9話 登山
ミケネと共に魔王の城を目指す旅路……とでも言えば勇者っぽいが実際は連絡係みたいなもんだ。
俺達は今テンガロン山とかいうとこで登山中なんだが、先頭を案内役のミケネ、その隣を何故かミケネと親しくなった響也。
その後を俺と亜理子が仲良く腕を組みながら――――いや歩きづらいんだが、響也とミケネの仲を見て亜理子が「私たちもー」なんていいながら絡んでくる……いや響也達は別に腕は組んでいないが。
「それで、ですね――――」「それから――――」「――――ですから」「――――なんですよ!」と、何か途切れ途切れにしか聞こえてこないがミケネはとても饒舌になって響也に話しかけている。
一方響也はといえば「ああ」「そうか」「なるほどな」など軽い相槌を打ちながら聞き手に徹している、中々に聞き上手のようだ。
「えっと、どこまでお話しましたっけ?」
饒舌状態のミケネが道が緩やかになったことで追いついてきた俺達に気づき、話しかけてきた。
「……勇者が強さの秘密、その理由とやらだったな」
横で話を聞いていた響也が答えるが――――俺達は全く聞こえてなかったが大丈夫なのか?
「ああ、そうでしたね。それで、勇者と言うのはですね別の世界から来た人だけが成れる副種族的なものなんです、それでなんで戦闘力もない一般人でも勇者になれるかといいますと――――」
ミケネは勇者に強い憧れがあるらしく、物凄い熱弁をしてくれているのだが……段々と喋る方向が響也の方に集中していき俺たちが除け者になってしまう。
聞こえてきた話をまとめると、世界と世界の間には途轍もない量の魔力で出来た壁が存在し、召喚された人間がそこを通ることによってその魔力を得て勇者になるんだとか。
それでその事を研究してた昔の偉い学者が居て、その法則を利用して最強の軍団を作り出す為に、この世界の人間を他所の世界に送還と呼ばれる召喚魔法の一種を使って送り出し再び召喚する実験を行ったらしい。
しかし結果は失敗、返ってきた被験者は醜悪な姿の魔物に変わっていたという。
この世界の人間は誰であろうと少なからず魔力を有している……それが駄目だったらしい。
魔力にはそれぞれ色があり、火なら赤、水なら青などといったイメージしやすい色なのだそうだが、この世界の壁の魔力は色に例えるならば虹色なのだという、そしてこの虹色と言うのは全ての色が均等に等しく存在する状態であり、これが崩れると魔力が暴走するらしい。
つまりこの世界の住人が元々持ち合わせている魔力の色によってその均衡が崩れ魔力が暴走し、結果魔物と化してしまうらしい。
それでは俺達はというと、俺達の世界には根本的に魔力というものは存在しない、よって俺達の世界の住人の魔力の器は空っぽなのだ、そこに世界の壁の膨大で質の良い魔力が注ぎ込まれることによって勇者として覚醒するらしい。
そんな感じで勇者知識を披露するミケネは夢中になりすぎたのか、足元の小石に躓き転びそうになったところを響也に支えられて頬を赤く染める。
「大丈夫か?」
「は、はい……すみません」
「……気にするな」
やべぇ、響也が紳士的だ……ガサツとは言わないがいつも喧嘩に明け暮れていたあいつがこんなに大人になってしまっているなんて……という親かお前は的な上から目線で見ていると横から。
「きょーや君大人になったね……」
しんみりとした感じで亜理子が囁いてくる、心でも読めるのかお前は……。
ここまでは順調――――と言ってもまだ十分の一にも満たない距離しか進んでいなかった俺たちだがここでアクシデントに見舞われる。
「わ、わわ……ワイルドウルフの群れです! 囲まれてしまってます!」
黒い狼の群れに囲まれてしまったらしい――――正直この時逃げておけば良かったと後悔することになるのだが、勇者パワーを得ている俺達にはそんな思考はなかったのである。