三周目8月24日
次の日。
先生「ほら走れ走れ!おら遅れてきたやつはこれ食ってから走るんだ!」
朝食前に軽く走れと言われ、チーズ渡されて走らされている。
そういやなんでチーズ食べないといけないんだろう?
栞「栄養とらないで運動すると、筋肉まで消費しちゃうからだよー。」
先輩「そうそう、朝運動するなら乳製品や果物など消化によいものを軽く食べてからの方がいいんだ。」
後ろから鮎川さんと先輩が追い越しながら説明してくれた。
は、はええ。
「フォームを変えなさい。頭から足までまっすぐなまま体を前に倒すの。」
まっすぐなまま?
「人が背筋を伸ばして立っている状態というのは、背骨が少し”く”の字になってお尻が後ろに出た状態なの。」
「背筋を伸ばすって骨を見るとまっすぐじゃないのよね、これは走るのには適さない。背骨がくの字にならないよう体を少し前に傾ける。」
「お尻も前に出すようにする。起きているとわかりにくいから、床に寝ている状態で背中が浮かないよう練習して体に覚えこませなさい。」
つまり走っている今は無理ってこと?
「あなたが求めているのは即席な力じゃなく、継続する力よ。今は無理でも構わない、これから身につければいいの。わかった?」
・・はい、がんばります!
優月「あらやだ、おっそーい。」
姫宮さんがクスリと笑って追い越していった。
「恥をかいても下を向かず前を見続けなさい。あなたの目指す先は前にあるのだから。」
はい!
僕は前を走る姫宮さんの・・お尻を見た。
「ストイックはどうしたの?」
お尻が前にあったら見ちゃうもんなんです!
「お尻が後ろにあったら?」
後ろのお尻を・・いやマラソンでそんなケースありませんよね!?
「私の前では常識など無意味。」
天使様はそうかもしれませんが、僕はただの人間です。
「違うわ、私のおも・・モルモットよ。」
・・訂正前も訂正後もそんな違いないですよ?
「!?」
どうしました?
「・・いえ・・なんでもないわ。そのまま走ってなさい。」
なんか声のトーンが変わった感じだったなぁ。
でも天使様にとって”意外なこと”なんてないよね?未来がわかるんなら。
先生「よーしそろそろ時間だ!各自クールダウンして食堂へ行け!汗くさいまま来るなよ(女の子は除く)」
えーと、つまり差し入れタイム?
あ、スポーツドリンク買ってなかったけど、どうしよう。
「朝は体が整っていないから、冷やし過ぎもダメ。自販機のをそのまま渡せばいいわ。」
なるほど。
僕は自販機でスポーツドリンクを買った。
・・こほん。
姫宮さん、スポーツドリンクです。どうぞ。
優月「ども。」
よし、任務達成!・・任務なのかこれ?
優月「・・」
・・
・・・・
先生「さあ食え!食わないと体が耐えられないぞ!」
・・既にギブアップです。
がんばって走ったからか、食欲ないです。
優月「ちゃんと食べないと体壊すわよ。」
わかってはいるんだけどね、食べる気にならないというか・・
先輩「おや、食べないと運動で燃やせるエネルギーが足りなくて、自分の体を作る大切な栄養まで使っちゃうんだぞ。」
栞「じゃー食べさせてあげる。はい、あーん♪」
ええええええええええ!?
あ、あーん・・ぱく。
栞「おいしい?」
おいひぃですもぐもぐ。
優月「・・」
先輩「お、うらやましいねぇ。」
栞「じゃ、じゃぁ先輩も、あーん♪♪」
先輩「あーん・・うん、うまい!」
栞「やったぁ!」
先生「おいそこ!ラブコメは犯罪だ!」
ラブコメが犯罪だったら、少子化がさらに進みそうだな。
先生「なお死刑。」
増えすぎた人類を減らすにはちょうどいいかもね。
「減らしたいなら私が手伝ってあげましょうか?」
あ、いえ天使様のお手を煩わせるわけにはいきませんので。
というか冗談じゃなくなるから。
「ノアの方舟♪」
選民思想も真っ青な、選ばれた者のみ生きることができる舟かな?
僕は・・選ばれそうにないなぁ。雑魚だし。
でもあれ、どのくらい意味あったんだろう。現代人を見ているとちょっと疑問。
・・
・・・・
食事が終わって軽く休憩。
30分くらいだけど。
話している人、スマホいじってる人、寝ている人、それぞれだ。
・・ゲームしたいけどスマホゲームは飽きたしなぁ。
課金とか広告とかあると萎えるんだよ。
ゲームはゲームの世界に浸りたい。現実はそこにいらない。
気が付いたらもうこんな時間か・・って思えるやつがいいな。
「現実よりゲームの方が楽しいよね。」
天使様はもうちょっと夢のある発言してほしいな。
「現実という壮大なゲームを楽しもう、とか?」
現実はくそげーだから。
栞「梨本くんはゲームしないのぉ?」
え・・んーやるけど、コンシューマがメインかな。
栞「どういうジャンルのが好き?RPG?ACG?」
RPGかな。SLGも好きな方だけど。
ACGはあの有名な狩りのやつとかくらいかな。
先輩「あとテーブルゲームも得意なんだってな。」
栞「あ、先輩♪」
先輩「聞いたぞ。昨夜すごかったそうだな。」
栞「え?なになに?」
先輩「いや実はな~」
せ、先輩勘弁してください。女の人に聞かせる話じゃないですから・・
先輩「ははは、ちゃんと誤魔化すさ。」
栞「えーなになに?おっしえて♪」
先輩「旅館のゲームコーナーで高難易度を勝ちまくったんだぜ。昨夜はその話で超盛り上がったんだから。」
栞「すごーい!え、梨本くん意外とゲームオタク?すごいの?」
い、いやそんなことは・・
「ここは”思考系のゲームは自信がある”と言うのが吉ね。」
え、えっと・・思考系のゲームなら自信あるかな。
栞「思考系って、将棋とか囲碁とか?」
う、うん。
栞「きゃ~しぶーい。」
先輩「いい趣味じゃん。オタクってよりクールだ、かっこいいなぁ。」
優月「・・」
先輩「昨日のもそうだったもんな、後輩の新たな魅力発見、だな。」
栞「梨本くん合宿でキャラ変わった感じ。双子の兄弟と入れ替わった?」
天使様のサポートがつきました。
先生「おらおら休みは終わりだ!これから楽しい耐久マラソンが始まるぞ!」
楽しい?ちょっとわかりません。
先生「全員で走るぞ!ゴールできなかったやつは後で指導だ!」
・・あれ?前はこんな感じじゃなかったような・・?
普通に走らなかったっけ?
「走る前に、スポーツドリンク買って保冷ボトルに入れとくように。」
はーい。
・・
・・・・
ドゥン!
先生のピストルの音でみんな走り始める。
ゴールできりゃそれでいいや。
栞「がんばって1位目指そうね♪」
うん!
僕の全力、見せてやる!
うおりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・バテた。
あ・・でもがんばったから結構順位いいかも。いやそれでも遅い方だけどさ。
栞「がんばれーもう少しだー。」
うん、がんばるー!
「どうする?このままゴールする?」
もちろん!鮎川さんの応援で勇気100倍フルスロットルです!
シューティングならボムが9個あるくらい余裕!
「ま、関係ない女の子がひどい目に遭わされても構わないよね。」
・・え?
「見て。あの子が陸上部で一番遅い子よね。」
へとへとになりながら走っているのか歩いているのかよくわからない女の子。
同じクラスの子で、いつも大人しく話をしたこともない女の子。
遅いのは見ればわかりますけど、なんちゃって陸上部員の僕には足の速さランキングとかわからないです。
「変態先生のターゲットはあの子。あの子はゴールできず、途中でリタイアするわ。」
「そのまま変態に連れてかれちゃう。」
「でもよく知らない子がどうなってもいいわよね。」
「だって・・ねぇ、現実ではお金に困って身体を売る女性もたくさんいるでしょ?だーれも助けない、ここはそんな世界よね。」
「あの子を先生に与えておけば、あなたの好きな子は無事に合宿を終えるわ。その方がずーっといいわよね?」
・・その方がいいのかもしれない。
世の中には望まなくても身体を売る女性はたくさんいる。自称善人さんたちは助けようともしない。
それでいて他人に助けろ助けろと言ってくる。
「助けるってね、相手が背負いかかってくるの。支えきれないと助けようとした人まで共倒れになっちゃうものよ。」
「だから安易になんでも助けなきゃいけないっていうのも間違ってる。生き残るには、切り捨てるのも必要なの。それは悪じゃない、身を守る大切なことよ。」
「それを非難する人なんか無視していい。できないことを人にやらせるのは悪よ。みんなそれぞれ事情があるんだし、その事情を言う必要もない。」
「助けられるときに、助けられるようなら、助ければいい。」
うん。
だけど僕はまだ、そういうのよくわからないや。
ゴール手前で立ち止まり、その女の子の方を見た。
もう走れないのか、歩くのより遅い速度でトボトボと前進している。
僕は引き返して女の子のところまで行った。
他の人たちが次々とゴールしていく。
なにやってんだとヤジもとぶ。
でも気にするもんか。僕には・・天使様がついている。
・・女の子はもう動けないのか、地面にへたり込んでいた。
近くに来た僕を見上げてキョトンとしている。
ゴールまで行こう。
理世「・・もう、動けない・・」
じゃあ、連れてってあげるよ。
女の子をお姫様抱っこして、ゴールまで走った。
ああ、なんて・・
きついんだ!
少し歩いたから体力戻ったけど、女の子抱えて走るって普通に走るより無茶辛い!!!
かっこよくいきたかったけど、ぜーぜーはーはー言いながらなんとかゴールした。
もうだめ・・マジきついです。
「あ、スポドリきつい子に渡しなさい。」
動くのもきついのに・・ふらふらしながらスポーツドリンクを姫宮さんに渡した。
優月「・・まだ休憩じゃないけど?」
あれ?言われてみればそうだ。
先生「ほほぉ、ずいぶん元気があり余っているようだな。」
あ、先生♪もうへとへとです♪
先生「お前は特別もう一回走れええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
先生「他のやつらは休憩!」
やったぁ休憩であってた!(僕以外)
泣き叫びながらもう一回走った。
・・
・・・・
合宿・・山の中・・屍がひとつ(僕)
完走したけど、もう・・動けない・・地面に倒れぐったり。ああ、地面が冷たい(汗で地面が濡れて冷えた)
栞「よくがんばりました。」
鮎川さん!
がばっ・・と起きたいけど、起き上がらないいい。
優月「バカみたい。」
姫宮さんもいるんだ・・だめだ、体が動かない・・
「あ、今起きればきつい子のパンツ見えるよ。」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお生命を燃やせ僕ぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!!!
栞「起きた起きた♪すごいかおー。」
優月「きしょい。」
あれ・・姫宮さんのパンツ・・見えないよ?
「天使のいたずら」
怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒
優月「ほらタオルよ。」
ひんやりとしたタオルが顔を包み、疲れと怒りを吸い取ってくれる。
コレガヒメミヤサンノカヲリ
優月「変態のにおいを感じるわ。」
栞「変態?どこどこ?」
ごめんなさい。
栞「肩貸してあげるね。みんなもう食堂行っちゃったよ?」
そっか、もうお昼か・・
栞「梨本くんすっごく走ってたね。」
優月「バカみたいだった。」
栞「うわぁ、すっごい汗。」
あ、すみませんにおいますか?
栞「うーん・・あ、お父さんのにおいに似てるかも。」
加齢臭?
栞「ううんそうじゃなくて、男の人のにおいっていうか・・」
優月「発情でもした?」
栞「あやいやうやそうじゃなくてぇぇ。」
優月「なに慌ててるのよ・・え?まさか本当に発情・・」
栞「ちちち違うのそうじゃなくて、ただちょっと・・ドキッと・・あの・・」
優月「あんた先輩が好きなんでしょ?浮気性なの?」
栞「あああなんでそれをああそうじゃなくてあのあの先輩とは付き合ってないというか浮気とか違くてそのぉ」
こんなにもかわいく慌てた鮎川さん見るの初めてかも。
優月「それに・・ファザコン?」
栞「ちちち違うからぁ!パパはその、かっこいいけど、男としては見れないっていうか、その・・」
優月「当然でしょ。父親を男として見てたら危ないわよ。」
栞「だ、だよねー。」
旅館の入口まで行くと、女の子が待っていた。
僕がお姫様抱っこした子だ。
理世「あ・・」
栞「理世ちゃんだ。待っててくれたんだ。」
理世「・・うちのせい・・だから・・」
理世さん?
優月「下の名前で呼ぶなんて仲いいのね。」
理世「はぅ!?」
あ、いやその、上の名前なんだっけ・・
「その子は品川理世よ。」
天使様頼りになる!
「俳優とか物の名前とか、ど忘れしたら天使にお任せ!」
すごく限定的な使い道だ。
えっと・・品川さんだっけ。
理世「は、はい。先ほどはすみませんでした・・うちがのろまなばっかりに・・」
あーいや、僕が勝手にしたことだから。
栞「あれはすごーくびっくりしたよ。映画のワンシーンかな?って思っちゃった。」
栞「ヒロインだったよ理世ちゃん。」
優月「あんたってさ、女の子なら誰にでもアプローチするの?」
え?いや別にそういうわけでは・・
栞「あれー、もしかして優月ちゃん、梨本くんに”自分だけ見て欲しい”とか思っちゃってる?」
優月「なっ、そ、そんなわけないわよ!こんなのに好かれても迷惑なだけなんだから!」
栞「そうかなぁにやにや。」
優月「そうよ!こんなのなんとも思ってないんだから!」
栞「私はちょっと寂しいんだよねー。梨本くんには結構話かけたりしてたのに、他の子ばっかりアプローチしてさー。」
栞「かわいがってたペットが他の人に懐いちゃった気分。」
優月「ペットだって。嬉しい?」
むっちゃ嬉しい。ペットでいいからかわいがってくださーい。
・・と本心は言えないなぁ。うーん反応に困る。
「目をかけてくれてありがとうって言えばいいのよ。」
それもそっか。
地味で目立たない僕によく話しかけてくれてたのはわかっていました。
辛くてもがんばってこれたのは鮎川さんのおかげだと思っています。
おかげで学校や部活が楽しいです。本当に感謝しています。
栞「・・えへへ、なんか照れくさい感じ。」
優月「あんたってさ、たまに変なこと言うわよね。」
変ですか!?
優月「キャラが違う感じ。誰かからカンペもらってるんじゃないの?」
大正解だ!いや信じてもらえないだろうし言わないけどさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
・・
・・・・
食堂へ行くと、もうみんな食べ始めていた。
先生「うわ、女の子3人引き連れてハーレム漫画の主人公かよ!ラノベかよ!なろうかよ!」
その理論でいくと、僕は鈍感系主人公ですか?
先生「お前はモブキャラその2くらいでいいんだよ!どう見ても主人公はオレだろ!!!」
部員1「違う」
部員2「違う」
部員3「違う」
部員4「違う」
部員5「違う」
部員6「違う」
部員7「違う」
部員8「違う」
部員9「違う」
先生「ヒーローは常に孤独だ。」
孤独なのは変態だからじゃない?
主人公キャラと言ったら、先輩がそんな感じ。
先輩「俺?」
優月「納得。万能系鈍感主人公ね。」
先輩「あれ、だとするとこれNTRルートか。」
そういや女の子は僕の周りに・・あれ、僕寝取りキャラ?
ああいえ違います!ぼ、僕は・・ストイックを目指してるんです!
先生「ぶぅわはははははははははは!ちょ、梨本お前、味噌汁吹いちゃったじゃないか!」
そんな笑うとこ?
先生「みんなも笑いこらえてるぞ。」
2年男「女の子はべらせてストイックはねーよ。」
3年女「梨本がストイックなら私たち全員ストイックよね。」
先輩「まぁなんだ、コントしてると食べる時間なくなるぞ?」
コントじゃないし!
・・とはいえ、食べる時間がなくなるのは死活問題かな。
急いで席について昼食を食べた。
・・
・・・・
昼食を終え、腹ごなしに軽く旅館内を散歩・・あ、足にまだダメージ残ってる。
・・と、姫宮さんだ!
優月「あら?」
そういえば姫宮さんってラノベとか見るんですか?
優月「え!?」
先輩のこと万能系鈍感主人公とか、そういうの好きな人じゃなきゃ言いませんよね。
優月「~~~~ちょっとあんた!」
はい?
姫宮さんが怖い顔して迫って来た。
キス・・じゃないよね。
優月「私が!そういうの見てるのとか!絶対秘密だから!!!」
でも、もしかしたらさっきの会話で察した人いるかも。僕みたいに。
優月「それでも!!!」
はぃ。でもなんで?
優月「・・」
「説明!自分をクールキャラで優秀だと思っているきつい子は、漫画やゲーム好きだけど秘密にしているのだ!イメージに合わないからって理由で!」
天使様すごいなぁ。個人情報保護法とかなにそれ?ってレベルで超越してるけど。
姫宮さんがそういうの好きでなんかほっとしました。色んな趣味を理解できるって素敵なことだと思いますよ。
優月「そ、そう?」
姫宮さんみたいに優れた人が大衆芸術を理解できるって、人の気持ちがわかる人ってことですよね。
度量の広いリーダー的素質が感じられます。
優月「ふふん、当然よ・・あ、そうそう、あんたこれわかる?」
スマホの画面を見せられた・・将棋?画面の端っこしかないし、なにしてるとこ?
「詰め将棋ね。そこの金を右に移動。」
えと、金を右に移動。
優月「金を右に移動ね。」
「銀を左斜めに動かして桂馬をとる。あ、成らないで。」
成らないってなに?まぁいいや。
銀を左斜めに動かして桂馬をとって。で、成らない。
優月「銀のままにするのね。ふーん。」
「手持ちの香車を銀の右斜め下に置く。」
手持ちの香車を銀の右斜め下に置く。
優月「あ、わかった!」
なにが?
優月「あとは角を動かして・・うんうん、で・・あ、クリア!」
なにが起こってるのかさっぱりわからん。
「詰め将棋と言って、常に王手で攻めて相手が逃げられなくなるまで追い詰める将棋遊びよ。」
将棋とかよくわかんないや。
「将棋はよくできたパズルってとこね。コンピュータゲームでよくあるパズルゲームより駒の種類は多いけど、数は少ないからパターンを暗記すれば勝てる遊びよ。」
へぇ。
「人間は全パターン暗記する前に寿命が来るけどね。」
だめじゃん。
「メジャーなパターンを暗記すれば大体勝てるわよ。そこは他のパズルゲームと同じようなもの。」
「とはいえ対戦型のゲームだから、お互いが同レベルになると先行後行で勝負が決まるけど。」
うん、僕にはよくわかんないや。
優月「昨日思考系ゲームが得意って言ってたけど、本当みたいね。」
あーうん。
天使様がね、うん、得意なのであって、僕は・・スピーカーみたいなものですはい。
優月「ねぇねぇじゃあこれわかる?」
天使様わかる?
「私にわからないパズルがあるなら見てみたいわ。」
ですよね。
天使様の指示の下、さくさくパズルを解いていった。
優月「す、すごーい!・・誰にでも得意なことってあるのね。」
天使様と会話できることかな?
優月「・・あんた意外とやるじゃない。わ、私のファンってことみたいだし、下僕にしてあげてもいいわ。」
・・え、そう言われても・・
「喜んでお受けいたしますご主人様と言って、ひざまずく。」
喜んでお受けいたしますご主人様。
そう言って片足ついてひざまずいた。
優月「ふふん、忠誠には応えてあげなきゃいけないわね。手・・手の甲にき、き、キスしてもいいわ。」
えーと。
失礼します。
姫宮さんの手を取り、優しくキスをした。
優月「ふふんっ。いい子にしてたらかわいがってあげるわ。」
姫宮さんの顔が赤い。少し照れてるのかな?
こうして僕は、姫宮さんの下僕に・・なんでこうなった!?
「ちなみにね、このまま仲良くなると恋人同士になるルートもあるわ。」
どう考えても主従関係にしか・・
って、僕はストイックに自分の成長に専念するんです。恋人同士とか不必要です。
「きつい子だったのがデレデレになって甘えて来るようになるの。」
あ、そこのとこ詳しく。
「仲良くなるまでのハードルは高いけど、一度心を許すと身も心も委ねてくるの。」
「普段は意識して気を強くしているだけで、本当はもっと仲良くしたいわけよ。」
「付き合い方を知らないから、そんなとこまで?ってくらいなんでもしてくれるようになるから。」
や、やっぱりストップで!これ以上聞いたらストイックやめちゃいそう!
「そーお?きつい子より優秀だって見せつけると逆にあの子が下僕になってご奉仕してくれてね・・」
わーわーそれ以上聞いたらやーばーいー。
姫宮さん・・恐ろしい子・・
・・
・・・・
先生「おーし、午後の練習始めっぞ!・・おい梨本。」
はい?
先生「足見せてみろ。」
え?
先生が僕の足を軽く揉む。
先生「うん、まだ休憩が必要だ。お前はもう30分休憩してから来い。」
あ、はい。
まぁ確かにまだ足痛いけど・・
先生「お前ら梨本をよく見とけ!体は無茶しなきゃ成長しないが無理しすぎると壊れちまう、今のうちにその境目ってやつを覚えておくんだ!」
先生「今は先生がお前らの限界を教えてやれるが、大人になったら自分で見極めなきゃいけなくなる。」
先生「言われたことだけやって成績をあげたり、記録伸ばすだけじゃなく・・成績の上げ方、記録の伸ばし方も学べ!それがいわゆる”自己管理”ってやつだからな!」
先生「学生の頃の結果なんてそう気にすんな、むしろ本番は大人になってから・・必要な時に必要な力を身につける”やり方”ってもんを今のうちに覚えるんだぞ。」
なんか先生が先生っぽい。
先生「まあ先生だからな。事故を起こさないとか、決められたカリキュラムをこなすだけじゃなく、お前らがいっぱしの大人になれるよう指導するのがオレの役目だ。」
先生「生徒に勉強を教える教師は二流だ。生徒に勉強の仕方を教える教師が一流ってもんよ。」
ほんと、変態じゃなければいいのに。
限界を学ぶ・・ってことで、僕の足をみんなが見ていった。
うーん恥ずかしい。
先輩「足パンパンだな。いいなぁここまで自分を痛めつけられるなんてうらやましい。」
変なところでうらやましがられた。
先輩もストイックなところあるからなぁ。
栞「先輩にうらやましがられていーなー。」
こっちはこっちで羨望の眼差しで見るし。
優月「あらすごい。先生の課題を2倍くらいこなすとこんな感じになるのかしらね。」
姫宮さんに触られてちょっとドキドキ。
理世「あの・・無理しないで早くよくなってくださいね。」
ありがとう。
なんか照れちゃうな。
・・みんな外へ出てシーンとなった。やがて旅館の人たちが食器を片付けに来るだろう。
うーん、ここにいても邪魔になるだろうし、ゲームコーナーでも行こうかな。
「あなた今、なんて言った?」
天使様?えと、ゲームコーナーでも行こうかなって。
「なんで?いえ、あなたはそれを言わないはず。なんで言ったの?」
え?いや、なんとなくだけど、え、どうしたの?
「・・おかしいわ。干渉されてる・・気をつけなさい、私と同等か、それい」
途中で言うのやめないでください!怖いじゃないですか。
・・あれ?天使様?
シーンとした旅館。天使様と交信できなくなり、しかも最後の言葉がなんかやばめな感じ。
あはは冗談ですよね。
冗談だって言ってよ!
しかし返事はなかった。
ちょっ!ああもう、どうすればいいんだ?
こういうときは・・ま、待機かな。変に動いてもなんだし。
横になってひと休みする。
はぁ・・安らかな時間だぁ・・
少しして時計を見る・・が・・時間が・・進んでいない?
あれ?ホラールート?殺人鬼とか登場しちゃうの?
じっとしているのはまずいのか?どうする?どうすればいい?
ひとりでいないことだな!フロントに行こう、そこなら他のお客さんや従業員さんがいるはず。
・・
・・・・
宿の入口まで来たけど・・誰もいない。
シーンとしている。
嘘だよね?あ、ちょっと早いけど練習場!練習場で休憩しよう!
先生に怒られるかもしれないけど、旅館の人たちが片付け始めたので見学しながら休みますって言おう。
・・
・・・・
あはは。誰もいない。
みんなどこへ行ったの?てか僕はどうすればいいの?
このままじゃ殺される?狙われてる?
・・あ、ゲームコーナー。
天使様が言ってたな。僕がゲームコーナーに行くとは言わないはずだったって。
そこに・・行けってメッセージか?
・・
・・・・
ゲームコーナーへ行くと、1台だけ機械が動いていた。
そこが僕の席?
ゲーム機のところの椅子に座ると、ゲームが動き出した。
お金入れなくても動くなんて親切!って勝手に動くなんておかしすぎる。
「ようこそ。」
歓迎・・かな?
「人間は空間3次元に時間1次元の世界にいる。普通の天使はそこから4次元を加えた世界にいる。」
「私はさらに2次元加えた世界からキミに干渉させてもらった。天使でもこの世界には来られない。」
ん、今何次元なんだ?
メッセージが速くてよく覚えられなかった。
「10次元だよ。10次元から干渉すると平行世界へ誘うことも可能になる。いずれ人間もそのことを知るだろう。」
はぁ、そうですか。
「ただし人間は10次元を目で認識することができない。キミが見えるのは3次元空間までだ。」
まぁ、はい。
あの、どちら様でしょうか?僕になにか御用ですか?
「そうだね、自己紹介くらいしないとな。私は天使だよ。キミのところにいる天使よりずっと昔から人間を見てきた古い天使。」
あ、なーんだ。あなたも天使様でしたか。
じゃあ安心だ。
「安心?勘違いしているようなので訂正しておこう。キミのところの天使と私は敵同士だ。仕える神も違えば存在理由も相反する。」
え?あれ?もしかして僕、籠の中の鳥みたいな状態?
「気が向いたら殺してもいいが、ひとつ安心材料があるとすれば・・キミを殺す場合、キミは死んだことすら気付かない。痛みなく死ねることかな。」
わーい安心・・じゃないですよね・・
「キミへの用だが、そちらの天使はキミになにをさせようとしているのかな?」
え?いや別に・・僕が成長するのをアドバイスしてくれています。
僕・・もっと早く走ったり、勉強できるようがんばりたいんです。
「わかった、帰っていい。」
え?いいの?僕を殺したりとか・・
「キミに害はない。そして私の目的は人間を殺すことじゃない。キミの天使とは違ってね。」
それってどういう・・
・・気が付くと、食堂にいた。
「じょうの存在が仕掛けているかも。」
・・時間が・・戻った?
いや、時間は止まっていたから、動いていないんだ。天使様が気付かないくらい・・
「あなた今、なに考えた?」
・・他の天使様が話しかけてきました。
「他の・・ミルク?いえ、私に気付かせずにそんなことできるはずがないわ。」
名前は名乗りませんでしたけど、天使様より2次元多いところから干渉したとか。
「・・そう・・」
あと天使様の敵だとか、天使様と違って人間を殺すことは目的じゃないとか言ってました。
「そう・・」
天使様は、人間を殺すのが目的なんですか?
「天使はね、神様の手足となって行動するの。もし仕える神様がこの世界を滅ぼせと言ったら天使はその通りにするのよ。」
「そして私の神は破壊神。この世界を滅ぼすために来たわ。」
滅ぼすんですか?
「いつかは滅ぼすわ。でもいつ滅ぼしてもいいでしょ。そんなの私の勝手よ・・」
天使様・・
「幻滅した?」
いえ。それでも天使様は、天使様だと思います。
「意味が分からないわ。」
ごめんなさい。でも、天使様が僕に色々してくれたことは変わらないし、僕の気持ちも変わりません。
あ、でも、人間滅ぼすとか言われたらどうすればいいかわかりませんけど。
「いいのよ。人間がどうこうできる話じゃないから。」
「どうせ人間も天使も神様の手のひらの上よ。気にしたってどうにもならないわ。」
天使様・・
「はい、そろそろ練習場に行きなさい。休憩時間が終わるわよ。」
あ、はい!
「スポドリ買って冷やしときなさい。」
かしこまり!
「(・・私とミルク以外の天使・・人間を殺すためじゃないってことは、創造神側・・誰?そんな天使がいるなんて、私知らない・・)」
・・
・・・・
午後の練習を終えて、夕食をいただく。
栞「夕ご飯お肉だ~、この厚みがたまんないよね。」
いつも食べてる超薄切り肉とは違うなぁ。
栞「おいしぃ~」
優月「喋り過ぎよ。少しならまだしも、べらべら食事しながらしゃべるって行儀悪いわよ。」
栞「話ながら食べた方がおいしいよ。ね、梨本くん♪」
優月「・・」
笑顔で聞いてくる鮎川さんと、無言で睨んでくる姫宮さん。
ああ、今なんか究極の選択みたいな感じになってる。
ここはまぁ、曖昧な返事でお茶を濁すのがいいかな。
「バカ女に同意しなさい。」
バカ女って・・鮎川さんのこと?
えっと、せっかくみんなで食べているんだし、話をした方が楽しいかなぁと・・
優月「・・」
眉間にしわを寄せて無言でこちらを非難してくる。
うわーん怖いよぉ。
栞「だよねだよね。ん~いい子いい子。」
鮎川さんがなでなでしてくれた。
頭を撫でられたのに反応するのが股間なのはどうして?
優月「ふんっ。」
あ、ぷいっと向こうを向いてしまった。
どうすりゃいいの?
「耳元でご褒美をおねだりしなさい。」
・・それでいいの?怒られないかなぁ。
(姫宮さん、味方してほしいならご褒美ください)
優月「(・・は?普通逆でしょ?)」
(昼間のご褒美素敵でした。もっとご褒美欲しいです。ご褒美くれるなら僕、なんでもします)
優月「(な、なによ・・なんでもって、あんた鮎川さんが好きなんでしょ?)」
(ご褒美のためならもう他の人を見ません。ずっと姫宮さんだけ見続けます)
(姫宮さんのご褒美もらえるなら、死んでもいいです。一生尽くします。だからご褒美欲しいです)
(僕が他の人を見るのは、姫宮さんが素敵すぎるからなんです。見続けると心がとろけて全部吸い取られてしまいそうになるんです)
(僕のすべてを吸い取られないよう、あえて目をそむけていたんです)
(でも・・姫宮さんが僕を独占したいなら、僕は姫宮さんのものです。僕にとって姫宮さんがすべてなんです)
優月「(・・う・・ちょ、なに気持ち悪いこと言ってんのよ!)」
(お慕いしております。僕の素敵なご主人様)
優月「(わ・・わかったから食事に戻りなさい・・あんたの気持ちはわかったから・・)」
(はい)
栞「(なーんか優月ちゃんって梨本くんには心許してる感じするなぁ)」
先生「つーか梨本、なにお前ハーレム作ろうとしてんの?」
え?
先生「左に鮎川、右に姫宮、んでもって姫宮の隣に品川までいてさ。なにはべらしてんの?」
・・そういや姫宮さんは毎回僕の隣だっけ。鮎川さんは違うときあったけど。
てか品川さんが(物理的に)近づいてきてた?
理世「・・」
先生「お前ストイックはどうしたよ。」
ええと・・なんででしょう?ストイックを目指したら・・こうなった?
先生「えーいストイックでハーレム作れるんならいくらでもストイックになってやるよ!どうだ!?女子生徒たちよ!オレのこの肉体美!」
みんなは思った。キモい、と。
あとそれ、ストイックじゃないし。
先輩「まぁあれですよ先生。なんだかんだありましたけど梨本がんばってるし、やっぱそういうとこを女の子は見ているんですよ。」
先生「オレもがんばって先生するから誰か嫁にカモン!」
しかし誰も行かなかった。
先生「なんでじゃー!!!」
優月「女なら誰でもいいなんて考えでは誰も愛してくれませんよ。特定の人を特別に愛するから価値があるんです。」
先生「姫宮いいこと言った!よしオレも特定の人を特別に愛そう!姫宮、結婚しよう!ヴァージンロードを共に歩こうじゃないか!」
優月「教育委員会に訴えます。私たちの行先は法廷です。」
先生「PTAはマジやばいから!そうだ、鮎川愛してるぞ!」
栞「ごめんなさい好きな人がいますので。」
先生「ぐはぁっ」
地味に僕もダメージを受けた。
先生「品川~、お前なら先生の気持ちわかってくれるよな?先生なぁお前を見ているといじめたくていじめたくて股間がうずくんだよ。」
理世「・・あ、あの・・」
先生・・それ、もう誰でもいいっていうのと変わりませんよ。
先生「だってだって、先生もう今年で39歳なんだもん!来年は40代だぞ!?もうお前らの2倍以上生きてるのに、恋愛経験はお前たちより負けてるかもしれないんだって!」
栞「先生の恋愛経験って?」
先生「年齢=彼女いない歴」
涙無くして語れないなぁ。
・・
・・・・
夕食が終わり、合宿二日目の夜を迎える。
昨日はゲーセンだったけど、今日も?
「それよりもっと楽しいことがあるわ。」
ゲーセンよりもっと楽しいこと?
鮎川さんと一緒に温泉とか。
鮎川さんと一緒に星を見たりとか。
鮎川さんと一緒に土産物を見たりとか。
「肝試し♪」
・・超つまんなさそう。
「私の力で旅館をホラーハウスにしてあげるわ。」
あ・・壁が、廃墟みたいにボロボロに・・
明かりも薄暗くなった。
「部屋に戻ればゴールね。チェックポイントは壁の見取り図に表示されるから。」
うーんどうしようかな・・
ずん!
え?・・後ろを見ると、斧が壁に刺さっているように見える。
?「ふー、ふー・・」
曲がり角の向こうに誰かいる!
「殺人鬼よ。殺されないよう気を付けて!」
脅かすだけですよね?
「もちろん・・殺されたら死ぬわよ。さ、チェックポイントに向かいなさい。」
いやですぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
僕は一目散に部屋へ向かった。
命懸けの肝試しとか平和な現代には合いませんって!
・・ダッシュへ部屋の前まで辿り着いた。
途中、コウモリの群れがいた程度でよかった。
他の殺人鬼とか出会わなくて本当によかった。
「狩りじゃないから、絶対殺す配置とかしないわ。それよりチェックポイント行かないの?」
部屋へ戻って肝試しは終了です。
走って汗かいちゃったよ。
「そう。女の子たちはかわいそうだけど、あなたがそうしたいなら構わないわ。」
女の子たち?
「女の子がチェックポイントなの。女の子の部屋へ連れて行くとチェックポイントクリア。」
もし、僕がこのまま部屋へ戻ったら?
「憐れ女の子は怪物の子を孕まされるのでした。めでたしめでたし。」
めでたくない!
助けなきゃ!
「ふふ、壁の見取り図にチェックポイントが表示されてるから。」
壁を見た。
・・あれ?地図にひとつしかチェックポイントないけど・・
「その階の地図だからね。他の子は他の階よ。」
ならまずはこの3階の女の子からだ!
女の子の部屋は2階にある。まずは最短ルートを狙おう。
「やる気が出たみたいで嬉しいわ。」
出したくて出たわけじゃないです!
・・
・・・・
・・ええと、地図を見るとこの辺に女の子がいるはずだけど・・
辺りを見回すと・・いた。
品川さんが小さくうずくまって震えている。
品川さん、もう大丈夫だよ。
恐る恐る品川さんが顔をあげた。
理世「・・梨本くん!」
え?
品川さんが抱きついてきて・・いやあの、女の子って柔らかいなぁ。
いやーなんて素敵なイベントなんだ。さすが天使様だ!一生ついていきます!
「言質をとったわ。ストーカー確定。」
違います。
理世「怖かった・・」
これは夢だよ。
理世「夢・・?」
うん。部屋に戻れば夢から覚める。さ、部屋へ行こう。
理世「・・うん。」
品川さんと女の子たちの部屋へ向かう。
品川さんか・・正直今までまったく興味なかったけど・・
おとなしくてかわいい。
鮎川さんみたいに元気が溢れているわけでもなく、姫宮さんみたいなとげとげしさもなく。
こう、柔らかな感じがする。
男の嗜虐心を煽るというか・・いえなんでもないです。
理世「きゃあっ・・」
品川さんが僕の袖をつまんできた。
僕もこの光景は怖い。
壁いっぱいに、血しぶきがついていた。
・・僕がついてるから。
理世「うん。」
女の子たちの部屋が見えた。
あと5メートル。あと4メートル。あと3メートル・・なにも起きるな。起きないでくれ。
・・なにも起きずに到着した。
よかった。
部屋に戻れば夢から覚めるから。あとは寝て、また明日会おうね。
理世「夢・・なの?」
そうだよ。
理世「なら・・いいよね・・」
品川さんが、僕のほっぺにキスしてきた。
理世「・・おやすみなさい。」
お、おやすみなさい・・
ドアが閉まったのを確認して、僕はガッツポーズをした。
本当は叫びたかったけど、迷惑になるもんね。
「あ、どれだけ騒いでも平気だから。全力疾走しても怒られなかったでしょ?」
もしかして、他の人はこっち来れないの?
「ええ。人間は、あなたと3人の女の子しかいないわ。関係ない人に迷惑かけることはしないから。」
「別空間にいるようなイメージね。斧で壁を壊しても平気。」
できれば僕や3人の女の子にも迷惑かけない方向で・・
「いっそ殺せって言いたいのね。わかったわ、殺してあげる。」
いやー肝試し楽しいな!さ、次の女の子を捜そう!
「(ぼそっ)殺したいな・・」
聞こえない聞こえない!さぁ地図を見よう!!!!!
・・あれ、チェックポイントがない。
ここは2階。3階は品川さんしか反応なかったし・・1階か!
階を降り・・1階へ。
殺人鬼は見当たらない。地図を見ると・・チェックポイントがふたつ。ここだ!
ただ位置が真逆だからひとりずつかな。
まずは・・近い方だ!
・・
・・・・
?「いやぁぁぁぁぁ!」
悲鳴!?急がなきゃ!
この声の感じからすると・・・・姫宮さん!
優月「いやぁ来ないで!」
近い!
姫宮さん!!!
優月「死ね!」
ぐふっ!?
姫宮さんの鋭いグーが僕のお腹をとらえた。
・・姫宮さんなら・・ボクシングでてっぺんとれるよ・・
優月「梨本くん?」
えーと、これは夢です。
部屋に戻れば夢から覚めます。
優月「それはないわ。私、夢は必ず明晰夢にするようにしてるから。」
優月「夢の中は多くがボヤけているの。でもここは違う。ここは現実よ。」
姫宮さん・・なんかすごい。
そのとき、もぞもぞとなにかがやって来た。
優月「ひっ。」
ななな・・なんだこの化け物は!
?「孕ませてあげるよ~」
体が蜘蛛で、顔が人間の・・人面蜘蛛だ!
逃げよう!部屋まで行けば大丈夫だから!
僕たちは一目散に逃げ出した。
?「女は子蜘蛛を作る苗床。男は子蜘蛛のエサ。一度に揃ってラッキー♪」
アンラッキーだあああああああ!!!
優月「なんなのあれ!?」
蜘蛛のような人間のような。
わかりません!
この蜘蛛、結構速い!部屋のドアを開けている最中に捕まったらシャレにならない。
なにか方法はないか・・あ!
僕は設置された消火器を手に取り、安全ピンを抜いて人面蜘蛛に向けて噴射した。
?「うぎゃっ、うぎゃっ!」
今のうちに!
優月「え、ええ。」
なんとか撒けたみたいだ。
無事に女の子部屋まで来れた。
部屋に入れば大丈夫だから。
優月「本当?」
眉間にシワを寄せながら、姫宮さんは部屋へ入った。
これでよし。あとは・・多分鮎川さんだよね?
・・
・・・・
場所がわかっているのだから迷うことはない。
1階へ行き、鮎川さん発見・・あれ?
栞「梨本くん!」
先輩「無事でなにより。」
な、なんで先輩が・・?迷い込んだ?
天使様ちゃんとしてください!
栞「先輩とも会ったばかりなの。いきなりこんな・・どうしよう・・」
えっと、これは夢です。
部屋に戻れば夢は覚めます。
栞「そっか、よかった♪」
ふー、姫宮さんと違って素直でよかった。らくちん。
先輩「急ごう。変なのに出くわしたら大変だ。」
ですね。
僕たちは慎重に女の子たちの部屋へ向かった。
・・が、2階に上がったところで人面蜘蛛に見つかった!
蜘蛛も1階から上ってくる。
?「子蜘蛛のために犠牲となれ!」
いやどす。
僕は消火器を手に取る。
?「ふふふ、さっきは驚いたがその武器に攻撃性はない!」
がん!
投げつけた消火器が人面蜘蛛に直撃した。
人面蜘蛛を倒した。経験値を10手に入れた。
物理最強伝説。
栞「梨本くんかっこいい!」
先輩「やるねぇ。」
今のうちに行きましょう!
なんとか女の子たちの部屋へ辿り着いた。
中へ入れば夢から覚めますから。
栞「うん。おやすみ~」
おやすみなさい。
ドアが閉まり、先輩とふたりになる。
じゃあ行きましょうか。
先輩「あの世にな。」
え?
先輩の顔が割れ、割れたところから牙が見えた。
はは・・ははは・・・・化けてたのか!
先輩?「ふたり相手は危険だからな!待ってたぞこのときを!!!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
全力ダッシュ!!!
冷静になれ。あとは3階の・・男子の部屋に戻るだけだ。
ここは2階。まずは階段で3階に上がって・・あ。
殺人鬼「獲物に会えたことを感謝します。」
獲物からしたら、たまったもんじゃないよ!
全力疾走!後ろをちらっと見る・・化け物ども結構速い!
あまり差がついていない。
どうする?
どうすればいい?
あ・・曲がり角・・コーナリングがうまくいけば引き離せるかも。
でも、どう曲がれば・・
「曲がり角はスピードを落とせばうまく曲がれる・・でも、速さを求めるならスピードを落とさず走りたいわよね。」
天使様!
「左に曲がるなら、体を左に傾ける。右足でしっかり蹴って、右手の振りを少し大きくする。」
「顔は体と一緒に曲げず、地面と垂直になるようにしなさい。」
はい!
天使様の言う通り・・コーナーを・・曲がれた!
化け物どもを引き離した!
「まだまだ荒いわ。でも初めてにしてはまあまあね。」
部屋のドアが見え・・あれ?ドアのさらに向こう側・・人面蜘蛛がいる。
?「あ、エサだ。」
前には人面蜘蛛、後ろには殺人鬼と先輩に化けたやつ・・あとはもう蜘蛛より早く部屋に入るしかない!!!
距離は殆ど同じ!負けるか!!!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
?「食うぞ食うぞ!」
どっちが速い?
蜘蛛か?僕か?
・・僕だ!
間一髪、部屋に入った!
よっしゃ!
「おめ。3匹の化け物は、あなたが肝試しする直前の速さだったのよ。」
え?でも僕、化け物より速く走ったような・・?
「命懸けで走ると成果が段違いね。コーナーを曲がる練習にもなったわ。」
もしかして・・これも走る練習?
「女の子と仲良くなって、走る練習にもなる。素敵なイベントだったでしょう?」
一石二鳥ですね。
はは・・練習だったのか。
そうだよね、本気で殺したりはしないか。
「え?捕まったら殺されるわよ。嘘は言わないわ。」
・・えええええ・・
先輩「・・なんでそんな汗かいてるんだい?」
部屋の中に先輩が!?
・・あ、いるのが普通か。男子部屋でした。
先輩「まさか走ってたのか!?」
あーいえ、ちょっと全力疾走したのと、コーナー走っただけです。
先輩「昼間あれだけ走ったのにとんでもない後輩だ・・最高!」
先輩はウィンクしながら親指を立ててグーっと言った。
先輩「だけどそのままじゃ風邪を引くぞ。洗面台で汗を拭くんだ。俺は着替えを持ってくるから。」
あ、ありがとうございます。
先輩は親切だよな。
問題は・・この人が恋のライバルだということ。
外見で負けて内面で負けたら打つ手なしだよ・・
はぁ・・
先輩「悩み事かい?」
えっと・・実は先輩が恋敵なんです。
先輩「つまり、俺の彼女が好きなの?」
え?彼女?
先輩彼女いるんですか!?
先輩「うん。」
えーと。あれ?そういえば先輩に彼女いるってどこかで聞いた気がする・・
どこだっけ?覚えていないや。
・・先輩のことを片想いしている人が、僕の好きな人です。
先輩「俺は彼女を愛しているから、その人の気持ちには応えられないな。」
先輩「誰か教えてくれれば、彼女がいることを伝えるよ。」
あ、いえ大丈夫です。
まだ僕は・・その人にふさわしくないから・・
先輩「そのために特訓してるんだ。」
はい。
先輩「青春だね!そういうの俺大好き!」
僕も先輩くらいかっこよければ・・
「死ぬ気でがんばりなさい。」
はい。
「あ、死にたくなったらいつでも言って。」
お断りします。
・・
・・・・
その夜、夢を見た。
理世「梨本くん助けて!」
殺人鬼「お前はオレの子を産むのだ。言うことを聞け!」
品川さん!?
大変だ、すぐ助けなきゃ!
優月「う、動けない・・梨本、なんとかして!」
?「気の強そうな苗床だ。さぞ強い子蜘蛛を産んでくれそうだ。」
姫宮さんも!?
ど、どっちから助ければ・・
栞「いやー怖い!梨本くん助けてぇ!!」
先輩?「ふふふ、怖くないよ。むしろ気持ちよくなるよ。」
先輩に化けてた顔全体が口の化け物!
鮎川さんまで・・
理世「こんなのいや!」
優月「やめて!嫌!!」
栞「やだ・・梨本くーん!!!」
ぼ、僕はどうしたら・・
先生「おい梨本助けろ!」
先生(男)はコウモリにたかられていた。
3択・・誰を助ければ・・
?「決断できない人間は人形も同じ。人形であるな、人間であれ。」
・・
・・・・