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colors  作者: 病院が来いの人
9/11

第9話 音羽の幻影

前話のわかりにくかっただろうところも含めてのお話です。

「ちょ、ちょっとまって! どうして急に入部する感じになってるの!?」


 急な展開についていけない空が大きな声を出す。

 それに対して珍妙なものを見るようなまなざしで見ていたユーリアが口を出す。


「どうしてもこうしてもないでしょう。あなたは失った家族を思い出すほどバイオリンを弾くのが辛かったはず。それは初日の様子を見れば一目瞭然よ。それでもあなたはこうしてもう一度バイオリンに向き合うことに決めた。違うかしら? だからこうしてここに戻ってきたんでしょう?」


「え?」


 呆けたような顔をする空。


「あなたのその覚悟見させてもらったわ。それでもバイオリンの腕の方はずいぶんと落ちた様ね。さあ練習を頑張るわよ!」


 つまり、ユーリアが以前言っていた『辛い思いをさせた』というのは無理やりバイオリンを弾かせることで家族を思い出させたことを言っていたようだ。

 しかし、空は、


「そ、そうじゃなくって、ただ初日は全然良い音で弾けなくて悔しかったというか・・・。」


 全然音ちゃんの音じゃなかったというか、と周りに聞こえない程度の声でぼそぼそと続けた。


「嘘おっしゃい。今の音だってそんなさっきみたいな誇らしい顔をするほどの音ではなくってよ?」


「ぐ・・・・。」


 胸を押さえて苦しそうにする空。

 大した音じゃない、と言われたのがショックだったようだ。


「日比野音羽、しばらくあなたはリハビリが必要ね。明日から練習があるそうだから、ビシバシいくわよ!」


「ちょっとまって! まだ入るなんて・・・」


「分かったわ。それじゃあそこにいるあなたの幼馴染の、これといった特徴のない男も一緒に入るってことならどうかしら?」


 ひ、ひどい・・・・。

 っていうか空もなんか少し悩んでるし!

 そこは断れよ!

 でも、オーケストラか。

 俺ももともとは音羽の弾くバイオリンにあこがれてピアノを始めたわけだし、ここで改めてバイオリンを始めてみるのも良いかもしれない。


「あら、満更でもなさそうね。」


「いや、でもさすがに・・・。」


「決まりね。それじゃあこれが入部届よ。明日これを出して練習に来なさい。明日は新入部員紹介があるそうだから。」


 ユーリアは俺の言葉を完全に無視して俺たちに入部届を押し付けると、それじゃあと言って他の人達が集まっているところに向かっていく。

 ユーリア自身がすでに部員として勧誘を行っているようだ。

 俺たちは渡された入部届を手に、顔を見合わせると大きなため息をついた。


 家に帰り、夕飯を食べたあと、俺が片づけをしている間に空が風呂に入り、その後俺もぱぱっと風呂に入る。

 俺が風呂から上がると、空はリビングでテレビを見ながら髪を梳いていた。

 母ちゃんは俺の後にすぐ風呂に入りに行ったので、今リビングには俺と空だけだ。


「なあ、空。もしかしてこの2週間さっさと帰ってたのって・・・。」


「そうだよ! バイオリン練習してたんだよ! 悪いか!」


 顔を赤くして威嚇してくる空。

 そんなに怒らなくても・・・。

 でも時折こうして音羽の真似をした空じゃなくて、本当の空が顔をのぞかせてくれると何故だか安心する。

 俺は苦笑しながら続けた。


「お前またバイオリン始めるのか?」


「・・・・わかんない。でも、コンクールがないなら、やっても良いかもしれないとは思ってるよ。」


「どういうことだ?」


「もともとバイオリンをやめたのって、コンクールとかで順位をつけられるのが嫌だったからなんだ。でもそれがないなら、もう一度始めるのも、嫌じゃない。でも、私の音じゃ、音ちゃんにはなれない。私じゃ、本当の私にはなれない。」


「・・・・俺は、お前と一緒だったらオーケストラ、やってみようかなって思ったよ。」


「僕は死んでも嫌だ。」


「お前な・・・・。」


「でも、音ちゃんなら、私ならきっと、たっくんと一緒なら大丈夫。」


「空・・・。」


「ただし! おんなじ部活になったからと言って必要以上にしゃべらない! 近づかない! なれなれしくしない! それが守れるならだ!」


「お、おう・・・・。」


 頭にバスタオルを被ったまま、俺に指をさす。

 最終的には俺のすぐ近くまで寄ってきており、風呂上りのせいでふわりとシャンプーの良い香りがした。

 気まずくなって顔をそらし、わかったよとつぶやいた。


「よろしい。じゃあそういうことでね。おやすみ、たっくん。」


「・・・・!」


 空は髪を梳き終わったのか、そう言って自室へと戻っていった。

 その仕草や笑顔が、まるで本当の音羽のようで、声をかけそうになってしまった。

 こういうところはやはり姉弟なのだと実感する。

 無理に音羽に似せようとするとぎこちなく、違和感しかないが、こうしてふとした時に二人は本当に似ていた。


「・・・くそ。」


 ありもしない幻覚にとらわれたようで、そんな自分が苛立たしく、悪態をついた。

ちょっとずつの更新ですが、続けていきます。

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