこのような行動にでるとは思わずドキッとしてしまったからである。
「ううん、そんな事ないよ!」
誤魔化すようにそう答えるも美玖に即問い詰められてしまった。
「『那須デオコンダルランド』に行くって話になってから、難しい顔をして何か考えている事が多いんだもの。何か心配事があるのかなって。」
続けて美玖は小声で「大好きな恵一が悩んでいるのは見てて辛いから・・・」と続けたのであったが、恵一にそれが聞こえていたかはわからない。
「そんな事ないよ。楽しみだから、どうしたらみんなでいっぱい楽しめるか考えてただけだよ。」
そう答え、無理やり笑顔を作り美玖を安心させようとする恵一。
まだ美玖には『本当に?』という顔で見られ続けている。
どうしたら安心させられるのだろうか―――必死に考えを巡らせた。
お読みいただきありがとうございます。
次話の投稿は8/4 20時頃を予定しております。
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夏風邪がなかなか治りきらなくて(´・ω・`)
しなくてもいい気苦労なんてしているから治り遅かったりして。
(まぁ、更新が遅いのは、私が鈍筆過ぎるだけなんですが。)