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trip change  作者: tamap
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ハイジャック

 誰かが急ぎ足で閉ざされたカーテンの向こうをエコノミークラスからビジネスクラスの方向へ通り過ぎて行く。

すっと無造作にカーテンの隙間からリンの手が突き出され、一人の男を引きずり込んだ。

あっという間に男は当て落とされ床に転がっていた。

「縛って猿轡を噛ませておけおけ」

当分目を覚まさないように頭を蹴飛ばしながらリンは言った。


 訳が分からなかった桑原は大声を上げかけて、床に転がる男の手に持つ物に気付いた。

「ハイジャック・・・・」

 「おい、何をして・・・」

ビジネスクラスの方からやって来た男が次に引きずり込まれ前の男の後を追った。

「ファーストクラスから一人降りて来ます」村上が囁き声で言った。「ファーストクラスは2人だった様です。すみません、眠っていた様です」

「そいつは強敵かも知れぬな。ハイジャック犯が呑気に寝ているなんて」リンは笑った。

 リンが笑うたびに村上は失禁しそうなくらい怖いと思うのに同時にぐいぐい惹きつけられる自分を感じていた。


 「ファーストクラスの乗客は全員制圧されたようです。

エコノミークラスの乗客は気付いても居ません。あ、でもビジネスクラスの乗客が・・・」と、村上。

「レイコ・・・」リンは呟いた。「ここから出ずに見張っていろ」

と、言い置いて飛び出して行く。


 ビジネスクラスはざわついていた。何か変だと気付いた目敏い乗客が居たらしい。

「リンちゃん、トイレ?」目が覚めたばかりらしいレイコがのんびりと何も気付いて無い様子で言った。

「何かあったの?」リンは尋ねた。

「わかんないの。誰かが星の位置がおかしいって騒いでいるの。

東に向かっている筈なのに星が逆に見えるって」

「じゃあ引返しているんじゃないの?何かトラブルがあって」

リンは平然とした口調で言った。

「えーーーー!こんな所まで来て?」

「出発して一時間も経ってないもの。直行便で10時間くらいかかるのなら引返した方が早い」


 その時機内アナウンスがあった。

「乗客の皆様にお知らせいたします。当機はハイジャックされました。ただいま西方に進路を変え飛行中です」


 ファーストクラスの席から降りて来た犯人の一人がビジネスクラスの乗客を威嚇し、スチュワーデスに命じて皆の携帯電話等を集めさせる。

 どうやって持ち込んだのか判らないがその犯人は銃を持っていた。

リンが倒した2人は小さなナイフしか持っていなかったので銃の数はそう多くは無いようだった。

ビジネスクラスの犯人たちはどうやら操縦席に行ったらしく、ここにはその男1人っきりだった。

一緒にビジネスクラスを制圧する予定だった仲間がやって来ないのが不審で苛立っている。

だが、エコノミークラスの乗客の方が絶対的に人数が多いので怪しむ様子はまだ無い。


 レイコはリンにしがみつき、ただ涙を流していた。

運悪く前の席なので犯人に近い。レイコはこんな時大騒ぎするタイプだと思っていたのでリンには意外だった。

犯人はか弱い2人の女の子など歯牙にもかけぬ様子で泰然と構えている。

リンはいつだってこんな男の1人や2人倒す事は出来たのだが、ファーストクラスから降りてくる犯人の一人が気になっていた。


 微かな罵り声が聞こえて来た時、リンは心の中で舌打ちをした。

村上と桑原がドジを踏んだようだ。

「ナンちゃんよお、ちと不注意だぜぇ。

仲間の2人がやっつけられておネンネしちゃってる事にきづかないなんてさぁ」

銃を突き付けられ、両手を上げてその男の前を歩かされてきた2人の男を見て、レイコは息を飲んだ。

「桑原・・・!」

「へぇ、お嬢ちゃん達お知り合い?じゃあ、こっちに来てもらわなくっちゃあ」

ごく普通の中肉中背で糸のように細い目をした一見人の良さそうな男はニコニコしながら言った。

 「よせっ!お嬢様は何も・・・」

桑原は銃の握りで首の辺りを殴られ、声も無く蹲った。

「桑原!」

レイコは悲鳴のように叫んで立ち上がった。

「へぇぉ、君はお嬢様なの。じゃあ、君はお付きの女の子かな」

のんびりした口をきくその男が人の良い外見を裏切ってもっとも危険な男だとリンは一目で見抜いていた。

糸のような目は一度も笑ってはいなかったし、のそのそとした動きをしながら欠片の隙も無かった。

桑原も村上もプロだけあってそれが判っているのだろう。


 「東、南、何事だ」

コクピットの方向から男がやって来た。

「見た通りですよ、ペーさん」糸目の男はニコニコしながら言った。

「こいつらに、シャー君2号と3号がやられちゃいましてねぇ。ありゃあ当分起きそうに無いからうっちゃっときましたけど」

「なに!」男は凄まじい顔で桑原と村上を見た。

「まあまあ、ペーさん。別に痛めつけられたわけじゃなし、あっさり気絶させられてふん縛られていただけなんですから」

「殺せ、見せしめだ」男は冷たく言った。


 ヒィ、とレイコは悲鳴を上げリンにしがみついた。

「やだな、ペーさんたら。女の子怖がらせちゃって」糸目の男はおちゃらけた口調で言う。

男は嫌な顔をして糸目の男を見たが、すぐに表情の乏しいトカゲめいた目付きになると2人の娘を見た。

「なんだ、この娘共は」

「いやあ、そっちの男共のお嬢様だって。それで、連帯責任を取ってもらおうと思ってさぁ」

糸目の男はクスクスと笑った。

その病的な響きにレイコは気絶しかけ、仲間の男たちでさえ嫌な顔をした。

「でね、でね、トンちゃん汚れちゃうの嫌だしさ、この娘たちにやってもらおうと思って。

どう、良い考えでしょ」

だんだん口調が子供っぽくなって行くのに言う事は恐ろしく冷酷になって行く。

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