22話 赤い頭巾のオオカミ少女
「なんだこれ? ……金貨か? それに銀貨っぽいのと銀貨っぽいけど偽物じゃん、よくわからない紙切れも入ってるし、こんなゴミ盗ってくるんじゃねーよ! 使えないなぁこれだから魔族は」
なんだか偉そうな悪ガキが赤頭巾の少女から俺の財布を受け取り中身を確認してみて肩を落として――――総額一万六百三十円の入った財布を近くの草むらに放り捨てたので、俺は《異空間収納》を使ってこっそり回収しておいた。ちなみに《逆召喚》で少女の所へ飛んできた俺は途中で《ストップ》を使い空中で停止して空間を歪めることによって認識を阻害しているのでここに居ることは誰にも分からないだろう。
それにしても魔族か……あんな可愛い子がねぇ、灰色の髪を地面すれすれというかほぼ引きずってしまう程伸ばし、爪も長く伸びっぱなし靴も履いてないし服も麻袋に穴を開けただけみたいな物で綺麗だと思えるのはその頭に被っている真っ赤な頭巾とそれに負けない燃えるような赤い瞳ぐらいなものだった。
「おい、なんとか言えよ!」
描写するのもめんどいが金髪青目のいいとこのお坊ちゃん的なガキは先程から何も言わない少女に対してイラついていたのか、近寄って――――突き飛ばしやがった、少女は抵抗するわけでもなく地面に倒れる。
「ふんっウスノロめ」
今の光景だけでもいくつか分かることがあるだろう、一つはスリをやらせてるのはこのガキだということ、それからこの少女は恐らく魔族と言われる種族であり迫害の対象か何か、そんでこの偉そうなガキに逆らえないと言ったところか……正直ほっとけないよな――――幼女とか拾ったばかりだが亜理子は別にいいって言ってたし、こいつも拾ってやるか。
そろそろ二人の間に割って入ってもいいだろうと《ストップ》を解除しようとした時、急に少女は立ち上がった。
「わ、わたしは魔族じゃないっ誇り高きワーウルフ族とドワーフ族の末裔ドワーウルフのアリーシャだっ」
泣きながら悪ガキに殴りかかっていく少女――――俺は《ストップ》を解除して二人の間に割って入りアリーシャの腕を掴んで止めた。
「ひっ」
突然現れた、自分が財布をスった相手に恐怖したのか知らないがアリーシャはその場で腰を抜かし尻餅を付いた……失禁もしてしまったらしいな。
「なっ……貴様どこから! ……ふふっ、よ、よくやった褒めてやる、さあその薄汚い魔族をぼっこぼこにしてやるんだ」
俺がアリーシャを止めたのを見てこいつは俺を味方だと認識したらしい……今の言葉でアリーシャは更に怯えて這うように後ずさりしながら「いゃぁ……」と悲鳴を上げる。
「うるせぇ、お前が俺の財布を持ってたのは見てたんだよ! これでも喰らえ!」
俺は背後で踏ん反り帰っている悪ガキに対して拳を握ると顔面に向かって一発お見舞いしてやった――――鼻血を吹きながら地面に倒れる悪ガキ。
「……え?」
その光景にアリーシャは目をまん丸にして驚いていた。
「……ぐ、ぎ、き、さまぁ……このオレが誰かと知っての狼藉か! オレはこの街の領主の息子なんだぞ!」
なるほど、ボンボンだとは思っていたが領主の息子か……でもここの領主って世界王派閥だから喧嘩売っても別にいっか。
「だからどうしたってんだ? この子に盗みなんてさせて良いわけないだろう、ふざけやがって」
正直、これ以上は相手は子供なんだしやりすぎだったかなと説教モードに切り替えようと思ったが。
「ふ、ふん! そいつはオレの奴隷だ! オレがどうしようと構わないだろう!」
それはそうかもしれないが――――見るに堪えないんだよッ! 俺はアリーシャの肩に手を置き――――。
「もう大丈夫だ……お前は俺が助けてやるからな、お前は今日から『アリサ』だ、いいな?」
「ア……リ、サ?」
語感が似てるから別に問題はないだろう《命名契約》の魔力が『アリサ』の体を駆け巡り……隷属魔法を打ち砕き、ついでになんかの魔法を破壊する音が響いた。
今の感じ……ルナの時のに似てたな。そう思ってアリサを確認すると彼女のトレードマークとも言うべき頭巾が取れて、アリサの頭が露出した――――ああ、露出したとかまるでハゲてるみたいだが違うぞ。
そこにあったのは耳だ、それも人のそれとは違う……どちらかといえばミケネとかのああいう獣耳。
さっき破壊したのはやはり隠蔽の魔法だったようだな。
「なるほど、ワーウルフとか言ってたっけな、ならこんな耳あってもおかしくはないんだな」
「ひゃうっ」
耳が恥ずかしいのか、ぺたんと耳を畳んで手で押さえて頭を抱えるように蹲ってしまった。
「隠すぐらいならもう一度頭巾を被り直せばいいだろう?」
「う、うん……」
アリサは頭巾を被り直して恥ずかしそうに内股になり俺から少し距離をとる……漏らしてるんだっけか、そこはどうしようもないから《ショールーム》でも使うか。
「お、おい! お前っオレの奴隷に何をしたんだ!」
《命名契約》の魔力を見て惚けていた悪ガキが正気に戻ったらしい。アリサがまた怯えだした。
「ったく、めんどうなやつだ……アリサ、どこかで着替えを用意してやるから付いてこい」
付いてこいと言いつつ腕を掴み俺が引っ張るとアリサは黙ってそれに従う。
「ふ、ふざけるなっ! お、オレに逆らったらどうなるか知らないのかっ、来週やってくる勇者に言いつけてやるんだぞ!」
正気ではないのか意味不明なことを言う悪ガキ、来週って……直ぐにじゃないのかよ、一週間もこの街に滞在する予定はないんだけどな――――俺はガキの戯言を放置してアリサを連れみんなの元に戻ることにした、後ろからガキの罵声が飛んでくるが追いかけては来そうにもないので《ワープ》を使って一気に飛んでいくことにした。




