34話 俺達の旅はまだまだこれからだ!
俺は熊の子の頭に手を置いてそのまま瞑想している……いきなり名前を決めろだとか言われてはいそうですかってつけられるもんじゃない。
「えーと元の名前とかあるのか?」
「ないです……」
無いのか……どうしろと。今までは元の名前から取ったりしてきたんだが富士さん見たく第一印象が強かったという訳でもないしな。
「主殿、名前などなんでも良いのだ、ただ契約をせねばその者の存在が薄れやがて消えてしまう、精霊で言うとこの死を迎えるのじゃ」
なるほど、物凄く切羽詰た状況なのは珍しく焦っているように見える富士さんの様子からも窺えるけど……しかしどうしろと、この子に付けるにあたって相応しい文字は、しろ、くま、ずきん、栗毛……くましろ。
「じゃあとりあえず『くましろ』で」
超適当……白熊にはしたくなかった、なんとなく服が白いだけで毛の色は栗毛色だぞ、白くないんだ。熊要素は立派な耳があるとしてもだ毛並みは茶色だし。
俺の魔力がくましろの体に流れ込む……どうやら俺の魔力を食べている感じらしいな――――くましろは自分の頭の上にあった俺の手を掴み……口で咥えやがった。
なんか吸い取られるようなそんな感覚、力が抜けるとまでは行かないがあからさまに吸い取られていた。舌を動かし俺の人差し指と中指の間をペロペロと。
――――それから二十分後。
「いい加減にしろッ」
俺は手を振り払い、くましろの口から抜きとった、その手はべっとりとした唾液塗れでぬるぬるしていた。
俺は不快感いっぱいの表情をしてたんだが、くましろは名残惜しそうに俺の手を見つめていた。何か別の方法を考えないとな。
「濃厚だった」
手を頬に当て顔を赤らめつつそんな事を言うくましろ。乙女が恥じらっているそんな風にも見えなくはないがちょっとイラっとした。
「味の感想なんて聞いてねぇよ!」
全くとぼけた熊だ……。熊っていうのはそれが付いてるだけで可愛いとかそういうイメージがあるけどこいつは違う、野生のそれも飢えた獣だ、俺にはわかる。
未だにスキあらば狙っていますと言った視線をひしひしと感じるしな。
「それでこれからどうするんだ?」
そんな獣の事は置いといて次の行動に移ろう、響也との契約が切れたっていう事もあって俺は今ちょっと焦っている、あんな喧嘩別れをしたが親友は親友だ。何か面倒なことに巻き込まれていなければいいが。
「そうじゃの、とりあえずここはもう用は済んだ次へ参ろう」
次、ね……ここからだと次に近いのは、この森を抜けた先に、一つ……でも探知した中じゃ一番小さいんだよなアレ。なんかこう、ぼやけてるっていうか密閉された空間に閉じ込められてるけど溢れんばかりの魔力がそこから溢れ出しているとも表現できるからもしかしたら物凄い大物かもしれないけど。
「次は、この森を抜けた先に一つあるが、なんか反応が小さいんだよな……小さいといっても比べれば亜理子なんかよりはデカいんだよな」
亜理子よりデカいで皆の視線は亜理子の胸に……いやいや胸じゃないから! 魔力量の話だから。ちなみにこのメンバーで言うと富士さん、亜理子、くましろ、アリサ、フランス、ルナの順かな、何の話かは伏せておくが。
少女二人に負けるというか幼女にしか勝てないフランスの残念さ加減と言ったら……もう――――なんかものすっごく睨まれたけどな、迫力が足りん、でもまあ、年齢の話と胸の話とついでに体重の話なんかは女性に振らない方が身のためである……と、前にクラスメイトのイケメン野球部員に言われたけどな、あいつも何してんだろうな今頃。
「森を抜けるの?」
さっきそう言ったんだけど、耳が悪いのか? それとも頭が……うーん天然のように見えなくもないけどこんな調子じゃこの先ちょっと心配になる。
「まあ、そうなるな」
「わたしも連れて行って」
「いや、なんで連れて行かれないと思ったんだ?」
「え?」
ボケてんのかな本当に、俺てっきり連れて行くために契約したんだとばかり思ってたんだけど違ったのか? 俺が契約しないと死んじゃうって事は俺がある程度そばに居ないとダメなんじゃないんだろうか。
「ふむ、説明不足であったか、お主が生きるためには主殿について行く他ない、だから連れて行くのは既に決まっておるから安心するといい」
富士さんの説明でようやく納得したのかくましろは頷きながら俺の背後に回ると、俺の裾を掴み、準備万端みたいな表情を浮かべた。正直そんなことされるぐらいなら手を繋いでやりたいんだけどその瞬間手を咥えられそうでこわい。
「とりあえず行くか」
とにかく、森を抜けるために俺達は歩き出したんだ……すげぇ歩きづらいんだけど。この先に待ち受けているのが何なのか、富士さんやルナの顔つきからなんとなく察してはいるんだけど――――俺達の旅はまだまだこれからだ!
打ち切りの予感――――。
そんなことないんですけどね。




