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鈴香の大量の本を整理して自室の本棚に並べて行くと、一冊の題名の無い本が出て来る。
それは印刷された本では無く鈴香の日記だと、文字が読めるようになってすぐに気付いていたが、他人のプライバシーを暴く趣味は無いし、興味も無かったので手つかずだった。
だが、そろそろ鈴香の内面の事では無く、その周辺の事に付いて知りたかったのでそれを開いた。
パチンッと彼の意識が弾かれたような衝撃を感じ、そのまま倒れてしまう。
ベッドの上に座っていたのでたいした音も立てずにリンの身体は横たわった。
体から意識だけが弾き飛ばされたような気がしてリンが周囲を見回せば、そこは何も無い空間だった。
『すまぬ』
声を掛けられリンは振り返る。
物凄く驚いていた。
何の気配も感じなかったからだ。
『すまぬ』
そこに居た黒髪の女性はリンに再び謝った。
『私がリーンを体から弾き飛ばしてスズと入れ替えてしまった』
「あなたはどなたなのですか?」
あきらかに同族の顔をした女性だった。
『アースルの妻ニーケだ』
名を聞いて慌てて跪こうとしてリンは自分の身体が無い事に気付いた。
戦神アースルの奥方様が嘗ての同族であった事は聞いている。
そして、彼の師匠であるニール様の最初のお子である事も。
『ちょうど変化の時期だった。方向をかなり制御できていた筈なのだがたった一度失敗してしまった。
けれど、夫に言わせればそれは運命なのだとか。
すまぬ、リーンを戻してはやれない。
リーンはそこでやるべき事があるのだそうだ。
リーンの居るその場所は我らの世界の遥かなる過去。
我が一族は生まれていないし、戦神アースルでさえ生まれてはいない。
けれど、その世界には祖なる者たちが居る。
唯の一人も失われてはならない者たちだ。
そして、白川鈴香もまた、大切な祖なる者たちの一人なのだ。
彼女の日記が我らを繋ぐ道となってくれた。
こちらに居るスズとそちらのリーン、体を交感したとは言え、そのままでは繋がりは切れたままだったが、リーンがスズの日記を見ようとしてくれたおかげで繫がった』
「鈴香は無事なのですか?」
『勿論無事だ。直後にアースル様が駆けつけて保護した。
もっともこちらではそう時間は経ってはおらぬ。
国に居ては何かと不自由であろうと、クリスタル城に来てもらっている』
クリスタル城は師匠ニール様の奥方様、クリスタルの姫がかつて住んでいらしたと言うお城と言うより都市で、砂漠の真ん中に建っているそうだが、今はアースル神様と奥方ニーケ様の住まいとなっている場所だ。
「鈴香は大丈夫なのでしょうか?レイコの話から推察するとか弱い女性の様ですから、かなりのショックだったのではないでしょうか。まして、男の身体では慣れますまいに」
『帰れぬことより鈴香の心配か。
そなたの魂は女の体に有っても一族の男なのだな。
我ら一族の身体は魂の在り様によって変化する。
かつて戦士であった私がアースル神を愛するが故に女となったように。
一族に男が多く生まれるのはその魂の在り様に体が合わせるからだと知っていたか?
ゆえに、鈴香の宿る身体はそのように変化した』
元の自分の身体が女になったと聞いてもさしてショックでは無かった。
帰れないと聞いた時にはさすがにショックはあったが、それよりも役目を与えられる事の嬉しさの方がはるかに勝っていた。
「お役目をお与えください。私は何をすべきなのでしょうか?」
「まず、レイコを守るが良い。
レイコは遥かな時の彼方で【箱舟の姫】を産む者の祖を庇護する役割を持つ者だ。
【箱舟の姫】の祖である者のいくたりかが、リーンの居る国に居る。
その一番重要な人物は・・・』




