3話
今日も良い夜だ。星が見えないのは残念だけど、月が私を歓迎するように輝いているだけで十分。それだけで私の気分は高揚する。さあ、今日も歩こう。
私はいくつかあるルートの中で近所の大きな公園を通るルートを歩いていた。私は公園内のあるベンチに近づいてそこに座っている人にいつものように声をかけた。
「今日のコーヒーはどうですか?」
「いつもと変わらないよ。」
私が声をかけたのは仕事帰りのお姉さんだ。お姉さんはいつも同じベンチで同じ缶コーヒーを飲んでいるので私がこのルートを歩くときは必ず声をかけるようにしている。お姉さんとはもう何回もおしゃべりをしていて、お姉さんは私の趣味のことも知っている。
「今日はどうしてこのルートにした?」
「私も今日はコーヒーを飲みたい気分だったので。」
「わざわざこんなところで飲まないで、家でインスタントでも飲めばいいものを。」
「夜の中で飲むのが良いの。」
「そう言うと思った。」
「お姉さんこそ、家に帰ってインスタントでも飲みながらゆっくりすればいいのに。」
「ここで飲むのが良くてね。」
「そう言うと思った。」
あまりにも予想通りの答えだったのが何だかおかしくて、互いに声を出して笑った。
お姉さんは私の趣味を知っているだけではなく、理解してくれている。知っていることと理解していることは違う。だから私はこのお姉さんと過ごす時間が好きだ。
「それじゃあ買ってきますか。」
私はそう呟いて自動販売機のところまで行き、某有名缶コーヒーの微糖を買った。私がそれを持ってお姉さんのいるところに戻るとお姉さんが不満げな顔をした。
「え~、コーヒーと言えばブラックでしょ。」
「別にブラックも飲めますけど、今日は甘いコーヒーを飲みたい気分なので。」
「そっか、それじゃあしょうがない。」
お姉さんのこういうこだわりがあるようでないところも私は好きだ。お姉さんがもしお兄さんだったら今頃もう告白しているね。もしかしたらプロポーズしているかも。一生養ってくださいって。
しばらくおしゃべりをしているうちにどっちの缶コーヒーも中身が空になった。私もお姉さんもちびちび飲むので中身が空になるまで時間がかかった。だけど、私もお姉さんも時間を気にするという野暮なことはしないので特に問題はない。
缶を捨ててから、私たちはそれぞれ別の方向へ歩き出す。
「じゃあ、またいつか。」
「はい、またいつか。」
いつもの別れの挨拶。一瞬寂しさがよぎるけど、その寂しさはすぐにどこかへ飛んでいく。
なぜなら私たちはいつでも繋がっている気がするから。ふふっ、私とお姉さんって恋愛漫画のカップルみたい。
私はいつも以上に気分が高揚し、舞い踊るように歩く。本当に今日は良い夜だ。




