第十二話「巳堂 白夜」
連日投稿その3。
天野 猛が墓参りを終えた後――
その別の場所では――
☆
巳堂 白夜は学園を彷徨っている。
近々計画が決行される。
怪人が現れてヒーローが倒しての――相も変わらずと言った感じだ。
もう既に怪人の出現もヒーローの存在も刺激的な日常の一部となっている。
だが自分達の手でその日常は終わり、計画通りに進めばこの学園は地獄となる。
(俺はどうすればいいんだか・・・・・・)
計画がどう転んでも自分の人生は後悔を抱えて生きていく事には変わりない。
思えばただ親に言われるがままに生きて来た。
時には親の権力を笠に着て悪さをした事もある。
(て・・・・・・ナンパかよ・・・・・・)
金髪の女性だ。
とんでもない爆乳で長い金髪の清楚淑女な女性だ。
顔立ちも整っていて大人のお姉さんに片足突っ込んでいる外見である。
ナンパしたくなる男の気持ちも分からないでも無い。
それよりも制服に見覚えがあった。
(あれ、ウチの高校の制服か・・・・・・それに確か――芳川 アスカだったか?)
そんな名前であんな目立つ外見と特徴の持つ女性は――結構いる。
この学園島は何故だかとんでもない美女揃いだ。
グラドルも真っ青なレベルのボディスタイルがとても多い。
その気になれば学園の一校舎だけでアイドル事務所が出来る程に。
それを知ってか知らずか女性のナンパ目当てに学園にやってくるチャライガキはとても多い。
白夜もそうだが、女性と恋愛してセックスしたいと言う欲求は人並みにある。
たぶんあのチャライ男もそう言う口だろう。
(ま、災難だったな)
そう言って通り過ぎようと思った。
白夜は正義の味方ではない。
それに計画が控えている。
面倒事はごめんだ。
「あ、巳堂君」
(て、俺の名前覚えてたんかい!? て、そういや俺一応理事会の息子だったっけ・・・・・・)
パッとアスカは顔を輝かせて白夜を呼び止めた。
一瞬どうしてか驚いたが――自分が理事会の役員の息子である事を思い出す。
あんまり面識がなくても覚えられている可能性は無くも無いだろう。
「なんだお前――」
「やんのか?」
(ブラックスカルじゃねえな――こいつらタダの性質の悪いチンピラだ)
不良だかチンピラとか言う奴は弱者相手に暴力の味を覚えて、それで調子に乗った連中が大概だ。
つまり人を殴り慣れてるただの屑である。
白夜も理事会の息子であるため、それだけで気にくわないから因縁を付けて来た相手は何人もいたから分かる。
この手の奴は一度、一生後悔する程の痛い目を見ないと分からないのだ。
だから話し合いで解決など頭から消えた。
「ごばぁ!?」
ズボンに手を突っ込んだのが見えたので反射的に殴った。
そして他の取り巻き連中も全員殴り倒す。
辺りは騒然となった。
「騒ぎにならないウチにずらかれ」
「え、ええ・・・・・・」
☆
そして少し離れた木々に囲まれた公園に辿り着いた。
「で? どうして付いてくるんだ?」
「いえ、なんとなくでしょうか――?」
超豊満なバストを揺らしながら首を捻る。
ハァとため息を付く。
「それよりもさっきは助けて頂いてありがとうございました」
「どういたしまして――」
とぶっきらぼうな対応をした。
正直に人に感謝――それも極上の美少女に礼を言われた経験は少ない。
目線を逸らしてどういたしましてと言う。
「明日なんか予定はあるか?」
「予定ですか?」
「死にたくなかったら出来るだけ学園島から遠くに逃げろ――」
「何か起こるんですか?」
「それは――」
と言い難そうにしていると先程のチンピラが三人駆け付けて来た。
顔を腫らしてゼエゼエと息を切らしている。
「テメェまた痛い目に合いに来たのか?」
「ウルセェ!! 今度は油断しねえ!!」
そう言ってメダルを取り出して体に埋め込んだ。
そして怪人化する。
アスカは突然の出来事に口元を抑えて目を見開いていた。
「デザイアメダル持ってたのか・・・・・・」
『ああ!! これさえあれば好き勝手出来る無敵の力さ!』
それぞれ、ハチ型の怪人になる。
色も赤、青、黄である。
(好き勝手にばら蒔くのも考えもんだな・・・・・・)
などと考えた。
「じゃあ俺も使わせて貰おう」
そうして金色で蛇が描かれた黒いバックルを取り出す。
それをお臍の辺りに押し当てると金属製のベルトが巻かれる。
そして白夜は変身した。
『お、お前ヒーローだったのか!?』
『それはどうかな?』
病院前の戦いでレヴァイザーと対峙した白い蛇を模したダークヒーロー然としたパワードスーツ「白蛇」を身に纏う。
右手の白いコブラの様なガントレットが電気を纏い、そしてガントレットの首が伸びて鞭の様に唸らせ、三体纏めて火花と共に吹き飛ばす。
『先ず最初に一人――』
頭部の、側面の大きな赤い蛇の目が怪しく輝く。
『か、体が動かない!?』
すると三人はまるで金縛りに合ったかの様に動きが止まった。
『スパークヴェノム』
雷を纏った煙がガントレットから吹き出す。
何が何だか分からないウチにその煙に一体が飲み込まれ、煙の中で感電により激しい火花を巻き起こしながら黄色いハチが爆発を起こす。
ゴロゴロと転がり、傍にメダルが転がる。
「し、死んだんですか?」
『瞬間的に許容量以上のダメージを受けるとああやって排出されて気を失うんだ』
もっとも限界はあるだろがなと心の中で付け加える。
『て、テメェ・・・・・・』
『次に二人目』
『ま、また体が・・・・・・』
また白蛇のヘルメット両側面の大きな瞳が怪しい紅い光を照らし出す。
すると青いハチと赤いハチがまた金縛りにあったように動かなくなった。
『ライダーファンがいたのか、こういう機能も付いてんだよな!!』
両足から激しいスパークを巻き起こしつつ跳躍、そして跳び蹴りをかます。
金縛りが解けてどうにか動けるようになった事に気付くがもう遅い。
激しいスパークと共に大爆発が巻き起こり、青いハチが吹き飛ぶ。
同じようにしてメダルを排出して倒れ込んだ。
『な、なあ、み、見逃してくれないか!?』
『馬鹿は死んでも直らないらしいからな。馬鹿は潰せるウチに潰すに限る』
『ヒイイイイイイイイイイイイイイイイ!?』
背を向けて逃げようとする。
そして構えて、右腕のガントレットを突きだした。
ガントレットのコブラの頭部が伸びる。口からバチバチと電光が唸る。
一気に距離を詰めて噛み付いた。
『ギャアアアアアアアアアアアアアア!!』
直接雷を注ぎ込まれ、目映い光と共に体から放電し、やがて大爆発を巻き起こす。
最後の赤いハチもメダルを排出し、そのまま倒れ込んで気絶した。
『ま、ざっとこんなもんか・・・・・・』
「・・・・・・」
『うん? どうした?』
「・・・・・・」
(まあ普通は怖がるか・・・・・・)
恐ろしくびびったか、自分の正体を知って恐怖を抱いたか。
じゃあなと言ってその場を立ち去ろうとした。
「す、凄いです!!」
『え?』
「巳堂君ってヒーローだったんですね!」
『はぁ?』
結構凶悪なデザインしてると思うんだが・・・・・・と思っていたのだまさかヒーローと勘違いされるとは思わなかった。
取り合えず、変身を解除してその場から立ち去ろうとした。
じっとしていたら警備部の人間やアーカディアの人間が来る。
鉢合わせするのは不味い。
「じゃあな」
「あ、ちょっと待って下さい!!」
そう言って彼女は付いて来た。
☆
結局学園内の繁華街から離れた、海が見える沿岸部まで来てしまった。
それもアスカを連れてだ。
「何処まで付いてくるんだ? もう夜も遅いぞ?」
「それはそうですけど、助けて頂いたお礼もまだですし、それにどうして最近学校に来ないのか気になって・・・・・・」
「ハッ、俺がいなくなって清々してるだろうに」
白夜はかなり悪童だった。
悪童にならざる終えなかったのもあるが、ただの言い訳にしかならない。
きっと精々してるだろう。
「いえ、逆に居なくなって酷くなったと言いましょうか」
「あ? 何だそりゃ?」
訳が分からず白夜は聞き返す。
「確かに迷惑している人は大勢いましたが、逆にそれで一定の規律は纏まっていたんです。ですが纏める者がいなくなったせいで以前よりも好き放題しているんです」
「俺が言うのも何だがさっさと退学させりゃいいだろ」
「それが巳堂君の後ろ盾があると思っているのか中々強気に出られないみたいで・・・・・・」
「は、何もかも俺のせいかよ・・・・・・開き直ったようで悪いがたまったもんじゃないぜ」
何とも度し難い話だと思った。
「あの・・・・・・それで・・・・・・どうして学校に来なくなったか聞きたいんですけど」
「・・・・・・」
少し考えた。
そして白夜は口を開く。
「もしも、明日世界が滅ぶと思ったら、お前ならどうする?」
「え? もしかして学園から逃げろと言ったのと何か関わりが?」
「ああ。詳しくは言えないが近いウチに学園島は文字通りの戦場になる。一応いっとくが警察や警備部、理事会や政府に知らせても無駄だからな? 返ってパニックになるだけだ」
「どうしてそんな事を・・・・・・あ、まさかそれを解決するために」
ハッと笑った。
「逆だ。俺はそれの手助けをする為に今迄暗躍したんだよ」
「どう言う事ですか?」
「そのままの意味だ・・・・・・親父の馬鹿が何を考えたのか、政府と結託して学園の支配を考えて・・・・・・俺の為だとか言ってたがそれも本当かどうか。あんな変身アイテムまで渡して手助けさせやがって・・・・・・」
「つまり、自分の意思じゃないと?」
「ああ、親が犯罪を犯せば子供も自動的に犯罪者になるのがこの国の暗黙の了解だ・・・・・・従うしかねえだろ。いや、違うな・・・・・・あいつら(アーカディア)みたいな覚悟や度胸が最初からあれば話しは違ったかもな」
「今から遅くありません、自主して下さい」
「はい、そうしますって言うと思うか? 何もかもぶちまけても、最悪計画が早まるだけだ。それになぁ・・・・・・ブラックスカルの連中もほっとけないんだよ」
「え?」
その意外そうな反応を見て白夜は自嘲した。
「お前には分からないだろうな。俺はずっと親の肩書きを背負って生きて来た。親が理事会の役員、ただそれだけで難癖付けられて、我を通す為に暴力的に振る舞って・・・・・・舐められない為に、二度とやり返せないようにする為に病院送りにしてやった事もある。そして気付けばお山の大将の出来上がりよ・・・・・・こんな筈じゃ無かったんだけどな」
しばしの沈黙。
心地よい潮風が吹く。
先に口を開いたのはアスカだった。
何故か悲しげな表情をしている。
「どうしてその事を私に?」
「誰かに、誰でもいいから知って欲しかったんだと思う・・・・・・ただそれだけだ」
「本当は・・・・・・誰かに止めて欲しいのでは?」
「かもな。だが少しやる事を思いつけた。それだけは感謝してる」
それだけ言い残して繁華街の方にフラフラと巳堂 白夜は歩いて行った。
アスカはただじっと、それを眺めていた。
空に輝く月も、海も、風も何も応えてはくれない。
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