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trip change  作者: tamap
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待ち合わせ

 ちょっと綺麗な娘がいる。

彼は思わず吸いつけられるように夏なのにきちんと上着を纏って暑そうな顔ひとつしていない、15、6の少女の白い横顔を見た。

小柄だが背筋が綺麗に伸びて姿勢が良い。

じっと他人のやっているスロットゲームを見ていた少女がくるっと彼の方を見た。

とたんに彼はギクッと金縛り状態になる。

彼の本能が悲鳴を上げている。

彼が一番近づきたくない、だが再び会える事を切望したあの娘。

 本能は彼女に近づくなと叫んでいるのに、彼の霊感は彼女が決して見かけどおりのモノでは無いと教えてくれているのに、酷い傷口にたびたび触れてみたがるようにあの時別れたその瞬間から彼は彼女に会いたかったのだ。


 「君、ねえ君だよ。

オシャレだね、服は何処で買うの?写真撮らせてもらって良いかな。

ぼく、こういう者だけど・・・・」

いかにもマスコミ関係といった30ばかりの男はあっと言う間に彼女に無視され置き去りにされた。

 同時に彼も無視された形で、ほっと息をついた。

あわや窒息寸前と言ったところだったのだ。肉体的にでは無く、精神的に。

置き去りにされた男はと言えば、差し出した名刺をそのままにあっけにとられたように固まっていた。

今までそんなあしらいを受けた事など無かったのだろう。

 すでに姿を消した彼女の去った方向を見やりながら、何故この大都会の中で彼女に再び出会ってしまったのかと、何か運命的なものを感じていた。


 「リンちゃん凄い、これで3人目よ。でも本当に素敵。

これ全部手縫いだなんて、一昨日は布のままだったわよね。

縫うのならミシンくらい貸してあげたのに。リンちゃんにこんな特技があったなんて知らなかったわ」

駅前で落ち合ったレイコはいささか興奮気味に言った。

二人で歩き出すと度々名刺を差し出して嬉しそうに親しげに話しかける男や女が居たのだ。

彼等は全て完全無視と言うリンの態度であっさり撃退された。

 一旦家に帰ったレイコだったが帰ったまんまになる気はさらさら無かったようで、次の日には新しい荷物を持ってやって来て消毒だ、殺虫剤だ、ゴキブリ〇〇〇〇だと大騒ぎした上に電気屋を呼んで窓用エアコンまで入れさせた。

そのあげくに忘れ物をしたと言って家に帰って行ったのだがリンに渡してある携帯に電話をして来て駅前で待ち合わせる事になったのだ。


 年頃の娘がこれほど家を空けて好き勝手な事をしているのを、よく親が許しているものだと、リンは不思議がるが、レイコにはその訳が判っていた。

レイコには歳の離れた姉が一人居るのだが跡継ぎとして、娘として、大変厳しく大切に育てられたあげく、そんな窮屈な生活に反発してとんでもない男に引っかかり自殺未遂騒ぎまで起こしたのだ。

今は結婚し平凡な奥様になっているが、両親はそのことですっかり懲り、臆病になっているのかレイコには反動のようにやたらと甘く自由にさせていたのだ。

 もっとも、レイコの交友関係には目を光らせていてリンこと鈴香の事はとっくに調査済みで同性の友達と遊んでいる分には安心していた。

それどころか鈴香が真面目な学生でその影響でレイコが勉強熱心になって高校時代の様に遊び歩く事もとっかえひっかえ男遊びをする事も無くなった事を感謝すらしていた。


 「でも、ごめんね。

折角ショッピングバザールの最終日だから一緒に買い物したかったのに、まさか4時閉店だなんて思わなかったの。

おまけに一本電車に遅れちゃって、結局リンちゃんにお迎えに来てもらったような物になっちゃったわ。

ごめん、ずいぶん待ったでしょう?」

 「問題無い。駅前のゲームセンターで見物していた」

「見物していたって、やらなきゃゲームなんて面白くもなんともないでしょう?」

「いや、結構面白かった。あれで金が貰えるなんて信じられないほど簡単なゲームだ」

「ああ、パチンコ屋さんの方へ行ってたのね。

でも、思うほど簡単じゃないのよ。

私も何度か行った事があるけれど、一度だって勝てた事が無いのよ。

興味があるなら時間もあるし行ってみる?」


 リンはちょっと考えたが頷いた。

あの時の男が彼を見ていた事に気付いていた。

だが、件の男が彼を酷く恐れている事にも気付いていたのだ。

あの男が同じ所に居る事はあるまい。


 アーケード街から駅前の方に戻りバスターミナルを抜けて大通りを渡ると大きなゲームセンターがある。

パチンコ屋に入るとレイコがコインを買って来て二人で始めた。

30分持たずに二人で3千円分買ったコインのレイコの取り分を使い果たし少し離れた場所でやっていたリンを振り返ったレイコは唖然とした。

 「レイコひと箱持って行って良いぞ」

リンが振り返りもせずに足元にもう2箱も積み上げられた大箱を指さした。

「リンちゃんたら初めてじゃ無かったの?」

レイコは自分がやっても玉の無駄遣いなので自分の方は切り上げてリンの横に座った。

 見ている間にもどんどんとスロットを揃えて玉を出して行く。

従業員が大箱を抱え走り寄って来る。

「ここはさっき見ていた台だから出方が判る。スロットだけならもっと良く判るんだがな」

リンは事も無げに言った。

結局一時間足らずで5万円の儲けになっていた。

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