39話 その手にパンツを
戦う前にちょっと場を整理しよう、いくら前魔王の水晶がなくなった部屋で壁にも穴あいてるからってこの人数で一斉に戦うのは狭い。
「という訳で、雑魚の方々はご退場ください」
近場の空間と空間を穴で繋ぐ《ワープホール》を騎士とか兵士の連中の足元に開き、そのまま落とせば派手に水飛沫を上げながら兵士たちは落ちていった。外にある湖の上に繋いだ訳だけど、結構軽装だった兵士はいいけど、重装備な騎士様方は浮かんでこないだろうし探査破壊魔法を使って甲冑のバラバラに分断して脱げやすいようにしてやっておく。
この程度で死なれても後味が悪い。
「ふむ、主殿……あの湖にはな、化け魚がいるから今のはただそいつに餌をやったようなもんじゃぞ?」
それは聞きたくなかったかな……どのみち彼らの命は助からないらしい、やってしまったものは仕方ないけど。
「あ、彼らなら私の方できちんとそれぞれのご実家の方へお送り致しましたので大丈夫ですよ」
流石妹神様だ、俺では(めんどくさくて)出来ないことをやってくれる。なんでわざわざ実家なのか分からないけど。
「残りは勇者御一行と王様と巫女だけか」
ちなみに勇者御一行には響也も含む。
「これで勝った気か? あんな雑魚などに頼らなくとも俺達だけでお前を倒す! 覚悟しろ魔王正吾!」
誰が魔王だ、本物なら俺の後ろにいるぞ……それにジャージ姿の魔王ってなんなんだよ魔王っぽい格好をしていると言えば……それでも富士さんぐらいの貫禄がないとな。
「ふざけた奴だ魔王はご主人じゃなくてアタシだっていうのに!」
怒りの形相で拳を握り締めるルナを俺は腕で制する、流石にこいつの本気の拳を受けて正義が肉片を残すか分からないしな、あんな奴でも俺と同じ世界の人間だ、居なくなられては後々迷惑だしな。
俺の今の目的は誰一人欠けることなく元の世界に帰る事だ。神様の思惑とかあってここまでやってきたけれど帰れるんなら俺はとっくに帰っているだろう、その為に必要な人間はこの場に揃っているしな。
揃っちゃいるけど、問題は響也か……ミケネ達が一緒じゃないのも気がかりだけど、そもそもあいつ見た目が変わり果ててるからな、髪は染めるとして……アレ、なんか別に大丈夫な気もする。
「いっそこのまま帰っちまうか!」
「ダメですそれは許しませんからね!」
妹神様に怒られた……だよな、でもそうなると――――敵って世界王と巫女だけじゃね?
「黒田ぁぁああ!」
えーとなんか俺に単騎で突っ込んできた……上木か、姿勢を低く構え両腕で顔などをガードしながら突進、流石ボクサーその構え勢い、なにより気迫が堂に入っている。
「えーと……なんて名前にしようかな……《リバースポイント》からの《RJパンチ》っと」
眼前に迫ってきていた上木と俺の位置を逆転させる《リバースポイント》で背後を取り――――一応召喚魔法に分類される《リバースポイント》によって、慣れない奴だとなるらしい(俺は慣れすぎていて起こらない)召喚酔いで一瞬というか結構隙だらけになった上木の背中を《RJパンチ》で後頭部を強打してやると上木の姿が一瞬ブレ、そして装備、服は勿論下着を残して上木はこの世界から消失した。
「まずは一人だな、お次は?」
振り返ってみると案の定お怒りの正義マンがよくも仲間を! みたいな感じになっていた、他の連中も似たようなものだが響也だけは無心で俺を見つめていた……ったく、ちゃんと後で相手してやっから焦んなよ。
「貴様ぁ! こうなったら、みんな、一斉攻撃だ!」
振り返ってみるとこちらに来て未だ一週間も経っていないはずだ、それでどのぐらい強くなっているのか知らないが一斉攻撃されても別に大して支障はないだろう、それに響也の奴はこの攻撃に参加してないしな。
「俺一人で片付ける、みんな手を出すなよ?」
姉神様やフランスなどと言った人間が「あ……出番が」とか言っていたが残念ながら空気は所詮空気なのだよと酷な宣告をしてやってもいいがその内何かあるだろうという意味の視線を送っておいた、理解したかどうかは知らん。
それにしても一斉攻撃という割には正義は最後尾で剣を掲げて走っているだけ、剣士なんだから前衛の仕事しろよ……。
あの中で一番足の速いサッカー部長友は弓を構えたまま突っ込んでくる、残念弓兵だしな、いや弓兵は残念な奴しかいないのか。
倉井も魔術師みたいな格好して杖を振り回しながら魔法もへったくれもない雄叫びを挙げて突っ込んできている、洗脳の弊害か、こいつは狂っているとしか思えない。
女子は女子で倉井と同じく魔術師というかなんていうかその年にもなってそんな格好しちゃうのかよ、風紀委員坂本は魔法少女のコスプレみたいな服装、こいつはそれこそ魔法の呪文みたいな意味のなさげなカタカナを連呼しながら魔法のステッキをくるくると回しながら走ってくる。
後衛のそれも治癒専門であるはずの吉田も行動は同じかと思いきや俺を狙って魔法を連発中……「ヒール! ヒール!」と一生懸命だ――――敵を癒してどうするんだろう。
最後に、これが一番インパクトがある絵面だが、獣使い桜井、使役している獣はオーク……ならぬ豚野郎だった――――それこそオークでもなければ豚の獣人でもない、生粋の太ったオッサンがハムみたいに縄で縛られ
ハイハイしながらこちらへやってくるのだ、しかも恐らく主人である桜井をその背に乗せ――――桜井はピンヒールを履いて三人居る豚野郎に鞭を奮って高笑いしている、なんかキャラ変わったな、昔はそれこそうさぎさんみたいと言われていたはずなのに、小動物よお前はどこへ逝った。
と、まぁこんな具合でバカ正直に突っ込んでくる連中に対し溜息をつきながら俺は連中に背中を向けて《リバースポイント》で俺と正義の位置を入れ替える、この《リバースポイント》は位置を入れ替えるだけであって向いていた方向というのは変わらないので、俺の位置に行った正義は背後から味方にタコ殴りにされる事に。
みんな洗脳されてるからかそれが正義であるという事に気づけない上に命令を下すべき正義が殴られていて命令も止められないので正義の顔が見る見るうちに変形していく。
このままでは流石に正義が死んでしまうので俺は素早く《RJパンチ》で正義以外の連中を消し去る、残れるのは脱ぎ散らかされた装備類及び下着類と、ボコボコになった正義だけだった。
哀れ正義――――と思ったが聖剣を手放し地に伏せた正義が握っていた物を見てそんな気も失せた……そこに握られていたのは、水色、ピンク、白の三色の布切れだったからだ――――とても冷めた気分になり俺の口からは自然と一言だけ漏れた。
「死ねばいいのに」
それは、意識してやったのか無意識でやったのか分からないが軽蔑するのには十分すぎる行動を取った正義に対する餞の言葉だった。
ノリと勢いで書いた……後悔はない。




