時に流されて
スースーした臭いの部屋の中で、白い服を着た人たちが、行ったりきたりしてる。
「シュミレーションテスト、結果良好です」
ツルツルの頭のおじさんがお父さんにお話しした。
「エネルギー循環機構、問題ありません」
次は茶色い長い髪のお姉ちゃんがお父さんにお話しした。
「最終確認入ります」
「うむ」
あ、お父さんがこっちに来た。
「ヤヤナヘ、お父さんについてきなさい」
「はーい」
手をつないで、白いイスが置いてある箱みたいなものの中に入った。
「そこに座りなさい」
「はーい」
そこの白いイスに座った。
「いいかい? いいっていうまで出てきちゃだめだよ?」
「はーい」
そう言ったら、お父さんは箱の中から出て行った。
「最終確認、完了です。いよいよですね」
「ああ、あの子のためだ」
箱の入り口が、どんどん狭くなってく。
「ヤヤナヘ、元気でな」
最後に聞こえたお父さんの声は、入り口の小さな穴からギリギリ入ってきた、私の名前だけだった。
「……」
「思念具現体、出現しました!」
「よし、研究は成功だ!」
人、人、人。周りの人は何か騒いでいる。
「ああ、君。ねぇ」
ん。なんだこの人間。少し距離をおいて話しかけてくる。
「私は、タタナミだ。お前の父親なんだよ?」
父親。私の。
「……その顔は、記憶は移ってないようだね」
「なにか、申し訳ない」
「いやいや、謝ることではない。予想はしていたからね」
「そうか」
「うん。君に記憶はなくても、何をするかは、分かるだろう?」
「世界を知ること。この箱を守ること」
「そう。来るべき時が来たときのために、ね」
「了解した」
私は、たぶん何かに利用されているのだろう。しかし、それは私には関係ない。『世界を知ること』と『この箱を守ること』が出来れば、それでいい。
話が終わると、タタナミが近づいてきた。
────キッ────
「あ、あぁあぁ。悪かった。君の防衛本能器に刺激を与えてしまったようだね。大丈夫、危害は加えないよ」
────スッ────
「剣をしまってくれてありがとう」
腕が、髪が...人のそれではないものに...。
「それが君の力なのさ。護るための、ね」
「護るための力...」
そう。私たちが死んだ後も、ずっとその箱を頼むよ。
────*────*────
父親タタナミは、生前そんなことを言っていた。
記憶回路の整理が完了した今、また私は、今日を記録する。
ある大陸の、野原の岩上で。
あの日と、同じ場所で。