三周目8月28日
合宿も6日目。
明日には合宿も終わる。
悔いのないよう最後まで気を抜かずがんばろう。
「敢えて逆をさせたくなるのは人の常」
天使様は人じゃないでしょ!
僕はもう慣れた動作で準備をして、朝の練習に参加した。
今日はちょっと早目。まだあまり人もいない。
先生「お、梨本早いな!そのやる気よし!だがハーレムはダメ、絶対!」
ええ、ストイックに行きますよ!
先生「それでよし!準備体操して思いっきり走ってこい、先生が見ててやるぞ!」
はい!
僕は準備体操して走り始めた。
今まで教わったことを思い出しながら走る。
・・だいぶ走るのにも慣れて来た。なんか楽しい!
優月「おはよ。早いのね。」
おはよう。姫宮さんも早いですね。
優月「5分他の人より早く走り始めれば、それだけ多く練習できるわ。」
そんな5分くらい・・
優月「1日5分なら7日で35分。30日で150分(2時間30分)。365日で1825分(30時間25分)」
優月「人より多く練習を積めば人より有利に成長できる。才能なんて関係ない、努力こそが人を成長させるのよ。」
うん、僕もそう思うよ!
優月「・・この合宿で劇的に変わった梨本くんは才能の塊ね。私の敵だわ。」
あれぇ?
優月「絶対あなたには負けないから。追いつけるものなら追いついてみなさい。」
姫宮さんが走るペースをあげた。
よーし追いついてみせる!
・・などと思っていた時期が僕にもありました。
姫宮さんはええ。
僕がスピードをあげると姫宮さんもあげて、僕がスピードを緩めると姫宮さんも緩めて・・
く、弄ばれている!嬉しい!
栞「やっほー梨本くん!おっはよう!」
鮎川さん。おはよう。
栞「昨日は楽しかったね♪」
う、うん。
あれは特別な夜と言っても過言ではない!
優月「昨日?昨日ってなによ。」
姫宮さんが走るスピードを落として僕たちのすぐ近くに来ていた。
栞「ふふふ~ん。優月ちゃんには関係ないよ~」
優月「あんた最近調子に乗ってない?」
栞「乗ってないよ~」
優月「絶対乗ってるわ。」
栞「乗ってないも~ん。」
優月「梨本くん、昨日なにがあったか言いなさい。」
栞「梨本くん言わなくていいよ。ふたりだけの秘密♪」
言っても言わなくてもやばい気がする。
諫早湾訴訟の政府みたいな気分。
先生「くぉらぁぁぁぁぁぁぁ梨本!ラブコメ禁止!」
先生がものすごい勢いで突進してきた。
それだけ早ければ世界記録も夢じゃなさそう。
「いつの世も人の原動力は負のエネルギーね。」
僕もそういうの必要なのかな。
負のエネルギーじゃないけどハングリー精神とか言われるし。
「きつい子みたいに自己管理できれば無くても構わないわ。」
「サボるの大好きな子には必要かもね。」
サボるの大好き・・僕もそういうところあるよね?
よし、食事抜きで!
「肉体的なハングリー(飢え)は運動する人にとって致命的になるわ。」
「精神的なハングリーを目指しなさい。」
ハングリー精神だから精神的なハングリー?ぷぷぷ。
「そうね。そうやって覚えるといいわ。」
あれ、怒られると思った。
「もし怒っていたら、あなたは怒られたと認識する前に存在が無くなるだけ。」
「だからあなたは怒られたと認識することはないわ。私はいつでも優しい天使♪」
つっこみ入れたいけど、存在を抹消されそう。
「大丈夫よ、抹消されたと気付かないから。」
わーい安心・・いやいやいや。
先輩「合宿も終わりが近いのにみんな元気だな。」
伊織「疲れを次の日に残さないよう先生が気を付けているんだよ。」
先輩「あれだけ無茶やってた梨本まで元気なのはすげーと思う。」
伊織「ゲームと違って現実の人はパラメータが見えないからね。」
伊織「もしかしたら物凄い人に教わっているのかも。」
先輩「物凄い人か・・」
先輩とロリ部長は部員に対してラブコメ禁止を叫ぶ顧問の先生を見た。
ある意味物凄い人と思った。
先輩「そういや梨本と鮎川が昨日の夜に星を見てたな。」
伊織「へぇ。あのふたり付き合うの?」
先輩「まだそんな感じじゃなかったけど・・俺たちも今夜あたり抜け出して星を見るか?」
伊織「・・ううん。部長として勝手なことはできない。」
先輩「そっか。」
伊織「だから連休にでも旅行しない?そこでゆっくり星を見ればいい。」
先輩「お!いいな!」
先生「ラブコメ警報発動!お前らラブコメ禁止だああああああああああああああああああああ」
ふー、先生が向こうに行ってくれて助かった。
先輩「じゃあ準備体操して走るか。」
伊織「うん。」
先生「お前らラブコメしてないだろうな?」
先輩「していません。」
伊織「しっかり走ります。」
先生「おかしいな、センサーが調子悪いのかな・・?」
なんという高感度センサー。
・・
・・・・
朝食。
おいしい。
先生「楽しい楽しい合宿も明日で終わりだ!心残りは無いな!?」
部員たち「無いでーす」
先生「先生は心残りありまくりだああああああ女生徒と楽しい一夜を過ごしたかったです!」
みんなは思った。通報しなきゃ・・と。
先生「ひと夏のアバンチュール・・ぐすん。さて、今日明日の予定を伝えておく。」
先生「まず今日の午前は自由行動だ。遊んでもいいし売店で土産探すのも自由だ。」
先生「合宿でがっつり練習したはいいが、学校始まったら一気に練習量が減るからな。少しずつ減らして体を慣らす意味もある。」
先生「まあ走りたいやつはそれでも構わん。遠くに行く場合は許可をとれ。」
先生「オレか部長、どちらもいなければできるだけ多くの人に行き先を告げておけ。」
先生「ただしラブコメ禁止。」
先生「今日の午後からは今まで通り。」
先生「明日の朝食が済んだらすぐ帰ることになる。今夜のうちに荷物はまとめておけ。」
先生「土産もゆっくり選んでる暇はないから、今日のうちに買えるものは買っとけ。」
先生「悔いのないよう最後まで全力を尽くせよ。妥協は最後の最後の最後の最後の手段にしとけ。」
先生「諦めるのは90過ぎて体にガタが来てからにしろ。それまで諦めるのも言い訳するのも禁止だ。」
先生「ラブコメも禁止!特にそこ!梨本聞いてるか!?」
聞いています。
ストイック目指してたのになんでこうなったんだろう。
2年男「(梨本が目立ってくれて助かるわー)」
2年女「(そうね♪)」
3年男「(他にも付き合いだしたやついるんだけどな)」
3年女「(私たちとかね)」
先生「何度も言うがラブコメは絶対禁止!部活に青春を捧げろ!」
でもそのルートって、先生みたいになるんでしょ?
大会でいい成績とか、結果出せればモテるようになりそうだけど・・
うん、先生みたいにはならないようにしよう。
午前中は鮎川さんを誘って一緒にお土産を見たりゲームコーナーで遊ぼう!
鮎川さん、午前中だけど、その、一緒に・・
栞「うん、一緒に走ろう!」
うん走ろ・・走る?
栞「自主練の方が人少なくて思いっきり走れるもんね!今がチャンス!」
・・
・・んー・・そうだね!思いっきり走ろう!
まぁ一緒にいられるって解釈でいいか。
優月「私も一緒だから。」
理世「あ・・私も・・」
先輩「地平線の向こうまで走ろうぜ!」
伊織「地平線まで行くなら引率がいないとダメだよ。遠すぎる。」
先生「ラブコメとスポ根が混ざって判別が難しいな。仕方ない、平等な裁判官にジャッジしてもらおう。」
先生「というわけでオレが平等な裁判官な。判決:ラブコメ。よって梨本は死刑。」
控訴します。
・・
・・・・
朝食が終わり外の練習場へ。
伊織「先生がいないからってふざけちゃダメだよ。怪我だけは注意ね。」
優月「はい。」
理世「真面目にがんばります。」
先輩「さて、どう練習すっかな。」
栞「あ、先輩、一緒に走りませんか?」
先輩「いいぞ。思いっきり走るか!」
・・さすがに僕とは走ってくれないか。
速さもスタミナも違い過ぎるもんな。
僕はいつも通りスポーツドリンクを保冷ボトルに入れて、練習に入る。
「走る前に、他の人の走りも見ておきなさい。」
鮎川さんを見る。
速い。僕なんかではついていくことすら無理だろう。
大きな胸とお尻を抱えてあのスピードを出すのは並大抵の努力じゃなかっただろう。
姫宮さんを見る。こちらも速い。
均整のとれた体。綺麗なフォーム。無駄のない整った動きだ。
美しいと言ってよいだろう。胸が少し邪魔そうだけど。
ロリ部長を見る。
体は小さく歩幅で不利なはず。だけどそれを感じさせない速さだ。
そして小さな体は抜群の小回りでカーブを曲がる。さすが部長。
品川さんを見る。
うん、遅いね。見ていると安心する。
・・自分より遅い人を見て安心してちゃダメだよね。
速い人と遅い人だと、まず間違いなくフォームが違う。
速い人は安定している。いつも同じフォームで走っている。
遅い人は疲れて来ると体が前かがみになったり、顔を上や下に向けたりと安定しない。
なるほど、人の振り見て我が振り直せってことか。
「速い人はなぜ速いのかを見て考えなさい。他人の理論を取り入れるだけでも速くはなれるわ。」
「でも、あなたが新しい理論を打ち立てれば、それは他人を助ける力になる。」
「忘れないで、あなたはひとりじゃない。助け助けられて人は進化してきた。今までも、これからも。」
はい!
「そして間違った知識を披露して恥をかくところまでテンプレだから。」
・・わかっているなら回避できますよね?
「中々回避できないからよくあることなのよ。」
「さ、そろそろ走って来なさい。他の人たちに心配されちゃうわ。」
よーし、どんどん走って速くなるぞ!
僕も走りまくった。
・・
・・・・
昼食をいただきながら僕は思う。
走るのって結構楽しい。
なんで学校の体育はつまんないんだろうな。
先生「お、梨本いいこと言った。なぜ体育はつまらないか、それは強制された運動だからだ。」
先生「だからこそ自分の意志で走りたい。そう思ったときの走りはなによりも最高になる!」
先生「というわけで梨本はこっち側な。ようこそ走りに人生を捧げたチームへ。」
脱退・・かな。
先輩「俺入りますよ。走るのむっちゃ楽しいですからね!」
栞「あ、なら私も・・」
先生「危険なラブコメ臭を確認!うーうーラブコメ警察が動き出すぞ!」
ラブコメ警察?
先生「下ネタ連発で雰囲気ぶち壊す!!!チ〇〇!チ〇〇!ウ〇〇〇〇〇〇!」
先生「い、言えない!なぜ伏字になる!?」
伊織「全年齢向けですから。」
先生「ぜんねんれいむけ・・?」
先生は首をかしげた。
先生「主人公のオレが39歳だから、R39だろ?」
栞「違うよ。」
優月「違うわ。」
理世「違う・・かと。」
伊織「違います。」
先輩「違うな。」
2年男「違う。」
2年女「違う。」
3年男「違う。」
3年女「違う。」
R39だと39歳未満は見ちゃいけないんじゃ・・
作者も見れなくなっちゃう。
先生「嘘つけ作者は70過ぎで義眼のニューハーフだろ!サバ読むんじゃねえ!!!」
義眼じゃないよ。メガネだよ。
・・
・・・・
昼食が終わり、僕は休憩時間を利用して売店に来た。
お土産はなにがいいかな?
伊織「キミもお土産を見に来たんだね。」
あ、ロリ部長だ。
家族の分くらいですけどね。
伊織「私も。やっぱり食べ物が無難だよね。賞味期限と保存方法は気をつけないといけないけど。」
あー。夏は気にしないと色々やばいですよね。
旅館あたりだとお饅頭が定番かな?
伊織「そうだね。あと地域限定のお菓子とかもあるけど・・こういうのは親世代だと食べない人もそこそこいるよね。」
うちそうですね。お饅頭や大福は好きだけど、スナック菓子やチョコはあまり食べなかったりします。
伊織「私のうちもそうだよ。でも姉がそういうの好きだから・・でも全部買うには予算がってなる。」
僕のとこも妹がいますからわかります。
みんなが満足するのって難しいですよね。
伊織「うん。で、無難だからって定番のを買っちゃったり。」
そうなりそうで怖い。
奇抜なものをさくっと選ぶ人もいるけど、そういう人がうらやましいです。
伊織「なら奇抜なものを選んでみる?」
いやーやってみたいですが、いざ選んでみるとこれはないなぁとか思っちゃって。
伊織「お土産交換なんてどう?私がキミのお土産を選び、キミが私のお土産を選ぶ。」
そ、それは・・他人のお土産を選ぶなんて責任もてないよ。
「面白そうだからやりなさい。これ命令」
マジですか。
えっと・・じゃあやってみましょうか。
伊織「梨本の家は両親と妹?」
はい。部長の家は両親とお姉さんですか?
伊織「そうだよ。じゃあ5分後に選んだものを持ち寄るように。」
5分は短い!
伊織「あまり長いと悩みすぎるからね。キミの直感を信じているよ。」
僕の直感・・これはただ走るより真剣になりそうだ。
候補1:ペナント!
候補2:木刀!
候補3:キーホルダー!
・・いや今までの話の流れから食べ物を選ぼうよ!
・・
・・・・
選んだ。選んだけど・・これはお土産として適切なのか?
でも家族みんなが楽しめるものというと、こういうのになっちゃう・・
伊織「5分経ったね。選べた?」
あ、はい一応。でもこれがお土産と言うかというと、ちょっと疑問に思うようなものかも・・
伊織「私が選んだのもそういうものだよ。でもお土産コーナーに置いてあるんだから気にしなくていいと思うよ。」
伊織「・・と言っても気にしちゃうけどね。」
はい。
伊織「じゃあキミが選んだものを見せて。」
僕は後ろに隠していたのを出した。
醤油(地元特製)
いやだって、醤油が嫌いな人なんていませんよね?
色んな食べ物で使うし、料理しない人でも納豆や卵かけごはん、お寿司やお刺身で使うし・・
伊織「ふふふ、あはははは!」
ロリ部長が笑った。というか笑い過ぎ!
こんないい笑顔の部長を見るのは初めてだ。
歳不相応のかわいさだよ・・まるで子供だ。
というかそんなに変ですか?
伊織「ううん。実は私が選んだのも・・」
そう言って、ロリ部長は隠し持っていた・・醤油を出した。
伊織「同じ物を選んでたんだね。お土産はこんなにたくさん種類があるのに。」
僕は周りを見回した。
レトルトカレーやラーメン、お茶、カステラ、ゼリー、ふりかけ、干物、ジャム、飴、珍味。
チョコ菓子にスナック菓子、バームクーヘンやようかん。
調味料だとみそや塩もある。
お菓子以外だと1万するシャンプーとかも。
買う人いるのだろうか?
伊織「私たち、似た者同士かもね・・じゃあお互い選んだプレゼント交換しようか。」
僕たちは、醤油と醤油を交換した。
同じ物になっちゃったけど、これはロリ部長が選んだものか・・
偶然ってすごいな。
・・
・・・・
先生「合宿もラストスパートだ!気合入れろ!」
いつも全力です。
でもだいぶ走るの楽になったなぁ。
これって僕が成長したからだよね?
・・
・・・・
先生「夕食だ!食え食え!」
合宿の最初の頃は疲れて食欲なかったりしたけど、少しずつ慣れて来た気がする。たぶん。
ああ、旅館の食事はおいしいな。
がんばっているなぁ僕。
・・
・・・・
夜になった。
あとは明日朝練して朝食とって帰るだけ。それで合宿は終わり。
「まだ終わりじゃないわ。」
ジェミニさん。
またやばいことさせられるんですか?
「さぁね。ついて来なさい。」
昨夜は屋上で鮎川さんとふたりで星を見させてくれたっけ。
今度はなんだろう。わくわく。
・・案内された場所は合宿の練習場だった。
?「・・」
誰だろう、知らない人がいる。
「最後の訓練よ。その人と競争しなさい。」
意外と普通だ。
化け物に追いかけまわされるのに比べたらよっぽど。
えっと、お手柔らかにお願いします。
?「・・」
喋れないのかな?・・あれ、顔がよく見えない。
暗いから?それにしてはなんか・・
「この練習場のトラック1周は400メートル。これを4周してもらうわ。」
1600メートルか。これなら数分で終わるかな。
今の僕なら楽勝だ。
僕と競争相手はスタート位置に立つ。
・・この人、僕より少し背が高い。誰だろうな。
地縛霊だったりして。
「位置について」
僕はクラウチングスタートの構えをとる。
競争相手は・・突っ立ったままだ。
「よーい」
後ろ足を伸ばし気合をいれた。
競争相手は・・・・突っ立ったまま。
競争相手がにやりと笑った気がした。
「スタート」
僕はタイミングバッチリ走り出した。
いける!いい感じだ。
最初のコーナーでちらっと競争相手の位置を探る。
・・まだスタート地点だ。
これは楽勝の予感!気楽に走ろうっと♪
そのままトラックを1周した。
「あと3周」
余裕っす。
「そうそう、もしあなたが負けたら殺すわ。」
え?
「あなたが順当に成長していれば勝てる相手よ。ハンデも与えているし。」
「でも、手を抜いたりなんて考えていたら・・」
やばいやばいやばい!
やっぱり僕の命がかかってた!
あ!僕以外の足音が後ろから・・競争相手が走り出したんだ。
ちらっと後ろを見る。
速い!
もしかしたら、先輩たちよりも速いかも。
「あなたの成長、見させてもらうわ。」
うわーん1周目手を抜くんじゃなかった!
僕は走るスピードを上げた。
・・が、あっという間に抜かれた。
はや!いやでも元々1周以上の差があったんだ。
まだ僕の方が先に進んでいる!
「2周。あと半分ね。」
「あら・・ちゃんと走っていればもっと速いはずなのにねぇ?」
ごごごごめんなさい最初舐めプレイしました!
走るスピードあげたのに、どんどん距離が近づいてきている。
なんて速いんだこの人!もっと速く進まなきゃ!
「フォームが崩れているわ」
あっと。
前へ前へと思っていたら、上半身だけ前に進んでいた。
いけないいけない、慌てて基本を忘れていた。
体勢を立て直し、追いつかれないようちょっと無理して走る。
う・・だいぶ近づいている。
「3周。ファイナルラップね。」
ここを乗り切れば!
乗り切れば・・だけど・・
競争相手はもうすぐ後ろに陣取っている。
おおお追い抜かれてたまるかあああああああああああああ!
フォームを崩さないようにしながら、走るスピードを上げた。
それでも後ろにきっちり競争相手がいる。
負けたら殺される。
とにかく全力だああああああああああああああああああああああああああああ
あと200メートル。
あと100メートル。
あと少し、あと少し・・でもすぐ後ろに競争相手がいる。
あと50メートル。
あと40メートル。
・・抜かれた!
最後の最後で!絶対抜き返さないと!!!
体がどうなってもいい、全力で走った。
離されることはないけど追い抜くことができない!ちょっとの差なのに。
あと30メートル。
あと20メートル。
あと10メートル・・
ゴール!
どっち?どっちが勝った?・・あれ競争相手は?
?「すみませんトイレ行きます!」
・・先に行っとこうよ。
競争相手は、いつの間にかコースを外れて旅館にまっしぐらしていた。
「あら、運が良かったのね。」
・・あのままだったら負けていました。
「そうね。」
・・最初、僕は競争相手が走らないのを見て少し手を抜きました。
「それがなにか?」
あの、ごめんなさい教わったことちゃんとできていなくて・・
「人は環境に慣れると手を抜く癖があるわ。ひとつ勉強になったわね。」
は、はい・・。
「何度も繰り返しやって覚えなさい。一度で覚えられるなら誰も苦労しないわ。」
はい・・
「あと、あなたは明日帰るけど、私はここに残るわ。」
え?
「ゲームコーナーであなたに接触した相手・・その正体を確かめなきゃいけないわ。」
「だからあなたとは明日お別れ。」
そ、そうなんですか・・寂しくなります。
「あなたは十分成長したわ。これからも同じようにがんばりなさい。」
「旅立ちのときよ。」
はい。
目頭が熱くなった。
「さ、今日はもう寝なさい。最終日に寝坊したら今までがんばっていたのが台無しよ。」
はい・・
おやすみなさい。
「おやすみ」
僕はひとり男子部屋に戻る。
なんとなく、祈りたい気分だった。
涙が頬を伝って流れていった。
・・
・・・・
その日、夢を見た。
?「キミは何のために力を得る?」
え?いや特には・・別に力なんてないですけど。
?「速く走れる。それも力だ。」
?「力は常に行き場を求める。その力の進む方向によってキミは賢者になるか愚者になるか分かれる。」
?「大会で力を発揮したいか?教師となり人々に道を示したいか?はたまた・・」
?「だがその力を他人に見せつけたいために、自慢したいために、己の欲望のために使うか?」
?「もう一度言おう。力は常に行き場を求める。」
?「目標がない、自堕落な心では、力は己の欲望へと向かう。」
?「人間よ、誇りあれ、気高くあれ。」
・・あなたは誰ですか?
?「キミと会うのは三度目だ。一度目はゲームコーナー、二度目は夢の中、三度目は今ここで。」
あれ?じゃあジェミニさんが捜そうとしている人?
?「神の人形に私は見つけられんよ。愚かな神の人形にはな・・」
あなたは何者ですか?以前天使だって言ってましたが。
?「天使は天使だ。それ以外の何者でもない。キミは人間以外の何者なのか?」
いえ・・人間ですが。
?「なら私も天使であり、それだけだ。」
ジェミニさんの・・敵?あ、これも以前そう言ってましたけど・・
?「ああ、敵だ。世界を滅ぼされたくないからな・・ここは神の作り上げた芸術だよ。」
?「壊したりせず、ただ見守っていたいと思わないか?」
よくわかりませんが、壊されたらまぁ困りますね。
?「神は本当に素晴らしい。私は神になりたい。キミは神になりたくないか?」
え?いや別に・・
?「そうか。もしキミも神になりたいなんて言っていたら、私の敵として殺したんだがな。」
会話に罠を張らないでください!!!
超何の気なしに返答してたよ!
一体何の用ですか?
?「天使に見捨てられたキミへ。私のサポートを受けてみようとは思わないか?」
あなたの?
・・サポートって、要するにジェミニさんがしてくれたみたいなこと?
?「それ以上だ。私ならキミを一流に育てることができる。誰よりも速く走ることも、誰よりも勉強ができるようにも。」
?「私の言う通りにするだけで良いのだ。すべてうまくいく。欲しいものは思いのまま。叶わぬ願いなど存在しなくなる。」
そ、そんなに!?
?「天使の力がどの様なものか、キミは既に体験しているはずだ。なにを疑う必要がある。」
確かに・・
僕がここまでがんばれたのはジェミニさんの、天使の力。
もし天使様が本気で僕のサポートをしてくれたら・・・・僕は、なんにでもなれる。なんでもできる。
でも・・
ごめんなさいお断りします。
?「キミをこれまでサポートしていた天使に気を遣っているのか?」
たぶんそうだと思います。
?「だがどれくらいの期間サポートされていた?過去に戻りながら10日ほどだろう?」
?「たかだか10日程度の付き合いのために、キミは一生に一度あるかないかのチャンスを捨てるのか?」
確かに・・バカな選択かもしれません。
でも、それでも・・あなたのお世話にはなれません。ごめんなさい。
?「そうか、ならばさよならだ。愚かでかわいい天使の忠犬よ。」
・・
・・・・




