1話 異世界フィレスカッツェドゥーン
ここも元とあまり変わらずですね。
世界を救えと、巫女さんに異世界に召喚され勇者にされる。
最近この手の小説とか増えてきたよな……いや昔からあったといえばあったジャンルだし今更な気もするが――――なんかありきたりでつまらん。
と、現実逃避するのも良かったんだが、勇者様とか言われ、実際あだ名が『イケメン勇者』な正義が巫女さんの話に興奮気味に食いついていった。
「勇者って俺の事かな?」
どうでもいいが勇者様方と言ったんだみんな勇者って事なんじゃね?
無駄に爽やかな笑顔で飛びついて言ったが巫女さん引いてるぞ。
突っ込みたいのは山々だがこいつに勇者を語らせたらめんどくさいから辞めておく。
「はい、貴方様とお連れの皆様の事です。立ち話もなんですからどうぞこちらへ」
巫女さんが神殿の奥……じゃないな入口あそこだけだし今いるここが最奥と見るべきだろうな、そこを指差し、俺たちを連れて行く。
長い廊下を歩いていくと奥に光が見えるので恐らくあそこが入り口なのだろう、そしてその入り口の手前の右側にある部屋に巫女さん達が入っていく。
広い応接間のような場所だった。中々立派な調度品の数々が並んでいる、そして全員が座る煌びやかな椅子があるんだが、一人分足りない。
巫女さんの分がないとは思えない、ってことはやっぱこれは最近よくある巻き込まれ系ストーリーで俺が巻き込まれたと見るべきかな?
まあ俺が勇者なわけないもんな……全員が席に座る中俺だけ突っ立っていると。
「あ、すみません椅子が足りませんでしたね、この椅子をお使いください」
先に来て座っていた巫女さんが立ち上がり自分の椅子を俺に譲ってきた、別に巻き込まれ系だったわけでもなさそうだ、遠慮せず俺は巫女さんの椅子に座ることにした。なお、巫女さんは立ったままのようだ。
「では、皆様の状況を簡潔に説明させて頂きます、まず初めに私の自己紹介をしておきますね、私はこの世界の巫女を努めておりますコメットと申します」
コメットなんか覚えにくいしどうでもいいか……この巫女さんが言うには、この世界はフィレスカッツェドゥーンと言うそうで、国という概念がないというか大昔に一つの国フィレスカッツェドゥーンに統一された世界らしい。
この世界ではここ数百年あまり突如として魔族と呼ばれる、まあよくある魔族が攻めてきて人類滅亡の危機でどうにもならないから勇者召喚しよっかって話になったという流れに略された、簡潔すぎるだろう、いくらなんでも、イケメン勇者こと、正義が魔族の概念とかそれで勇者が必要になったんだろうとかドヤ顔で説明してくれちゃったからそこのところ省かれたんだけどな。これには巫女さんドン引きだ、まあ実際にその説明通りになっているこの状況に俺はドン引きだけどな。
正義よ、少しは落ち着け、お前に無関心な亜理子ですら少し引いてるぞ……。
「続いて勇者様方の職業を調べたいと思います――――まずは頭の中でイメージしてください、自分の戦う姿をイメージして、それからそっと心に耳を傾けるのです、さすれば勇者としてのあなた方の職業を知ることができるはずです」
できるはずですって曖昧な話だつか、勇者=職業ではないのか、人それぞれに職業があって、勇者はあくまで称号ってとこか……イメージねぇ、やっぱ俺と響也は拳で戦うのかね?
俺の学校でのイメージは響也と一緒で素手による喧嘩なら百戦錬磨ってことになってるらしいから、いやまあ確かに喧嘩じゃ負けたことはないけど、好き好んでやってるわけじゃない、ただ亜理子とか響也の妹を守ってたら勝手にそうなっただけ……いや、止めようもう昔のことだ、まあ――――だからやっぱり魔法とか使えたらいいよな、やっぱファンタジーな世界に来たら魔法だろう、伊達にあだ名が『召喚術師』ではない、異世界から俺たちを呼び出した召喚魔法とかあるんだから魔法は普通にある世界なんだろう、魔法、魔法、とイメージしていたんだが俺が知る魔法ってなんだ?やっぱさっきの召喚魔法みたいなやつか――――? などと考えていたら俺が戦う姿がはっきりと見えた気がした――――。
――――素手で、(あ、やっぱ素手なのか)相手の懐に一瞬で飛び込み(召喚?いや転移ってやつか)殴ったり、相手を目の前に呼び込み(これは召喚になるんだろうか)殴ったり……響也を召喚して殴らせたり(あだ名のまんまじゃね?)って結局全部喧嘩殺法じゃねぇか!
そして耳に確かに聞こえた、聞いたこともない少女の声でだが『召喚術師』とはっきりと。