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colors  作者: 病院が来いの人
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第8話 おもいがけずに

 その後俺にも先輩たちの勧誘の手が迫るがそれをさっと躱し、出て行った空を追って生徒用玄関へと急ぐ。

 しかし、俺がそこに着いた時、空の靴はなかった。

 どうやらすでに学校の外へ出たようだ。

 どうして空は何も言わずに出て行ったのか俺にはわからない。

 けど、あんな状態の空を放っておけなかった。

 急いで靴を履き、外へ出ようとする。


「待ちなさい。」


 そこへ後ろから声をかけられた。


「園部・・・。」


「ユーリアでいいわ。北原拓人、あなた今から日比野音羽を追うのね? 会ったら謝っておいてもらえるかしら?」


「何をだよ。」


「辛い思いをさせたことよ。」


 そう言うとユーリアは俺を通り過ぎて先に帰って行った。





 結局、電車に間に合わず、音羽に追いつくことはできなかった。


「ただいまー。」


「おかえり。あら拓人、空ちゃんと一緒じゃないの?」


「え? まだ帰ってないの?」


「帰ってないわよ? 道に迷うとも思えないし、どこ行ってるか知らない?」


「・・・・探してくる!」


「ちょっと、拓人!」


 家を出てすぐ隣にある家のドアを開けて中に入る。

 中は電気がついておらず暗い。

 廊下を魔すぐ進んだ突き当りにある重そうな扉を開くと、暗い部屋だった。

 カーテンが開いているがもう時間も遅く、部屋の電気もついていない。

 壁にある本棚にはたくさんの楽譜が積まれている。

 部屋の中心にはピアノがあり、その横にひっそりとたたずむ人影。

 その手にはバイオリンが握りしめられていた。


「空。」


「・・・・拓人か。」


「電気もつけずに何やってるんだよ。」


「お前には関係ないだろ。」


「そうか。とりあえず夕飯にすっから帰ろうぜ。」


「・・・いらない。」


「はあ・・・。ユーリアから伝言だ。『辛い思いをさせて悪かった』とさ。」


「・・・・」


 空はぐっとバイオリンを握りしめる。

 歯を食いしばり悔しさに耐えている様だった。


「きれいな音だったよ。」


 俺の口からこぼれたのはそんな言葉だった。

 慌てて口を手で覆う。

 気まずくなって俺は部屋を出ようとした。


「・・・音ちゃんの音は、こんなんじゃないんだよ。」


 出ていこうとした俺の背に向かって空がぼそりとつぶやいた。


「音ちゃんの音はこんな音じゃない。もっと、もっともっといろんな色がついてるんだ。僕の色のない音じゃない。」


 俺は空の方を振り向いた。

 空も窓を背に、俺のほうへ向いていた。

 その目は泣いているかのようだった。


「たっくん、待ってて。私、頑張るから。」


 空はそう言って俺に微笑む。

 その笑顔は俺の大好きな音羽の笑顔とは全く違っていた。





 それから部活見学は2週間続いた。

 俺は桜井に連れられて運動部もいくつか見に行ったが、やはりしっくりくるものはなかった。

 まあ、必ず部活に入らなければいけない、というものでもない。

 学校はやはり勉強をするための場所なわけだし、勉強一筋頑張るというのも悪くないだろう。

 この2週間、空は部活見学はしていない。

 授業が終わるとすぐに家に帰っている様だった。

 ユーリアもあれから空を無理に誘うことはなくなり、一人でオケ部を見に行っている様だった。

 そして、今日が部活見学の最終日となった。


「ねえ、結局拓人は部活に入らないの?」


「んー、あんまりこれってのがねえんだよな・・・。まあ別に入らなきゃいけないってもんでもないし。」


「そうだけどー・・・。」


 桜井はぶつぶつ何かを呟いているが、その後あきらめたのか女バスの方へと向かった。


「俺もそろそろ帰るかな。」


 そう言って立ち上がった俺の手が誰かによって掴まれた。

 慌てて振り向くと手を掴んだのは空だった。

 いつもならこの時間はもう帰っているはず。


「ちょっと来て。」


 空は俺の手を引いて教室から出る。


「おいおい! どうしたんだよ!? って、ん? お前その背中に背負ってるのってもしかして・・・。」


「いいからついてきて。」


 空は俺の手を引いて階段を登っていく。

 ついた先は、音楽室だった。

 そこは以前見た光景と同じように楽器を弾く生徒でごった返していた。

 そんな中、バイオリンを持っている集団の中心にユーリアがいた。

 空もそれに気づいたのか、そちらの方へ歩いていく。

 俺たちの接近に気付いたユーリアがこちらを向くと、驚愕のまなざしを向けた。


「日比野音羽、あなた・・・・。」


 空はユーリアの言葉が聞こえていないのか、無視しているのか、何も言わずに背中に背負った四角いケースを開いた。

 そこから出てきたのは、使い古されたバイオリンだった。

 空は無言でバイオリンを取り出し、弓に松脂を塗ると、バイオリンを構えた。

 弓をゆったりと動かし、初日のようにG線を鳴らす。

 その音は初日と打って変わって、深く、重く、温かい音だった。

 その一音だけ弾くと、空は満足そうに楽器を下した。

 ユーリアはしばらく驚いたままだったが、一度目を伏せると、にやりと笑い、言った。


「それがあなたの覚悟、というわけね。」


 その言葉と同時に周りが一斉に沸き立つ。

 周りの生徒は空によろしく、と言って話しかけたり、ハイタッチをしている者もいる。

 当の本人、空はきょとんとしていた。


「え? 急に何? どういうこと?」


「どういうこともこういうこともないでしょう。あなたの覚悟、見せてもらったわ。一緒にこの響蘭高校管弦楽団を日本一のオケにしましょう!」


「・・・・はあ!?」


 こうして空は、響蘭高校管弦楽団に入部した。

わけわかんないかもしれませんが、それぞれの思いは後に。

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