誘拐2
昨夜、予約を入れ忘れました~。
最後の実行ボタンを押し忘れて~~~。
車に乗せられ船に乗せられ、それから何度か小型の飛行機に乗せられて、最後の飛行機が大きな川に着水した時には2日が経っていた。
レイコの事が無ければあっさりと捕えられたりはしなかったのだが、レイコを盾に取られては仕方が無い。
レイコが父親に呼ばれて僅かに傍を離れた隙を突かれた。
リンも連れて行かれたのはレイコの世話をさせる心算だったのだろう。
レイコと再び巡り合えたのは船に乗せられてからだった。
レイコは意識が無く眠っていたが体に傷は無く、間もなく目覚めたが意識は朦朧としたままだった。
誘拐犯は習慣性のある薬物では無いし、命に別状も無いと言ったのだが、もしもの事があれば皆殺しだけでは済ませないと密かに思う。
朦朧としたままだったが幾らかは周りの事を認識しているらしく、リンが傍に居る事だけで騒いだり泣いたりする事無く落ち着いていた。
ちゃんと物を食べ、リンの介助が必要だがトイレに行ったり体を洗う事も出来た。
それが体力低下を防ぎ、川に降りた後、小舟で半日、ジャングルの中を半日の強行軍に耐えられたのだ。
その頃にはレイコの意識もはっきりして来て、リンに縋ってじっとしていたが怯えて泣き叫ぶ事も無く、静かにしていた。
そんなレイコのリンに対する依存がリンを一緒に連れて行くと言う誘拐犯の選択に繋がったのだろう。
小娘二人、逃げても遠くには行けないだろうと言う考えからか、縛られてもいなければ銃を突きつけられても居ない。
リンが川縁の灌木の小枝を折って振り回し始めてもギャアギャアと甲高い声が時折聞こえるジャングルに怯えているのだろうと咎められもしなかった。
だが、小舟を下りた所で出迎えた顔中に入れ墨を入れた原住民らしい男はそうでは無かった。
最初にリンを見た時ギクリと硬直し、それから酷く怖がっている様子でチラチラとリンの方を伺っていた彼はリンが振り回す小枝がレイコと自分に向かって来る毒虫を確実に捕え叩き潰しているのを見ていた。
原住民の男の村は何十年も前に作られ、今は放棄されている廃墟に数年前にやって来た男達と交流があった。
彼等は部族の族長に贈り物をし、道案内や下働きに彼らを雇った。
その対価としてジャングル暮らしでは手に入らない色々な物を与えた。
彼等が廃墟で何をしているのか知らないし、興味も無い。
ただ、前に何回か今回の女の子達と同じようにジャングルには不似合いな出で立ちの人間を連れて来た事がある。
文明とは隔絶した暮らしをしている彼等には犯罪と言う認識は無いが、それでも男達が何か悪い事をしているのだろうとは思っていた。
顔に入れ墨を入れるのは彼らの村の男の風習だが、全面に入れているのはシャーマンの証だ。
村ではある意味村長よりも力を持ち尊敬もされている。
そんな彼が村から出て普通の下働きの様な事をしているのは、師匠に言われたからだった。
「とてつもない太陽が近づいている。奴らは手を出してはならない物に手を出したようだ。
お前は戦士たちに混じり、奴らの様子を見て来い。
なに、お前がシャーマンだなどと気付かれるものか。
我らの入れ墨を読み解ける者は部族の者しかおらぬよ」
師匠の大シャーマンは彼に言った。
そして、彼は太陽に出会った。
けして、星でも月でも無い。
凶暴なまでの力に溢れた恐ろしい太陽に。
目が潰れるかと思った。
身体の硬直はかろうじて解いたが、それでも震えが止まらなかった。
傍に居る別の少女がその太陽を抑えてくれている。
けれど、それが消えようものなら太陽は奴らも彼等も焼き尽くすだろう。
その未来がありありと判った。




