prologue
~???~~
闇。
ただそれだけが存在する世界。
おおよそ生命が住まうことが無いであろう世界にポツリとただ1つ邪悪な笑みを浮かべた紅い瞳が漂っている。
――なぁ“お前”はどんな物語が好きだ?――
不意に全身が硬直するほどのおぞましい視線を発する赤い瞳は何処かに居るかもしれない誰に対して声を掛ける。
――剣と魔法のファンタジー?巨大ロボットが登場するサイエンスフィクション?隔絶された空間で行われるミステリー?生と死と恐怖が入り乱れたホラー?愛らしい美少女達と織り成す恋愛モノ?――
――あぁ、どれも素晴らしいな嫌いじゃない――
邪悪な赤い瞳の持ち主はまるで独り言を呟いているかのように帰っては来ない返答に1人静かに応対する。
――だが、たまに作者の書いた筋書きが気に入らない事ってないか?例えば『俺ならこの場面はこうするのに』とか『アイツとこの子をくっ付けて後から悲劇的な展開にすれば……』なんて具合に、さ――
――まぁそういう考えは人それぞれだし作者側としては大人の事情ってやつのせいで弾かれたエピソードってやつもあるだろう――
――だからさ、俺は考えたんだ――
怪しげなその言葉と共に唐突に闇が支配する世界は消え去り、虹色の色彩をもって新たな世界が創世される。
その中心に居るのは十代前後の容姿をした一人の若者だった。
短めの黒髪に紅い瞳を持ち合わせ何処かの学生服らしき服装に身を包んでいた若者は紛れも無き先程まで闇の空間に漂っていた邪悪な赤い瞳の持ち主だった。
――物語を外側から観るのではなく内側から、すなわち物語の登場人物の一人として自身を生み出し“都合よく作り替えてしまえばいいのだと”――
――あぁ、だが勘違いしないでくれ。別段、二次創作の主人公の様になりたいと言っている訳じゃないんだ……ただ俺は物語をよりよくする為の演出を脚本をしたいだけなんだよ――
――そしてその際に生ずる愛や勇気から生まれる尊き生命の輝きを間近で見たいんだよ――
若者は創世したばかりの世界にそう言い放つと再び邪悪な笑みと瞳を浮かべながら両手を広げて声高々に謳いあげる。
『さぁ物語よ回れ!!素晴らしき世界をこの俺にみせてくれ!!!』
かくて。
邪悪が謳いあげる舞台を整える為に創世された世界は回り始める……。