思い
「わたしね、アルスと結婚するの。
アルスは私がこちらに来てからずっと一緒に居てくれたの。
とても、情熱的にプロポーズしてくれたのよ。
私、人からあんなに思われた事なんて無かったわ。
私、何だってあの男に恋しているなんて勘違いをしていたんだろうと思ったの。
だって、全然違うのよ。
私に愛を囁きながら、目がひどく冷静で冷たかったって今になって気付いたの。
凄く計算高くって、このセリフを言えば次はこれ、こう返されたらこう、なんていつも計算して、お芝居をしているように話していたわ。
それに、大好きなお友達の麗子ちゃんの事を不信感を誘う様に持って行こうとしていたの。
本当に私ってバカな子だったわ。
今頃になって気付くなんて・・・。
アルスはまだ15歳なんだって。
私はあちらでは二十歳は越えていたし、年上なんだけど、精神年齢が高いのか全然年下って感じじゃ無いのよ。
このリーン様から貰った体はアルスより一日だけ年下なんですって。
だから、とても嬉しいわ。
もうじき16歳の誕生日が来るの。
初陣も済ませて、もう成人と認められているからすぐにでも結婚したいけど、16になってから結婚しようって言われているわ」
鈴香は目をキラキラさせて微笑んだ。
「不安は無いの?見も知らない異世界の様な物よ?」
「大丈夫よ。
私ね、学校を卒業しても一人暮らしをする気だったの。
実家はあまり帰りたい所じゃ無かったし。
あの家は、お父さんとお義母さんと、弟の家だから。
何一つ懐かしい思い出の物なんて残っていないから。
一度ね、こっそり休みに実家の近くに行った事があったのよ。
玄関の表札には弟の名前はあったけど、私の名前は無かったの。
それに、私の部屋だった南側の部屋は弟の物になっていたわ。
リフォームしたみたいで壁の色も変わっていたし、カーテンも変わっていて、私の痕跡なんて何も残っていなかったわ。
だから、アルスが私の新しい家族になってくれるって聞いてとても嬉しかった。
アルスのお母様はねとても優しい方なのよ。
娘が欲しかったって言ってくださったわ。
あのね。リーン様はアルスの乳兄弟で、亡くなったリーン様のお母様の代わりに乳母をなさったのですって。
麗子ちゃんも寂しくないでしょ?
リーン様がこれからは傍に居てくださるわ」
「鈴香、ここは一万年も未来だって言ってたわよね」
「ええそうよ。文明はあらかた大拡散の辺りで滅びたそうだけど。世界は砂漠や荒れ地に変わり、殆どの都市は消えてしまったそうよ。
大拡散で人口も激減していたそうだから。
クリスタルシティーのように人がちゃんと残っていた都市はわずかながら残ったらしいけど。
惑星自体が無くなってしまいそうなほど大量の資源を持ち出された地球はボロボロでスカスカになっていたんですって。
それを立て直すために小惑星体や他の星から資源が運び込まれて修復されたんだってクリスタルの姫様に聞いたわ。
その後の大帰還で戻って来た人は大拡散の頃からみると十分の一程度だったらしいけれど、帰還者達はやっと立ち直ったとはいえまだまだ荒れ果てた地球に残った僅かの都市を欲して奪い取ろうする者が多かったって。
それで、僅かな都市もかなり滅びてしまって、残ったのは数えるほどの隠された形で作られた都市だけだったそうなの。
クリスタルシティーもその頃住人が立ち退いて砂漠の中に埋もれていたんですって」
鈴香は随分とこの世界の歴史に着いて勉強したようだ。
「でも、映像で見せてもらったけれど、ジャングルだってあるし動物たちだっていっぱいいたわ。
野生動物が、あまりに私の知っている物と代わって無くて驚いたくらいよ。
世界が滅びかけたのなら動物はどうしたのかしら?」
「遺伝子として保存されたのよ。
私、感動したわ。
遺伝子協会って覚えている?
麗子ちゃんが後援してたんでしょ?」
「世界遺伝子協会ならそうね。嫁の鈴が主催していたわ」
「・・・・あ、そうか麗子ちゃんにとってはとても長い時が経ったのよね。
鈴って言われて自分の事かとビックリしたわ。
今はスズって呼ばれているの。
麗子ちゃん私ね、こちらに来てから二ヶ月くらいしか経ってないの。
リーン様が戻って来られて一月くらいよ。
だから、私達にとって麗子ちゃんと別れてそれほどの時間が経っていないの。
記憶も鮮明だしその時の感情をそのまま持っているって言っても良いわ。
麗子ちゃんはまだリーン様の事好き?
長い年月の内に忘れちゃったりしてない?」




