エンディング
9月1日
朝早く目が覚めた。
そうだ、学校へ行こう!
始業式なのにこんな早く学校へ行くやつなんていないだろうな。
僕以外は。
ただいま6時半。
グラウンドを走って走って走りまくる。
もっと速く走りたい!
・・ぜー、ぜー、はー、はー。
きつい、辛い、汗が・・ペース配分間違えた・・全然ダメじゃないか・・
優月「あら?なんであんたがここにいるの?」
あ、れ・・?
姫宮さん?なん、で?
優月「私?特待生だから。人より練習するくらいで普通なのよ。」
さ、さすが、だ、ね。
優月「その私より早く来るなんて、あなたどういうつもり?」
速く走りたいから・・いや。
こほん、僕も姫宮さんみたいに速く美しく走りたいからです!たくさん練習すればきっと僕も・・
優月「・・なら一緒に走る?」
姫宮さんが笑ってくれた。
こ、これは・・いい感じなのでは?
となれば返事はひとつ!
はい!ご一緒させてください!
このまま仲良くなれば、ベッドの上で一緒に運動する仲に・・
ストイックを目指してたんだった。
姫宮さんと仲良くなりながら、ストイックを目指す方向でどうかひとつ。
・・ストイックじゃなくなってきた気がするのは僕の気のせいだよね。うん。
優月「じゃ、軽く走りましょう。」
はい!
・・
・・・・
こうして姫宮さんと仲良くなった僕は、姫宮さんの汗を舐めて綺麗にする役目を賜り、大事なところも綺麗にペロペロする毎日を送りました。
・・なんて思っていた頃もありました。
優月「遅いわよ!もっと速く!」
・・天使様より、要求が、きつい、です。
姫宮さん、と、同じ、スピードとか、無理、です。
先輩「おや今日は珍しい顔がいるね。」
せ、先輩?
優月「おはようございます。」
お、おはようございます・・
先輩「おはようふたりとも・・ふふ、いい顔してるね。」
え、僕?
先輩「キミは今、まさに限界を感じているところだろう。その限界だと勘違いしている壁を越えた時、もっと走ることが好きになれるよ。」
まだ、その境地には、達してませぇん。
先輩「これからこれから。その流した汗がキミの成長だ・・どうやら本気のようだね。」
教育者(姫宮さん)が本気なだけで、僕は別に・・
優月「なんかこいつ、私より速く美しく走りたいそうですよ。先輩もしごいてあげてください。」
先輩「エクセレント!目指す目標まであるとは・・俺でよければ喜んで走りを教えるよ。」
き、きついですか?
先輩「最初は優しく、徐々に厳しく、かな。」
最初は優しいのか。それならまぁ・・僕の実力に合わせてくれるならいいかな。
・・
・・・・
こうして先輩にしごかれた僕は、今では姫宮さんより先輩より速く美しく走れるようになり、大会では常勝、オリンピックも期待され学校の人気者になった。
・・なんて思っていた頃もありました。
先輩「ははは、さ、もう一周。僕はゆっくり走るから、僕より速くゴールするんだよ。」
ま・・待って、くだ、さい・・
先輩ゆっくりって言いましたよね?ゆっくりって言いましたよね!?
むっちゃ軽快に走ってるんですが!
僕が全力で走ってギリギリ追いつけるかどうかって速さですよ!?
先輩「なら全力で走ればいい。さぁ来るんだ俺たちの境地へ!」
むーりー。
ふええええええええええええええん
優月「クスッ」
今、姫宮さん笑いませんでした?
優月「よそ見しない!前を見なさい!」
先輩「ははは、罰としてもう二周追加してあげよう・・あ、ご褒美になっちゃうか。」
ご褒美、じゃない、です。
栞「あれー、梨本くんがいる。」
先輩「おはよう。」
栞「お、おはようございます!」
優月「おはよう。」
栞「おはよう優月ちゃん♪」
お・・はよ・・う・・
栞「おはよう梨本くん。うわーすごい汗。」
優月「気持ち悪いほど出てるわよね。」
先輩「もっと絞れると思うんだよね。足やお腹の無駄な肉を削ぎ落す方向で鍛えよっか。」
優月「短距離と長距離で必要な筋肉が違いますから、先に方向性を決めましょう。」
先輩「梨本のがんばりを見れば、長距離が向いているのでは?」
優月「やる気なんてどうせ今日限りですよ。短距離選手にすべきです。」
栞「なんの話?」
僕にもさっぱり。
優月「これをどう調教するかよ。」
え?調教?
栞「なら、優しいいい子に育ってほしいな♪」
鮎川さん・・それちょっと違う。いやいい意見だとは思うけど。
先輩「ははは、走りの方向性だよ。」
栞「ハードルや幅跳びは?」
先輩「それがあったか!」
優月「これの頭で、単純に走る以上のことができるかしら?」
先輩「・・」
栞「・・」
誰か否定して!
というか、走る時間なくなるよ!
先輩「梨本いいことを言った。なにより大切なことは・・走るのが大好きってことだ。」
優月「ま、基礎力がないとなにやってもダメよね。」
栞「じゃあみんなで走ろう♪」
・・え、まだ走るの?
その後、8時過ぎまで僕を取り囲んだ朝練は続いた。
うん僕が一番遅いから、みんなそれに合わせてくれたってだけの話。
・・
・・・・
づーがーれーだー。
朝からハードすぎです。
というか、みなさん自分の走りをしなくてよかったんですか?せっかく朝練に来たのに・・
先輩「平気だよ。というかいつもは授業があるからね、朝は軽く走る程度にしているよ。」
優月「私も。勉強と運動を両立してこそ優秀な生徒と認められるのよ。中途半端も一芸も私の求める先じゃないわ。」
栞「うんうん、その通り!」
鮎川さんは勉強できましたっけ?
鮎川さんは明後日の方向を向いた。
優月「さ、シャワーを浴びて教室戻りましょう。」
栞「うん♪」
シャワー!?
使ったことないっていうか、うちにそんな設備あったんだ?
・・ということは、もしかしたら鮎川さんや姫宮さんと一緒にシャワーを浴びる可能性も・・?
シャワー室は狭くて、一緒に入ったらくっつきながらシャワー浴びないといけなかったり。
そしてふたりの気持ちが高まったら、そこで・・なんてけしからんシャワーだ!褒めてやらねば!
優月「あ、シャワーは選手専用だから。」
・・え?
栞「んーとね、シャワー室狭いから、一部の人しか使っちゃいけないの。」
えっと、みなさんは?
優月「私、特待生なんだけど。」
先輩「俺も特待生だ。」
栞「私は使っていいって言われてるよ。」
なるほど、状況は理解した。
シャワー使えないの僕だけってことか!
優月「使いたかったら這い上がってくることね。」
栞「えーでもかわいそうだよ。使わせてあげようよ。」
先輩「男子用だけど、朝はそんなに人多くないし使っても大丈夫だと思うよ。」
男子用・・?まぁ当然男女別かぁ・・鮎川さんや姫宮さんと一緒は無理か・・ならどうでもいいや。
使用が許可制なら、僕は使わないでおきます。見つかったらみなさんにも迷惑かかりますし・・いつか実力で使用権を手に入れてみせます。
栞「梨本くん真面目だー。」
先輩「かっこいいねぇ。自分を持っているって感じだ。」
いえそんな・・
優月「別にいいけどね。濡れタオルで体拭いて、体操着干しときなさい!部活のとき臭かったら反省文だから!」
反省文はやだなぁ。
栞「タオルある?私の貸したげようか?」
え?鮎川さんのタオル?
くんかくんか不可避?僕の変態ゲージがみるみる上昇中?
・・い、いえ自分のありますからお気持ちだけで。ありがとうございます。
栞「そっかー。」
く・・ストイックに、ストイックに・・僕は一皮むけて大人になるんだ。
鮎川さんのタオル借りたら、股間を包んでべとべとにしちゃいそうだし・・あ、変態じゃないよ。
・・
・・・・
栞「みんなおっはよー!」
クラスメイト「栞ちゃん夏休みの宿題終わった?」
栞「もっちろーん!」
クラスメイト「え、うそ!?」
驚かれるくらい今までやってなかったのかな?
理世「お・・おはようございます。」
品川さんが小さな声で挨拶してきた。
おはよう。
理世「(ニッコリ)」
にこっと笑って席に着いた。
うん、女の子は笑顔が似合う。
朝が早かったからか、それとも朝練がきつかったからか・・僕は眠い。
確かカバンに眠気覚ましかなにかあったはず。塗るとスースーするやつ・・・・あれ?
見覚えのない紙が入っていた。
・・あ!
それは、天使様からの手紙。
”1年後、合宿で会いましょう”
”1年前のあなたと勝負させてあげるわ”
やった!来年合宿に行けばまた天使様に会える!
でも、1年前の僕と勝負ってなんだ?
1年前?1年後から見て1年前かな。というと・・今の僕?
合宿時の僕・・勝負?
意味がわからなかった。
・・
・・・・
1年後。
僕は合宿の・・夜の練習場にいた。
そこへ天使様が男の子を連れてやって来た。
「お待たせ。」
来なかったらどうしようって思いました。よかった。
言っておきますけど、去年僕と走った未来の僕より速くなりましたよ。
「それでいいのよ。」
僕は男の子を見る。
合宿の後、僕がどうなったか教えてあげたい。
「さ、走るわよ。」
陸上の大会でどんな成績だったか。
「位置について」
どんな日常を過ごしているか。
「よーい」
そして・・恋愛のこととか。
僕はにやっと笑った。
「スタート」
1年前の僕が走り出す。
ああ、あの頃はベストな走り出しだと思ったなぁ。
先輩たちはこういう気分で僕を見てくれてたのかな。
成長してようやくわかる。
そして、途中手を抜いているのも見てわかる。
あー恥ずかしいです。
「懐かしい?楽しんでいってね♪」
はい!
男の子がトラックを1周した。
さーて、そろそろかな。
僕はクラウチングの構えに移った。
さぁ・・勝負だ!
僕は走り出した。
なぁ僕、これからを楽しみにしてろ。
ワクワクやドキドキすることがたくさんあるからな。
僕は走りながら、最後のトイレ駆け込みタイミングを真剣に考えた。
END.