第6話 優待券
その夜、両親が帰ってきてから恵一は仲間達と『那須デオコンダルランド』へ行く計画がある事を伝えた。
恵一の両親は反対する事もなく、みんなとの思い出の為ならと快く了解してくれたのだ。
「そうだ、恵一、『那須デオコンダルランド』へ行くなら会社で優待券を貰ったのだがいるか?」
父親がそういうと1枚のチケットを渡してきた。
『××自動車組合員様向 那須デオコンダルランド 優待券 このチケット提示で8名様まで50%割引 ××年××月末まで有効』
そう書かれていた。
割引率の高さも不安を煽る。ここまで割引くのには何かある。そう思わざるおえなかった。
恵一は両親との話を終え、リビングで貰った優待券を見ながら考えに耽っていた。
『行かない訳には行かぬか。仲間達が良からぬ事に巻き込まれなければ良いのだが。』
優待券から目を逸らし、天井を見上げていると、風呂から出てきた穂乃果に声をかけられた。
「お兄ちゃん、何を持ってるの?」
「あ、これか?『那須デオコンダルランド』の優待券だよ。お父さんに貰ったんだ。」
「いーなー。穂乃果も行ってみたい!!」
「ごめん、穂乃果は連れていけないんだ。夏休みに入ったら友達と小学校最後の思い出で仲間内だけで行こうって事になってて。」
「ずるいー。穂乃果も行くー。」
「駄目。良い子にして留守番してくれたらお願い聞いてあげるから。」
「うーん、それなら我慢するー。穂乃果ね、お兄ちゃんが持ってるその腕輪が欲しいかなー。それくれるなら我慢するー。」
穂乃果に腕輪をねだれてしまった。
『まあこの腕輪はもう効力もないからあげても大丈夫じゃな。』
恵一は穂乃果に気がつかれないように腕輪に軽く魔力をかけてみたが反応がないのでその場では何も考えずあげる事にした。
「わかった。あげるから約束だよ。」
「うん、ありがと。お兄ちゃん。」
穂乃果は嬉しそうにしていた。
◇◆◇◆◇◆
翌日、学校で前日の話を仲間達に伝える。
「実はお父さんから優待券貰ったんだよね。」
仲間達は口々に喜びの声をあげた。
「マジで?!やった!!」
「高坂のお父さんって××自動車に勤めてたのか。あそこならこういう優待券貰えるって話聞いた事あるけどマジだったんだ。」
「うちのパパとママ、なんとかOKしてくれたけど、貰えるお小遣いだけじゃ楽しめるか心配だったから良かった!」
「俺のとこなんて、ああいうテーマパークは1日フリーパスは高いんじゃないの?って渋い顔しててOKしてもらえるかわからなかったんだけど、これなら説得できる!みんなと行ける可能性あがって嬉しい!!」
ここまで仲間達が喜んでいると『危険なとこかも知れないから考え直そう』とは絶対に言えなくなってしまっていた。
夏休みまであと2日。『那須デオコンダルランド』へ向かう日まであと5日の事であった。
◇◆◇◆◇◆
恵一は家に帰ると部屋に籠り考え事をしていた。
『最悪の事態になった時、我は何ができるのだろうか』と。
最悪の事態が起きない事に越した事はない。恵一の思い過ごしで済むのならばこれほど良い事はない。
『万が一に備えて、準備出来る事はあるのだろうか?』
考えても何も思い浮かばない。
そうしていると効力を失っていたと思われた腕輪が薄っすらと光りだしていた。
『魔力を加えても反応がなかったハズじゃ。もしやこの腕輪は我の思いに反応しているのか?』
そう考えていると腕輪が何かに答えるように光を弱めたり強めたりして答える。
『そうか。魔素を集め魔力に変える能力を失っていても我に力を貸してくれるのか。頼もしいの・・・。お主は我の代わりに大切な者を守ってくれるのか?』
腕輪は『はい』と言わんばかりに光っていた。
ただ、腕輪は2本しかない。1本は穂乃果にあげる約束をしてしまっている。
残り1本を誰にあげればいいのか―また一つ悩みが増えたのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次話の投稿は8/2 20時頃を予定しております。
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最近、精神的に疲れているのかクラシックを聴きたくなる事が増えてしまいました・・・。
一部の友人が某事件の影響かはわかりませんが洒落にならない事を冗談とは思えない口調で言うのも疲れの原因になっていそうです(´・ω・`)
とりあえず、ハネケンのピアノで癒されながら続き書くようにします。