42話 再来の響也
「先程の小僧との戦いでそんな小細工既に見切ったわ」
世界王は俺の胸ぐらを掴み上げ、ほくそ笑む。やめろ服が伸びるだろ――――いやこれは一応勇者御用達装備なジャージだから大丈夫なのか? 掴み上げられているが全く苦しくない。
それにしてもいつ以来だろう喧嘩相手に掴まれて宙ぶらりんになるのは……しかし接近戦か、俺はあくまで喧嘩の範疇に収めたかったんだけどここからは殺し合いになるってか?
ないない、普通に帰れるしこちらに永住するわけでもない普通の高校生が殺人なんて出来るわけないだろう。
それこそこの旅でどうこうしたのは狼とかだけだろう……多分。俺は小さな希望を胸に呆れ気味にこう言った。
「何が望みだ?」
いつでもお前を捻り殺せるんだぞと言わんばかりの世界王、要するに何か狙いがあるはずだ、それをさせるために俺は生かされているのだろう。
「おまえが欲しい……」
え? アレ? ――――寒気がした。
「お前の、お前の力が欲しい……私は幼い頃から――――」
何か語りだした、以下略……したかったが世界王の気迫に負けた。掴まれてるから《シンキングストップ》も使えない。
「幼い頃から私は恵まれていた、王子として衣食住全てがこの世界の最高基準で――――」
「自慢か! 自慢なのか、めんどくさいから結論だけ言え、こっちはお前の自慢話なんて聞きたかないんだよ!」
「う、うむ、それは済まぬ……簡潔に言えば私は自分の欲望を満たしたいのだ、私の感覚、五感に限らず全てにおいてこの世界では満足できなくなってしまった、なので貴様のチカラで全ての欲望が満たされる世界に連れて行って欲しい」
全ての欲望が満たされる――――俺はその時『ぬはは、これが、これが全ての欲望か、漲る、全てが漲るぞー』という世界王の姿を幻視した。
割とこう言う幻視っていうか多分未来視なんだろうけど、どうやったらあんな事になるんだ?
まさに勝ち目がないようにも思えるが、勝てない相手は封印、臭いものには蓋、ということなのだろう、俺では、いや俺達……人類ではこの男には勝てない、故にこいつを満足させて大人しくしてもらうしかない……そういうことなんだろう?
けど、それには少し時間がかかるし、こんな状態じゃ出来ないけど相手がその時間すら許してくれそうにない。自らの望みが叶うと分かった人間のほど怖いものはない。
どうすれば時間が稼げるのか――――俺の頬を冷や汗が滴り落ちるそんな時だった。
「うぉおおおおお!! りゃっ!」
どこからともなく突然雄叫びを上げながら高速で俺を掴む世界王の腕に何かが激突した。もう一度言おう激突した――――が、ビクともしなかった、一応俺は衝撃で落ち、世界王に激突した何かに拾われて離れたところでお茶を飲んでた富士さん達――――人が大変な時に何やってんだこいつらのところまで運ばれていった、お姫様抱っこで。
「よぉ、待たせたな」
ドヤ顔の響也がそこには居た。
「やかましい!」
俺はそのドヤ顔を殴って響也から飛び降りた。全く女なら今ので落ちるんだろうけど、俺にそんな事するなよな……そんなんだからクラスの女子数名に腐った妄想をされんだよ。
ちなみに殴られた響也は痛くねーよみたいな顔してたのがまた癪だった。
そしてその背後からミケネ達を連れた姉神様が出てきた。
「……どうです、僕だってやれる時はやれるんですよ?」
姉神様はどこか誇らしげだった……その背後で息も絶え絶えなフランス、何があった?
「どこかですか、戦闘面は全て私がやりました、いえ、やらされました」
疲労の色が強いフランスを「よく頑張ったな」と労っておいた、ちゃんと働いたものこそが受けるべきだからな。
「……えーと僕は?」
「減点、次の機会にだな……それが嫌ならあのおっさんをどうにかしてくれ」
俺は世界王を指さしたが――――「次は頑張りたいと思います」……諦めやがった。
「馬鹿な事言うな、アレは俺の獲物だ」
響也はやる気があるらしい、ならば俺もやるべき事をやろう。
「別に時間だけ稼いでくれればいいんだぞ」
「馬鹿言うなよ俺に敗北はない!」
俺に負けまくってる癖に何を言っているんだか。そんな強がりを言いながら響也は世界王に突っ込んでいった。
「……心配は要らないですよ、彼には僕がきちんと力の使い方をレクチャーしといたのでさっきのマスターとの戦闘よりは動きが良くなってるはずですから」
などと姉神様は言うが、そんな時間が一体どこに……俺は響也を飛ばした、それこそあいつが望む場所へとだ、あの状況なら出来るという謎の確信があったけど今やれって言われれば無理だ。
だから今の世界王の望む世界なんてもんは無理だ、であるなら作るしかない……《ショールーム》や《バスルーム》のようなものだ自らが《欲望を満たす空間》を作り上げなければならない――――それが俺の今の仕事なのだから。
肉と肉が、骨と骨がぶつかる音が響く、それと同じぐらい富士さんが茶を啜る音が響く――――集中したいのに全く。俺は無言で無音空間を作り出しそこに篭ることにした。




