誘拐4
『レイコを玩ぶ相談をしていたな』
感情の全く読み取れない目をした少女が凍りつくような声で言った。
縛られ転がされている男達はギクリと硬直する。
どうせ分かるまいと母国語で喋っていたのだが、同国人と変わらない発音で少女は喋る。
カタカタとどうしようもなく体が震えた。
全身が、捕食者の前に無抵抗で晒される恐怖を訴えかけている。
此処までの道中、確かに少女は普通の少女でしかなかった。
それが一瞬にして変わった。
か弱い生まれたての仔猫だと思っていたらとんでもない怪物に化けたような。
確かに少女は虫を操ったと、彼らは考えた。
超能力者か、この少女は!
そんな事何も聞いてなかったぞ、と。
それに、雇っている原住民が何の抵抗もしなかった。
少女が彼らを叩きのめすのをただ見ているだけ。
いや、それどころか一人は少女に平伏し、残りは何となく怯えている。
一番近くの村だから、彼らを雇った訳では無い。
ジャングルに詳しく、どんな野獣にも怯える事無く戦いを挑む事を知っているのだ。
【名無しの村】と他の村から呼ばれている特別な村だった。
この辺りで唯一政府の手が付けられていない幻の村。
村長を中心に男達のすべてが戦士。
彼等と渉りをつけるのはとても大変だったと言う。
だから雑用をさせるのもけして彼らの誇りを傷つけないようにと幹部たちから警告されていた。
実際、襲って来た野獣を彼らが何度もあっさりと退けるのも見ていた。
そんな彼らが平伏し、怯えている。
ぐい、と一人の男の襟首を掴んで少女は男を引き起こす。
ほっそりとしたしなやかな腕が100キロ近くある男をあっさりと吊し上げる。
嘘だ、そんなはずは無いと彼らは震えあがった。
こんな事が出来るはずが無いと。
『ここはどこだ?外部とどうやって連絡を取っている?』
『アマゾンだ・・・、だが何処かは知らない、本当だ!
下っ端なんだ、捕虜を監視するだけの役目だから何も教えられて無い!
虫が多くて湿気が酷いから幹部は来ないんだよ!』
男はペラペラと喋った。
誤魔化そうなんて欠片も思っては居ない。
これまでにも何人も監禁して来た。
その犠牲者たちを玩ぶのも彼らの自由だった。
今回の犠牲者がうら若い二人の娘だと知って彼らは志願さえして今度の任務に就いたのだが、こんな化け物だったなんて・・・。
『連絡用の無線機が無いなんて言わせないよ』
少女は男を掴んだ腕を動かすだけで男を振り回し、壁に叩きつけた。
「リンちゃん・・・」
もう一人の娘が小さく悲鳴を上げて少女を呼んだ。
「大丈夫、殺したりはしないから。
レイコを二人掛かりで乱暴しようとしていたんだ。
お仕置きしなくちゃ」
やっている事の過酷さが嘘のように穏やかな声で答えた。
『嘘を吐けばどうなるかは判っていような?
荒事はお前たちの専売特許と言う訳じゃ無いんだから』
少女の唇がキュッと笑みの形を作ったが、その恐ろしさに男達は震えあがった。
『通信は固定されてるんです。
本部のサテライトにしか通じないようになってて・・・、足が付かないように・・・。
補給の連絡も指令もそこから来るんです。
【名無しの村】の村長の家にも同じ形式のがあって、今回みたいな時に迎えに来させたりするんです。
改造は無理です。
分解して手を加えようとするのは勿論、暗証番号無しで通信しようとしても爆発します』
大の男が泣きながら説明した。
男達の寝室の少し小奇麗な場所の隣に倉庫兼通信室があった。
だが、外部への連絡は難しいようだ。
『それで?到着の連絡はしないのか?』
『こ、こっちからはしません。無駄な通信は場所を特定されるからしない事になってるんです』
リンは付いて来た入れ墨男の方を見た。
入れ墨男はコクコクと頷く。
言葉は通じないが彼にはリンの聞きたい事が手に取るように判った。
そして、縛られて尋問されている男が嘘をついて無い事も判っていた。
それが、彼の能力の一つなのだから。




