飛び出す世界に挨拶を
「…ま…い、ご…?」
学園の広場なのかな?
こんなところ僕は知らない。
って言っても僕はこの学園のことなんて全く知らないんだけどね…。
ちょっと思い出してみよう。
*
僕の名前は新妻那智。
もうずっと学校には行ってない…
理由はいろいろあるけど、またの機会ということで……。
「那智〜」
新妻悠人。僕の兄ちゃん。
って言っても血は繋がってないんだけどね…。
「那智〜起きた?」
「んぅ…」
僕は今起きたところだ。
おはよう、兄ちゃん。
…って言おうと思ったら先に寝起きのあくびが出ちゃった。
「はは、那智まだ眠そうだね」
僕の頭を撫でながら笑ってる。
へへ、撫でられるのは好きなんだ〜。
「今日も学校行ってくるね」
「ん、…いって…ら、っしゃい」
そして兄ちゃんは学校へ出かけていった。
ちょっと寂しいけど、我慢我慢…!
そして、僕はというと…
「うぅ、ねむ…い…」
うん…眠い。でも寝ないもんね。
ふと兄ちゃんの机を見ると何かプリントのようなものが…
「あ…れ…?」
これってたしか今日提出するやつじゃ…
忘れちゃったのかな? 珍しい…
届けたほうが…いいよね。
外に出るのは嫌だ…
でもそれ以上兄ちゃんが困ってるところとか…悲しんでるところを見るのはもっと嫌だ…
よし、頑張って届けよう!
*
支度を済ませ、フードを深くかぶって玄関の前でちょっと一息…。
「うぅ…やっぱ、り…こわ…い」
自分で行くって決めたのに…。
やっぱりダメだ…怖くて出れないや…。
と、その時、携帯の着信が鳴り響いた。
兄ちゃんからだ。ちょっと吃驚した。
「あ、那智?」
「兄….ちゃん…?」
「那智にちょっと頼みたいことがあったんだけど…」
「ん…あ…机にあった…プリン、と?」
「そうそう、よくわかったね。でね?そのプリントなんだけど今日の午後までに提出しなくちゃなんだよね…で、その…那智、届けて…くれないかなって思って…」
どうしよう…届けようと思ったけど玄関で立ち止まっちゃってたし…。
「あ、でも無理ならいいからね?忘れた兄ちゃんが悪いんだし」
はははって電話の向こうで笑ってるけど、でも凄く困ってるよね。
じゃなきゃ僕に届けて、なんて言うはずないもんね。
「ん…わかっ、た…届ける」
「本当かい?ありがとう那智。助かるよ」
電話ごしにすごく嬉しそう。
喜んでくれてる? やっぱり頑張ろう!
「じゃあ那智。まってるからね〜。それから無理はしないで怖くなったら帰っていいからね? あと、ちゃんと紫外線対策してくるんだよ?」
「う、ん」
「何かあったらすぐに電話してね。じゃあまた後でね」
電話が終わって、携帯をポッケにしまった。
よし、まずはこの玄関だ!
僕はドアノブを握りしめ、一気に…!
……って言うのは無理。
ドア開けていきなり人が居たらやだし…。
ってことで、ゆっくりとドアを開けて、少しだけ顔を出して辺りの様子を伺う。
うん、人は居ないみたいだ。よかった。