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第六部 光影の国

「これを……」

「まいど。綺麗なお嬢ちゃん、一人でお使いなんて偉いねえ。しかし随分と物騒な物を持ってるねえ。」

…魔女の潜む廃坑に明日出発するため、今私は遠征先の街に買い出しに行っている。我が家からかなり離れた国なので、この見た目のせいで子供扱いされている。私の実際の年は30歳くらい…の筈だ。なにせ身体の成長は14歳で止まっているし、年なんて気にした事もない。

「………」

久し振りに私服で外を出歩いた。制服が穴だらけで。さてと、バスケットには銃剣の為の弾薬に、火薬、ワインが二本とチーズが入っていた。…私にだって嗜好品の一つや二つはあるし、ワインは丁度良い体内消毒にもなる。

「小切手?お嬢ちゃんはお嬢様なのかねえ。ふふふ。」

ふと、後ろから声をかけられる。

「ど…ドムキス様!?申し訳ございません!まさかこんなところで出会うとは…」

「……今日は休日……ナルイアで良い……」

テドナ国軍少佐のケディンズだ。駐屯地に向かう途中だったらしい。

「は!申し訳ございません!ドム…ナルイア殿!」

「はあ……」

軍服姿の大男に敬礼される年端もいかぬ少女…はたから見たら不自然極まりない。ガウンはこの国の軍部とも密接に繋がっている為、特に上階になれば私を知っている者も出る。しかし…

「お…お嬢ちゃん…あんた何者なんだい…?」

これでは格好の噂の種だ。

「……気まずい……」

「は!大変申し訳ございません!これにて失礼します!」

少佐は大通りを南に去って行ったが、この空気まではそうはいかなかった。

「なんだなんだ?軍の関係者か?」

「あんな子供が?少なくとも少佐より上よ?まさか魔女?」

あっちこっちから声が聞こえる。こんな事になるなら出発する前に用意しておくべきだったと後悔している。

「………」

途方に暮れていたその時、群衆を割って進むように一人の若者が現れた。

「やあ、久し振りだね。」

「……?」

私に話し掛けているようだが、私はこの人を知らなかった。

「あの……どちら……」

「この子は僕の…義理の妹なんだ。まさかもうこの街についてたとはね。」

「あの……」

全く知らない男性だ。タジタジとしている私とは裏腹に、人々は納得したような様子を表している。

「なんだ、ライズの知り合いか。なら悪いやつじゃ無いだろ。」

「へえ、ライズにはあんな可愛い妹さんがいたとは。」

ライズと呼ばれたその男は、私の手を掴む。…どこかで聞き覚えのある名前だ。

「これからこの子に街を案内するから。気を付けて、この子はシャイだから。」

身長は190cmくらいだろうか。黒い髪に赤色の魔導師風のコート。つばの広い帽子に、妙な装飾品の数々を身につけていた。怪しげではあるが、彼が出現した事で私に対する視線の質が一気に変わった。そして、人目のあまりつかないところまで行くと、彼は手を離す。

「ごめんね、驚かせてしまったね。君がナルイアちゃんかな?」

「あの……ありがとうございます……貴方は……誰……?」

「僕はライズ・リリ・テドナ。テドナ国王位継承権第13位。まあ気楽な王族だね。」

王族にしては、随分と民との距離が近いようだが、取り敢えずは恩人だ。

「(ペコリ)」

「良いよ良いよ。半分は嘘でも半分は本当さ。見せたい所が色々あるんだ。」

一瞬、彼と初対面だということを忘れてしまう。王族としての気質はあるようだ。

「………」

彼には悪意のかけらも無いようだ。私はライズを信用する事にした。

「此処がチュゴレ教会。この街で一番大きな教会さ。」

本当はとっととゲストハウスに帰って昼寝でもきめこもうと思ったが、こういうのも悪くない。

「それで此処がガウンの支部…て、もう君は行ったかな。なにせガウンで一のハンターらしいからね。」

…思い出した。確か今回の魔女討伐の依頼主だ。報酬がかなり良かったので、裕福な人だとは思ったが…

「不思議だね。君はこんな小さな体で英雄だし、兄君様達は権力のことばかりだし。」

「私は……ただのお金が好きな……一職員……」

「でも、他人を蹴落としたり、勝ち上がってやろうとか、そういう面倒臭さがないじゃないか。」

「………」

ただ、私と張り合うことのできる人間が存在しないだけかも知れない。もしもこの玉座に手が届く存在が生まれれば、私は自分も知らない本性を晒すかも知れない。そんな事を考えながら、ライズの傍を黙々と歩く。ふと、彼の帽子に綿ぼこりを見つける。取ってやろうと思い、思いっきり手を伸ばした。

『キン!』

何か硬い、豆の様な物が手の甲に当たる。これは…銃弾?

『カサカサ…』

気づくと、私たちは数人の武装兵に囲われていた。

「………ねえ………」

「分かっているさ。要人暗殺なんて、此処では事日常茶飯事さ。」

ライズの身につけている装飾品が怪しげに輝き出す。紫色の稲光の様なものも現れる。

「紫雷………器用ね……」

「はは、日常茶飯事だって言ったろ?」

ライズの足元から、紫雷が地面に流れ込んで行く。

『バシュバシュバシュ!』

紫雷は武装兵の真下より放たれ、武装兵を撃破していく。

「………」

武装兵は叫びもせずに骸と化す。恐らく私も、あんな風な死に方をするのかと。

「なんか疲れたね。そうだ、此処から少し行った所に良い食堂があるんだ。」

「………これは……デート………?」

「あははは!かも知れないね。」











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