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colors  作者: 病院が来いの人
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第4話 事件のあらまし

重い・・・重すぎる・・・!

目の前にいるのは、華奢で、目が丸く大きくて、ブラウンがかった髪の、俺が今まで出会った中で一番可愛い女の子、音羽そのものだ。

だけど、音羽ではない。

そう感じた。

なぜなら、音羽なら俺のことを『たっくん』と呼ぶはずだから。


「たく・・・と? あれ? 僕は一体・・・。」


本当に空なのか・・・?


「たしか・・・飛行機で・・・急に落ちて行って・・・あれ?」


「なあ、空・・・なのか?」


「は? 拓人、何言って・・・そうだ! 音ちゃんは!? お母さんとお父さんは!? 飛行機が墜落して!」


「それは私から説明しよう。」


 そう言って父ちゃんが俺の後ろから出てくる。


「あ、拓人のお父さん・・・。もしかして僕たちを助けてくれたんですか?」


「いや、残念ながら君以外全員亡くなったよ。」


 父ちゃんの言葉は無慈悲だった。

俺の中で何かが弾けた。


「おい! 父ちゃん、どういうことだよ! じゃあ目の前にいるこの子は誰なんだよ! 音羽は死んじまったっていうのかよ! ちゃんと説明しやがれ!」


「拓人、落ち着け。騒いだところで結果は変わらない。空君も不安がっているだろう。一番辛いのはお前じゃなくて空君のはずだ。お前がしっかりしなくてどうする。」


「でも・・・・!」


 ぎりりと歯を鳴らして俯く。

 下げた視線の先に父ちゃんの拳が見える。

 固く握られ、震えていた。


「・・・父ちゃん、ごめん。説明してくれ。」


 父ちゃんの説明はこのようなものだった。


 日比野家を乗せた飛行機は、ドイツの国境を超えたあたりでエンジントラブルが発生。

 パイロットの懸命な復旧も間に合わず、飛行機は墜落。

 乗客約200人が地上に投げ出された。

 パイロットが優秀で、本部への連絡を速やかに行っており、救助隊が現場に到着するのはとても速かった。

 しかし、パイロットを含め乗客のほとんどは即死。

 そんな中、まだ生きている者だけこの病院に運ばれた。

 日比野さん夫婦はその時まだ生きていたが、出血が多すぎて、すでに助けられる状態ではなかった。

 空は体のほとんどを損傷していたが、なんとかぎりぎり耐えている状態。

 音羽は、体は無事だったが、部品に首が挟まれて脳虚血状態が長く、すでに脳死の状態だった。

 現場では音羽の脳死は判断できず、4人とも病院に運ばれた。

 知り合いということもあり、父ちゃんが対応したが、日比野さん夫婦はもう長くはなく、音羽と空も厳しいという話を二人にした。

 すると二人は泣きながら、なんとかして子供たちを助けてほしい、と伝えた。

 しかし、音羽も空もすでに手遅れ状態で、直る見込みはなく、父ちゃんは自分の無力さを呪った。

 そこで最後の賭けに出た。

 空の脳を音羽の体に移植したのだ。

 放っておけばなくなる命。

 双子とはいえ二卵性であり、生着するかわからない。

 そもそも本当に脳移植など成功するのか。

 だが、どうしてもあの二人の思いに答えたかった父ちゃんは、それを実行した。

 そして、成功した。


「・・・というわけだ。」


 父ちゃんの話はとても信じられなかった。


「じゃあ・・・、目の前にいるのは音羽の体の中にいる空、ってことか?」


 俺は空の方に目を向ける。

 空は俯いており、顔が見えない。


「ああ。だが、この手術は倫理委員会を通していない。表向きには音羽くんの手術として行われたが、目の前にいるのは空君だ。しかし、現実としては空君は、亡くなったことになっている。」


 言葉が、出ない。

 現実離れしすぎなその現実に、信じる、信じないとかではなく、頭が真っ白になる。

 父ちゃんはあまり冗談を言わない。

 そもそも人の生き死にが関わった冗談なんて不謹慎すぎる。

 これが現実であることは父ちゃんの性格を考えれば明らかであった。

 父ちゃんは俺に優しく微笑むと、空の方を向いた。

 

「・・・私のことを恨んでくれたって構わない。なぜなら、君の両親を見殺しにし、音羽君を見捨て、君の脳を音羽君に移すという悪魔のような所業をやってのけた張本人だ。何なら君と音羽君を同時に殺した、とすら言える。私は君に殺されても文句は言えないだろう。」


 父ちゃんはくるりと振り向き、病室を後にした。

 俺とすれ違う時、俺だけに聞こえるくらいの声量で、


「あとは、頼んだ。」


 と言い、母ちゃんと一緒に出て行った。

 その声は震えていた。

 

「・・・任せろ。」


 俺は小さくつぶやくと、空の方を見る。

 空は未だ俯いたままで、どんな表情をしているのかはわからない。


「なあ、空。顔、上げてくれよ。」


 空の反応はない。


「お前のお父さんも、お母さんも・・・・音羽も、いなくなっちまったんだな。辛いよな。」


「・・・・お前に、何が分かる。」


 空から、かすれるような声が聞こえてくる。

 その声には力がないが、怨嗟がこもっている。

 しかし、俺の大好きな、音羽の声だった。

 それがちょっと可笑しくて、ふふと笑いが漏れる。


「なあ、空。うちに住まないか? 父ちゃんが医者なおかげで金だけはあるからさ。」


 空は答えない。


「まあ、しばらく入院してるんだろ? 俺も春休み中くらいはどうせここまで来たんだし、しばらく遊んでから日本に帰るよ。

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