40話 召喚術師の喧嘩殺法
さて、これで残すは王様と巫女……そして響也か、どれから先に仕掛けてくるんだろうな?
「はぁ……所詮偽物の勇者では相手にもありませんか」
呆れたような声を漏らしたのは巫女だった、その手には何故か瓢箪が……それを響也に見せるように軽く振っている。
「私の勇者様、分かっていると思いますが彼を倒してくださいそうすれば貴方のお望みのものは差し上げますから」
そう言われた響也の瞳に微かな光が宿る――――意識が戻ったか? それでも敵対の姿勢を崩さないあたり完全な洗脳ではなく弱みを握って従わせている感じか、……先程の正義達の体たらくぶりを見て巫女が完全な洗脳では勝負にならないと判断しての事かは定かではないが、とにかく響也の拘束は緩んだように思える。
それにしてもあの瓢箪何なんだろうか、あれを振るたびに響也の怒気が上がっていくんだが……気になったので俺は《サーチ》を使ってあの瓢箪の中身を調べることにした。
調べてみたがあの瓢箪の中は空洞で何も存在しない――――が、口の部分に召喚魔法に近しい物が仕込まれている――――名前を呼び返事をしたら任意の空間に召喚する魔法か。
なんかおとぎ話に似たような物なかったっけ? アレは瓢箪の中に閉じ込めて……溶かすんだっけか、でも巫女さんが持ってる奴は中身は空洞なんだし脅迫にはならないが……その事を響也が知らなければ十分驚異的だな、それでどうせミケネ達が捕まってその交換条件と言ったところなんだろうけど。
――――おい、姉神様どうせ神様だから聞こえてるとは思うけど、名誉挽回のチャンスだ、多分囚われていると思うミケネ達を保護して来いよ、なんならフランスとか連れて行っていいいから。
空気二人に見せ場を上げないと……なんて事は思っていないが、何も返事らしいものは聞こえてこない。代わりに……。
「あーもーやだーめんどくさい帰るー」
という棒読みやる気なしな叫びとともに姉神様は消えた、一緒に居たフランスを巻き込んだ辺りからちゃんと聞いてくれたと思っていいだろう。妹神は「姉がすみません」と頭を下げているが。
下準備は整ったこれで心置きなく戦えるな――――そう、この戦いには初めから回避法などなく、出来ることは一つ、ただ殴り合うだけだ。響也もこちらを待っていたらしく静かに拳を構えた。
だが、俺は召喚術師で奴は喧嘩番長、どう考えても後衛VS前衛なわけで、ちょっとぐらい魔法使ってもいいよね! 職業柄、そうならざる負えない。
アイツはあの訳のわからない反復横跳びで強靭な肉体を得て、俺は無限に近い魔力を得たんだ、ぶっちゃけあいつの本気の拳を生身で受け止めて俺が形を留めていられるかどうかといえば、それは無理。
ならばここはやはり、召喚術師の喧嘩殺法というものを見せつけてやるしかないだろう。
まずは奴に背中を向けつつ《ゼロスペース》所謂縮地というやつだ、それから《リバースポイント》で位置を入れ替え《ワープストライク》相手をランダム位置に突き飛ばす一撃を右拳にのせて放つ。
そこそこ魔力で強化した拳だから効果あると思ったが、その背中はビクともしなかった。
「その程――――」
その程度かと言いたかったんだろうが《ワープストライク》の効果でどこかに飛ばされた。それほど遠い位置ではないはずだが。
「きゃあ!?」「うぉっ」ゴツン――――二つの叫び声と硬いものがぶつかったような鈍い音がした。
後ろを振り返ると、響也と巫女さんが頭をぶつけて……ああ、ランダムと言ったがそれはその状態にも影響する。あれが普通の、それこそ正義とかならば吹っ飛び横に飛んでいたのが上から下に叩きつけられたり、下から上へ打ち上げられたりなんてことになる。
今回響也はあの拳を受け止めてその場に静止していたので上下回転して巫女の真上に飛ばされてそのまま落ちたって感じだろうか、なおランダム位置に関してはどこからか――――というか妹神様辺りから何やら細工された気配があったのでそちらを見てみると凄くニッコリしていた。
「クソっ卑怯な真似をしやがって」
あ、響也が再起動した……あいつは相変わらず小細工とか搦手とかに自分が弱いからってそういうのを卑怯とか言っちゃうんだよなー。
卑怯って言われて俺もちょっとムカムカしてきた。
起き上がりながら駆けてくる響也はバランスを崩しつつな感じなのでそこを狙って引き寄せる事にした、本当ならばさっきみたいに《ゼロスペース》で向かってもいいんだけど今、響也の背後には世界王が立っている。
あいつもさっきから動かないところを見ると巫女の傀儡の可能性はあるが、距離を詰めたら何か仕掛けてくる可能性も捨てきれないので今回は響也を懐に招く《ゼロサモン》を使いながら拳を突き出すと、まさにバランスを崩して前のめりになっている響也の鳩尾が、拳のある場所に現れてジャストミート!
「がっ」
軽く嗚咽を漏らす響也だったが流石鋼の肉体と言った感じで殴ったこっちの拳が痺れ――――ガシッと響也の左腕に掴まれ前のめりになる勢いに任せて響也の振るう拳が俺の顔面めがけて飛んでくるわけだが。
スッ……掠りもせず響也の拳と俺の腕を掴んでいた手が虚しく空を切る、俺はそこにいるはずなのに俺をすり抜け響也は勢いをそのままその場で一回転、床に叩きつけられる、かと思ったけど受身を取った。
何が起こったかといえば俺が咄嗟に《アナザースペース》を発動、別空間に逃げた為に拳は空を切ったんだ。
空間というものはスペースと言えば分かると思うが何もない空間を指す、よく空間の壁がとか空間に穴がなんて言ってきたが空間そのものは全くの無、何もなく俺がやっている空間魔法のほとんどは次元の違う空間を用いる、正しく言えば次元魔法に相当する。
そしてこの《アナザースペース》は異なる次元の同一空間に入る事によって、その場に居るように見えるが全く別の次元に居るということを可能にしているんだとかなんとか、正直俺はやれるって思ったからやっただけなんで理屈とか細かいところは知らん、ただそういう魔法であるという知識があるだけで真髄とか真理とか理解してないからな。
言い訳が多くなったが、結局俺は今ある種幻影のような状態となっている。受身を取り起き上がった響也は空間の壁が砕ける勢いで拳を振るい俺を殴ろうとするが殴れない、当たらないし、掠りすらしない。
これが空間を隔てて身を守る結界系の魔法であれば奴の腕力によって砕かれ、俺自身砕け散っていたであろうが……奴の拳ではまだまだ次元までは越えられない。
俺は響也に引導を渡すべく右手に魔力を集めた、今この次元に居れば俺も響也には手は出せないが、ここから元の次元に戻るには俺の意思一つで可能になる。
だから、ありったけの――――と言いながらも後のことを考えて半分は残し、俺の全力(二分の一、当社比)を奴にぶつける。
もう何度目か、響也の拳が振るわれ、俺をすり抜けると同時に俺は元の次元に戻り。
「これが俺とお前の次元の違いってやつだ、よく覚えとけ」
とか実際に違う次元に逃げた俺じゃカッコはつかないと思うが、剥き出しの響也の後頭部に俺は裏拳を叩き込むと、接触したところから俺の魔力が青白い光と共にバチバチと音を立て響也の体を駆け巡った。
「だから、これは俺の仲直りの握手みたいなもんだ受け取ってくれ」
何がだからなのか俺にも分からないし叩き込んでから受け取れっていうのもアレだが……微かに耳に届いた「ああ……」という響也の囁きと共に、この場から響也の姿は消え去った……後には何も残らずに。
無傷の勝利!
召喚術師の喧嘩殺法、それは理不尽かつ容赦のない攻守共に優れた蹂躙殺法である。
無敵とかチート過ぎると必然的に敵に同等の力量がないとダメだなって思いました。




