6話 空間歪曲
この回は……多分召喚魔法の紹介を兼ねたものだと思います。
城下町から更に南にやってきた俺達が見たものは酷い有様だった。
まず立ち並ぶ廃墟、家があったんだろうなぐらいにしか見て取れない上に死屍累々、大量の死体にハエが群がっている様子だった。
「ひでぇな」
響也が顔を背けた、なんだかんだでコイツはこういうのはダメだったなたしか。
「かわいそうに」
口を押さえて、涙を流す亜理子、目を逸らさないところを見ると響也より肝が据わっているらしい。
「風土病か何かか?」
生命反応が少ないわけだ、死体しかないのだから……しかし少ないということは少なからずいくつかは居るという事で。
「おい、気づいているか?」
響也が俺の肩を叩きながら確認してきた。
「勿論……囲まれてるな、と言っても相手は六人ぐらいかな」
「どうすんだよ? やっちまうか?」
響也は拳を構えて見せるが、どうしたものか。
「牽制してみよう、多分俺の召喚魔法ならやれる」
《召喚魔法》
『空間歪曲』空間を歪め遠方にあるものを近距離に引き寄せる、又逆も然りな魔法だ、ある種召喚術のようであるがこれは契約せずに生物・無機物問わずあらゆる物に効果がある。
効果範囲は半径二キロメートル以内らしいがこの場合は特に問題はないだろう。
『空間把握』これはも半径二キロメートル以内に効果のある魔法で、その範囲内にある、生物・物体がどのようなものか把握する魔法だ。
把握……物陰に七人か、まあ一人はこちらを見ていないから実際感じた視線は合っているな。
俺らより二、三歳若い男達ばかりか、下劣な視線で亜理子を見ていた……亜理子のやつはそういう視線に疎いからなー気づかなくても仕方ないか。
「響也なら大丈夫だろう、七人居た……牽制するって言ったけど俺ができるのは連中を引っ張り出すことだけみたいだ」
引っ張り出す以外は下手したら殺しかねないような魔法ばっかだしな、最終的に頼りになるのは己の拳と友の拳だけだ。
「そうか、ならさっさとしてくれ、亜理子が正気に戻る前に片付けたい」
亜理子はもう死体を見てはいないが……時折遠くを見て物思いに耽ることがしばしばある。大抵何かの死体を見たときに、その死体が今までどのように過ごしていたのかとかそういう事を考えているらしい。
「そうだな、よし……こっちこいや!」
『空間歪曲』を使い七人を横一列に揃えて目の前に引き寄せた。
「うおっ」とか「なんだ!?」とかいう悲鳴のようなものを上げて現れる七人に――――問答無用で殴りかかる響也。相手は子供だぞ手加減してやれよ。
バッタバッタとあっという間に六人を殴り倒し最後の一人となったんだが、そいつがなかなか骨のあるやつだったようで、響也の手加減した拳を受け止めやがった。あくまで手加減したものをだが。
「なんだってんだよ急に……殴りかかってくるとか頭おかしいんじゃないか?」
涼しい顔してそう言う少年に大して響也はというと。
「あ、わりぃお前見てたやつじゃないな」
そう言って拳を引いた、確かにコイツは一人物陰でふて寝していたやつだがよくそれがわかったな。
「ん? ああこいつらがなんか粗相したのか、そりゃ悪かったけどよ……そうやったかわからないけどいきなりこんなとこに連れてきていきなり殴り飛ばすって俺らがお役所に訴えてもあんたら文句言えないよな?」
確かに、こいつらはまだ何もしていない、先に手を出したのはこちらのほうだ。
「黙っといてやるからさ、金、置いてけよな?」
うん、こいつらどっか飛ばそう、証拠隠滅だ……大丈夫だ半径二キロメートル、それ以内ならどこにでも飛ばせる。俺は『空間歪曲』を使って倒れてる少年達と目の前の少年を二キロメートルギリギリいっぱいのところへ飛ばした。
「消えた……今の正吾か?」
「まあ、そうだな……亜理子が正気に戻んないから死体もどっか飛ばしとくか」
『空間歪曲』は地上だけではなく空中や地中も有効らしいし、折角だから地中に埋めてやるか。俺は死体を地中深くへと飛ばした。
……そういえばそもそも何が目的だったっけ? 俺達は亜理子が正気に戻るまで待つことにした。