再会
この回あたりでエピローグになるはずだったのに、おかしいな~?
ほんの少し転寝したつもりだった。
もう十分話したつもりだったけど、愛しい鈴ともう少し話しても良いなと思っていた。
麗子の容態も安定していて、今日明日と言う事は無かったので鈴の主催しているNGOの仕事で重要な会見が有った鈴をアメリカにやったのは麗子自身だったのだから。
鈴を始めて見た時、晩年のリンとあまりにそっくりな容姿に驚いた。
これはもう、娘にするしかないとさえ思い詰めた。
伝手を頼って鈴と出会った時、その魂の在り様さえそっくりだと思った。
彼女が息子の保と結婚してくれて、娘になってくれた時。どれほど嬉しかったか。
実は母親がとっくに亡くなっていて実業家の父親一人の手で育てられたと知った時、自分がその父親の後妻に納まって合法的に鈴を娘にする手も考えたのだけれど、スマートでハンサムな父親の写真を見た途端、ゾッと総毛立ってしまい、生理的に受け付けなかったのだ。
その名前を見て、やっと判った。
緑川幸麿。あのテロリストの名前だったのだから。
あの誘拐事件の時、監禁場所として連れて行かれた廃墟で、リンが看破したテロリストの本名を麗子は忘れていなかった。
顔は全く違うが、間違いなく彼だと思った。
調べさせたその経歴に一点の曇りも無いと言うのに。
リンに執着していた彼ならばリンにそっくりな女性を探して似た娘を得るかも知れないとは思ったけれど、そうではない気がした。
彼が執着したのは顔や外見では有り得なかったのだから。
そして、娘になってくれた鈴の口から彼女がまぎれも無くリンの娘だと知った時の喜び。
まったく驚きは無かった。
あのテロリストならばどうにかしてリンの遺伝子を盗み出す事くらいやりそうだと思っていたのだ。
しかも、もう一人居るのだと知らされた。
その後、もう一人の香と名付けられた娘に会えた時、嬉しさに鈴と同じように抱きしめてしまった。
香ちゃんには数日前に会ったっけ、と思い出す。
強い予知能力を持つ彼女に死の日時を教えられたのだ。
その時の泣きそうな香の顔。
同時に、死んで後に必ず愛する人に巡り合えるのだと確約された。
だからこそ、死は少しも恐ろしい物では無かったのだ。
先に旅立ったリンに会えるのだから。
ああ、私は死んだのだと、その時になってやっと気付いた。
フワフワと頼りない気分。
何度も夢を見たような気がするが、そのどれも掴もうとすると手の隙間をスルリスルリとすり抜けてどこかに行ってしまう。
けれど、やがてフラッシュのように様々なシーンが脳裏に浮かぶ。
とても、不思議な光景。
大昔に戻ったような家や人々の姿。
ううん、違う。
これはファンタジーの世界?
ふと目が覚める。
目が覚めた?
私、死んだのでは無かったの?
夢の続きかしら?
目の前に黒い服を着た美しい人が居る。
「レイコ・・・」その人が私の名前を呼ぶ。
まあ、どれ程振りかしら、私を名前で呼んでくれた人は。
最後はお父様かしら。
うん?何かとても懐かしい呼ばれ方だった気がする。
「レイコ、記憶は戻った?」
え?これって、日本語じゃ無いわ?夢の中で語られていた言葉?
「あなたは・・・・?」
ようやく言葉を発したけれど声はかすれ酷く発音しにくかった。
外国語を初めて喋るかの様に。
『日本語の方が良い?
レイコはずっと声を発する事がめったと無い環境に居たから発音しにくいかも知れない。
でも、声帯が未発達と言う訳では無いからすぐに喋れるようになるよ』
声は違うけれど、その喋り方に覚えがあった。
『リン・・・ちゃん?』
そんなはずは無いのに。
似ても似つかぬ美貌の男性なのに。
そう、男性。
なのに、そう思った。
彼は絶世の美貌に鮮やかな笑みを浮かべた。
『そうだよ、レイコ。私の世界にようこそ。今度は私が道案内をするよ』
レイコはギュッと抱きしめられた。




