11話 タイラントフェンリル
本日三度目(?)の更新です。
タイラントフェンリルとは全長六メートルもある白黒の虎柄な狼である。
大きな特徴はその毛皮に有り、いかなる刃物でも傷つけることができないらしい……まあ俺達は刃物なんて使わないがな。
「おい、正吾……」
響也がこちらを見ずに話しかけて来た、何か考えがあるのか?
「なんだよ?」
「あのデカブツ、お前に任せてもいいか? アレはちょっと俺には荷が重いようだ……俺は周りの雑魚を相手する」
流石のこいつも拳で奴に敵うとは思ってなかったらしい、だが……。
「お前さ……ミケネと亜理子、二人を庇いながら戦えんのか?」
戦いにばかり気を取られても仕方がない、戦力を二分するということは反面防御が半減するということだ……そうなっては片方を守りきれない恐れもある。――――それに少し懸念もあるしな。
「やる……いや、やらないとダメだろう?」
決意はあるらしいな……それじゃあ俺もやってやらなきゃなるまい、生憎とあの化物を倒す方法は思いついていないが。
「私だって戦うよ!」
いつの間にか聖剣を手にした亜理子が狼達に向かって構えていた、やっぱりお前も戦うのか……出来れば戦って欲しくなかったんだけどな。
「で、では私も戦います、伊達にお父さんの娘じゃないから」
そんな事を言いながら立ち上がるミケネ、どうやら恐怖が一周してどうでもよくなったらしい、どこか危なげな笑みを浮かべならが懐からナイフを取り出した。
「……はぁ、仕方ないか……なら精々死なない程度に頑張れよ、二人共――――それじゃ、行くぞ!」
響也は群れに激突するかのように突っ込んで行った、枷が外れた響也は一対多の戦いに慣れているから突っ込んでいくほうがやりやすいんだろう。
一方ミケネと亜理子はといえば先ほどの俺達のように背中合わせになり来る敵のみを相手するようだ。
一匹ずつ様子見なのか亜理子達に突っ込んでいく狼が居たが、亜理子は力強く一刀両断――――しつつ、なんか大地が避けてその先にいた狼が地割れに飲み込まれていった……。
ミケネの方はというと地道に一体一体仕留めていくスタイルらしいが、その一撃一撃が相手の喉元など急所を狙っておりほぼ必殺といっていい状態にある、これなら任せても大丈夫だろう。
俺は三人にこの場を任せ、逆召喚魔法を用いてタイラントフェンリルの元へと跳んだ。
時間を止め、空間を歪め、その好きに跳躍する――――傍から見れば瞬間移動にしか見えないが術者側からしたらこれだけのプロセスが必要なのだ、俺は勇者として召喚術師となったので召喚に関わる……時間・空間・歪曲・停止・跳躍・把握・分断を用いる魔法は全て極めている(全て使えるというだけで、使いこなせるわけではない)がこれら全てを組み合わせることによって召喚魔法は成り立っている。
今俺はタイラントフェンリルの真上に来ている、逆召喚でやつの頭上に出て停止の魔法で自分の落下を停止、更に匂いなどが風に乗って奴に流れるのを防ぐために近くの風も停止させている。
おかげで奴はまだ俺に気がついていない、だが俺も今は奴をどうこう出来はしない、精々やつが動き出した場合にこっちに気づかせて向こうに行かないように足止めするのが誠意一杯だろう。
そんな風に思っていた時、奴が動きを見せた……どうやら先程から一分間に五十匹を地割れに落としている亜理子と一分間に十匹を殴り殺している響也を驚異として判断したらしく、長らく地に伏せて居たがゆっくりと立ち上がった。
奴とついでに俺がいるのは響也達が見下ろせる切り立った崖の上だ奴はここから飛び降りて仕掛けるらしいがそうは行くか。
俺は自分の停止を解き空間を蹴り跳躍、奴を背後から蹴り飛ばす為に再度跳躍して空から斜めに空間魔法で足場を滑り台のように作りそれをスライディング――――というかカッコつけて滑り落ちているだけだが、それに時間魔法による加速をして一気に蹴り飛ばした。
「WAON!?」
いきなりの背後からの蹴りに驚きの声を上げながらタイラントフェンリルは崖下に転落していく。
俺はそのまま崖の上でかっこよく着地できれば良かったものを、飛び蹴りの衝撃で崖が崩れやつと一緒に落下中であるが、空間跳躍を使いその場を離脱し、狼の群れの中へと着地した。
奴がどうなったかと言えば一緒に落下した瓦礫の下敷きとなって見えなくなったが……やったか?
俺は今狼に取り囲まれているが、何故だか一向にかかってくる気配がない。
恐らくは俺の分断魔法の間合いを知られているのだろう、使ってはいないのだがどうやら召喚魔法の一種を使う魔物だけあって勘が鋭いらしい。
一定の大きさの円を描くように俺の周りをぐるぐると取り囲んでいる。
俺が一歩踏み出しても一糸乱れぬ動きで範囲に入らず、また包囲も崩さないときている、相当にやっかいな相手だ。
なんて苦戦してた時が俺にもありました――――ボスクラスを倒した俺にそんな小細工が通用すると思ってるのか、哀れな犬っころめ。
「残念だが、目に見えるとこ居るなら問題ないんだよ!」
俺は右拳を握り、左腕を前に突き出しそして掴むように握り締めると同時に一気に引き、すかさず右腕を突き出す! と俺の拳は目の前の狼の頭を捉え、その頭蓋骨を粉砕し、脳を破壊した。
何が起こったというか起こしたかと言えば、右拳を握り、停止魔法で拳にダメージを受けないように状態を停止し、左腕を突き出すことにより対象を把握、握り締めることによって時間停止して空間を歪曲させ腕を引くと同時に目の前に引きずり出し、右腕を伸ばす勢いに加速をつけて貫いた。
ざっとこんなもんである……所謂物理(魔法)である。
それから俺達は狼どもをバッタバッタと薙ぎ倒して行っていたんだが異変は突然訪れた。
ミケネが相手をしていた付近の狼達が遠吠えをしたのだ、また仲間を呼ぶ気かそう思ったのかはよくわからないがミケネがそれを邪魔しようとその集団に突っ込んでいった直後――――ミケネの目の前には倒したはずのタイラントフェンリルが現れた、見た目にかなりダメージがあるのでさっきの個体だろうが、もしや今まで回復するためにわざと下敷きになっていたのか?
狼たちの、咆哮召喚により突如目の前に現れたタイラントフェンリルに目を見開き驚くミケネであったが、次の瞬間――――轟、と言うような音と共にやつの前足がミケネをなぎ払った。
「ミケネッ!」
それに気づいた響也の悲痛な叫びと共に鮮血をまき散らしながら宙を舞うミケネ。
「あ……」
そしてそのまま黒い濁流の中へと飲み込まれ……言うなれば獲物に群がるピラニアの如くミケネを蹂躙する狼達……俺達はその様子を黙って眺めるしかなかったんだ。
……そこからはよく覚えていない、俺もみんなも無我夢中で狼を倒していった、亜理子が叫び、響也が吠え――――最後に残ったのは無数の血と狼の骸、そして無残な姿になったミケネを抱き抱え号泣する響也の姿がそこにはあった。
ちょっとチートしてない感じですが次回パワーアップ予定。
ミケネ死す。
そして響也は反復横跳びを始めた……。