4話(最終話)
私は夜が好きだ。世界中で一番夜を愛している人間は私だと自信を持って言えるぐらい好きだ。でも、私と同じくらい夜が好きな子を私は知っている。
「にゃ~」
噂をすれば何とやら。その子が声をかけてきた。
「こんばんわ。元気だった?」
「にゃ~」
「そっか、元気だったか。」
もちろん私には猫の言葉はわからないけど、表情や仕草を見ながら勝手になんて言っているのかを解釈している。
実はこの子が夜を好きなのかどうかも本当はわからない。でも、夜にこの子が歩く姿がなんとなく私が歩く姿に重なるのだ。
「それじゃあ、行こう。」
「にゃ~」
この子に偶然会った時はいつも一緒に散歩をすることにしている。私は元々一人で歩くことが好きだけど、この子は別。この子と歩く方が一人で歩くよりも楽しい。
「今日ね、心理学の講義を受けたの。少しでも人の心を読めるようになったら面白いし、今後の人生を少し楽に過ごせるから。」
心地よい夜の風が私の声をこの子の耳に運ぶ。
「でも、講義の最初で先生に、この授業を受けても人の心が読めるようにはなりません、って言われちゃった。そりゃあそうだよね。そんな簡単に人の心が読めたら誰も苦労しないよね。」
「にゃ~」
猫ちゃんは私のくだらない話に律儀に返事をしてくれた。この子は私が何て言っているのか理解しているのかな。それなら、何で私はこの子が何て言っているのかわからないの。
「私は今人の心よりも猫の心を読めるようになりたいな。そしたらあなたが何て言っているのかわかるのに。」
先ほどよりも少し冷たい夜の風が私の髪をなびかせた。
そんなやりとりをしている間に、いつの間にか周りが田んぼしかない道にでた。そこでは面白いことが起こっていた。
「カエルの大合唱だ……!!」
「にゃ~」
今は6月。カエルがたくさんいる時期だ。そのカエルたちがまるで合唱コンクールでもやっているかのように鳴き続けている。音の高さが違う鳴き声がいくつも交じり合っているので、まるでソプラノやアルトなどに分かれて歌っているようだ。私は人間の合唱よりもこっちの大合唱の方が好きだと感じた。
そのまましばらく私もこの子も歩くのを忘れてカエルの大合唱に聴き入っていた。
やっぱり私は夜が好きだ。こんな大合唱は夜しか聞けない。この子と会って一緒に歩けるのは夜だけだ。夜は楽しいことがたくさんある。私は誰よりも夜が好き。
あなたは夜が好き? 暗くて気味が悪いから嫌い? そんなこと言わずに、ほら、まずは歩いてみよう、楽しい夜の中を。




