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第七部 暁の鉱山

「(もぐもぐ)」

牡蠣のホワイトソース和え…私の舌には、あまりに高尚な食べ物だが…

「どうだい?此処は貴族も立ち寄る程の人気店なんだ。」

「(もぐもぐ)」

美味しい。まさかこんな形で食事をするなんて思っても見なかった。外はすでに夕暮れを済ませ、あたりは夜の帳に包まれていた。

「(カチャリ)」

金の装飾の施された食器。大理石のテーブル…一体ここ一つを作るのに、いくらをつぎ込んだのだろうか…いや、きっとこの国は私の想定よりも豊かなのかも知れない。

「ご馳走さま……」

今は明日の仕事の事だけを考えよう。

「じゃあね、寂しくなったら夕食どきにまたここに来ると良いよ。僕はいつもここで食べるからさ。」

ライズは王宮へと、私に手を振りながら歩いて行く。さてと…そろそろ出発するかな…。私は一度ゲストハウスに戻る。弾薬を詰めた麻袋を腰に付け、刃をよく研いだ銃剣を背負い込む。皆が寝静まった深夜を見計らって、バイクをゆっくり走らせる。大通りを抜け、門を抜け、王宮とは真逆の、人里離れた廃坑のある鉱山に向かう。

『ブオンブオン!』

目一杯スピードを出して街から離れて行く。

「ギャオ!」

側方にモンスターが現れる。

『バンバン!バン!』

今となってはバイクを操縦しながらモンスターの撃退が出来るまでになった。ふと、遠くの方に巨大な明かりが見える。山そのものが炎となっているかの様だった。

『キキイ!』

バイクを止めて、腕輪にしまう。やっぱり魔女の力で山そのものが危険な存在となっている様だった。

「……入口が……」

黒光りする黒曜石の様な石で、入口が完全に阻まれていた。今は砲剣も持っていないし、どうすべきか…

『ピピピピピッ』

電子音が聞こえ、腕輪の一部分が欠け落ちる。かけらはみるみるうちに形を変えて、また妙な物体へと変わった。

「………?」

一瞬、長身の銃に見えるが、すぐにいくつもの差異が見つかる。銃よりも巨大で、持ち手の場所も違う。先端には金属製の巻貝の様な物が付いていた。

『キイイイイイイイイン!』

金物を擦り合わせる様な甲高い音が放たれ、先端の物が目にも留まらぬ高速で回転を始めた。

『ガガガガガガ…ドーーン!』

黒い壁は一瞬にして崩れ去り、先へと続く道が拓けた。壁を突き破ったそれはすぐに元の欠片に戻り、私の腕輪に飛び付く。

『インスタントドリル、正常に動作が完了しました。』

インスタントドリル…これはまた妙な名前だ。一度戻り爆薬でも用意しようかとも思ったが、余計な心配だったらしい。

『コンコンコンコンコン…』

数年も放置されているにもかかわらず、坑道内の岩は赤熱し、それにより明かりも必要なかった。無数の分かれ道、しかし私が迷うことは無かった。

『20m先、右より3番目の通路に侵入。』

耳の中の電子音が私を導いた先は、、大きな溶岩湖だった。

『ペチャ…』

しまった…革靴が溶け始めている…。ここはそんなに暑いのか…。

『ポコポコポコポコ」

溶岩が不自然に湧きたち始めた。数秒後に、一人の少女が溶岩から現れる…

「乙女の入浴中に勝手に入り込むなんて…」

一瞬で辺りがマグマに覆われる。

「デリカシーがありませんね!」

「………」

紅焔の魔女が、鉱山の鉱石によって力を増した物らしい。かなり手こずりそうだ。

「あの坑道の迷路をどうやって迷いもせずに抜けたのかは気になるけど、どうせ消し炭になるんだし関係無いよね。」

高熱で天井から染み出した溶岩が一気に私に降りかかる。

「あはは。やっぱりすぐに終わっちゃった!」

『ジャバーン!』

溶岩で溶けた床からマグマの下に潜り込んで、魔女を後ろから射撃する。その衝撃で、銃剣が壊れてしまった。

「ぐう?痛いな。君、ただの人間じゃないでしょ?というより…」

生身を保護するために緊急冷却システムなるものが作動した。具体的に言えば、顔と胴体、左腕が機構装甲に包まれていた。

『ピーピピピ…』

「普通の生物ですら無いんでしょ。」

…当たりかも知れない。私は生物なのか、それともただの機構なのか。…いや、

「私は…私!」

『バキュンバキュン!』

左腕の機構から光線が発射される。魔女の溶岩の盾が、それを阻む。

『ジャバン!』

マグマによる攻撃を受け続けるが、まったくもって何も感じない。

「………」

機構に電気を通わせ、魔女に向かって振りかぶる。

「ふん!そんなの!」

魔女の前にマグマの柱が吹き上がるが、その柱ごと切り裂く。…物理攻撃はあくまでフェイク。

『バリバリバリバリ!』

「わああああああああ!」

機構から放たれた雷撃が、魔女を打つ。

『ドサリ…』

いつもの如く棺型結界に魔女を収める。魔女の効力が切れたため、鉱山が次第に元の状態に戻っていく。岩肌は元の冷たさを取り戻し、マグマは冷え固まりただの岩と化す。さてと、どうしたものか。衣類がほぼ全て焼き消え、機構の防護のみとなってしまった訳だが…

「やあ、修繕が終わったよ。…わあ、大変だったんだね。」

「………」

岩肌に開かれた空間の切れ目から、ピカピカになった制服を持ったにっこりさんが現れる。

「うーんと、うちに寄ってくるかい?」

「(クチュン!)」

何かが焼き切れる音がしたと思えば、身体が突然動かなくなる。

「あちゃあ…負荷が大きすぎたかな?寒暖差でコアワイヤが切れたのか。」

「………」

「そんな顔しないでよ。こうしてきてあげたじゃん。ね?」

「ありがと…」

にっこりさんは私の身体を持ち上げる。

「何か言ったかい?」

「………」

そのまま私は眠り込んでしまった。







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