第三部 消し炭の街
『ガチャン』
少魔女の眠る柩を居間の脇に置く。ごめんね。もう少し眠っていて…。私はとりあえず、もう一度あの村に行ってみる事にした。
「やっと終わったな。」
「ああ、長かった…。」
街の炎はすっかり消え去り、人々の顔には微かに活気が戻り始めた。街を歩いていても、建物の大部分は黒く焦げた骨組みになっていた。が、
「……?」
ある一角が不自然なほど被害が少なかった。
「ああ、ここは公務層の人たちの住宅街だからね。きっと作りが違うのさ。」
先程の炭の街とはうって変わって、どこもかしこも煤の一つも付かない真っ白な外壁であった。にっこりさんパワーで防護していたとはいえ考えにくい。何かがおかしい。
「おい、そこから先は手形なしじゃ入れないぞ!」
「………」
謝罪は後からだ。今はこの胸騒ぎの正体の方が先だ。街をしばらく歩いていても、明らかにこの一角だけ周りから浮いていた。火の粉すらかからなかったのだろうか。
「?」
ふと、甘ったるい匂いに気づく。確か、燃え跡にあった妙な油の匂いだ。その時、遠くに今回の私の依頼主の方が見えた。屋敷の様な大きな建物に入って行った。ここは人気があまり無い。私もその建物に入ってみる。念のため、動作サイレントモードに切り替える。
「……」
声はもちろん、私の足音さえも極力消音になっている。流石にものにぶつかったりすれば不味いが。しばらく歩き続ける。ここは見た目より大分広い様だった。
「?」
ひときわ大きな扉が、私の目の前にある。扉は半分開いており、様子を覗く事が出来た。
「これで、我々の財政の邪魔となるピオーレネ家は絶えた。是非とも増税のご判断を。」
…嫌な予感が的中したかもしれない。魔女狩り…それは無分問わず重罪となる。ましてやそれが特定の組織や個人の利益のためとなると、投獄は免れられない。
「おい!何者だ!」
「!」
やはり見つかってしまったか。この距離では出口には行けない。どうするべきか…。
『チーチチチチ…音声案内を開始します。』
唐突に耳元で電子音がなり始める。よく分からない新機能が随分と増えたものだ。
『ここより先、7メートル、左折』
私はとりあえず電子音に従い始めた。7メートルがどれくらいかはわからないが、次の廊下では左に曲がった。やはり同じような廊下が続くだけだが。
『ここより先、障害物を4体無力化の後、右方向です。』
障害物?
「不法侵入者を生かしては置けん!」
重装備の兵士が四人。なるほどそういう事か。
『バス!バス!シュ…バスバス!』
この程度なら素手で十分だが、右方向には窓しか見当たらない。
「……」
この電子音をして信じる事にした。
『カシャーン!』
「窓から逃げたぞ!追え!」
身体を丸め、地面からの衝撃の対しての受け身を取る。
「居たぞ!焼き殺してくれよう!」
庭の様な所に出たが、そこには仮面に似た物を頭に付けた集団が待ち受けて居た。手には細長い金属の筒、背中にはタンクを背負っている。
『シュ!ゴオオオオオ!』
細長い筒から、油と炎が放たれる。成る程。これで狙った所を燃やしていたのか。
「…!」
私は咄嗟に顔をフードで覆う。表面に出ている唯一の本物の肉体だ、火傷は嫌だ。
「……!」
炎を振り払い、その集団を銃剣で薙ぎ払う。数人がよろめくがかなりの武装をしているらしく、ダメージ肌期待できなかった。
『データ解析を完了しました。最適な装備を提供します。』
腕輪から砂鉄の様な物と、一つの鉄片が流れ出て、私の銃剣にまとわりつく。砂鉄は形を変え、個体となっていった。
『破甲デバイス装備完了。』
電子音は止む。私は形の変わった銃剣を構える。前よりも少々重くなっている。
『バン!バン!バン!』
打ち出されるものも、若干違っていた。それは爆発せず、相手の装甲に残り続けた。
『チイィィィ!ドゴオオン!』
「!」
残留した物体は唐突に爆発して、装甲ごとその集団を砕いた。
「………」
持つべき物はにっこりさんの友とは、よく言った物だ。