#1
「汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気づき
汚れつちまつた悲しみに
なすところもなく日は暮れる……。」
秋の葉がいつそう紅くなります頃に、
私はふらりと公園に入ったのでございます。
忙しい世の中に疲れた私は、一層の休暇を求めていました。
同年のあまりの自己中心的な様に、身体共に嫌気がさして参りました。
マンネリズムなのでございます。
奴らは幼稚園児とさほど変わらず、人にどう評価されるか、どれだけ自が他に優越してるかしか気にしていない、自分のためならば平気で他人を蹴落とす連中でございます。
私はもう、かまわないのです。
どうかそっとしておいて下さい。
下手なイジリはもう結構でございます。
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私がベンチで詩集を広げておりますと、
足元から可愛らしい声が、
猫でありました。
毛は黒く、体を私の脚に擦りつけています。
すると、
鳴き声と共にズボンを頼りに上がって参りました。
上がっていく度に鋭い爪が私の体に突き刺さります。
私はたまらずに両手で猫の体を掴み持ち上げました。
初めて顔をまじまじと観察できました。
碧色の眼をしていて、瞳は針のように鋭く、真っ直ぐに私を見つめていました。
両手からは猫のそのか細い体が感じられました。
少しばかり痩せているようです。
とくとくと心臓が動いておられます。
少しばかり、暖かい。
私の両手は、その時は確かに、その猫の命を感じていました。
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猫をとおくに放って、私はまた詩集を広げ、己の世界に入っていました。
ベンチに横になります。
本の脇からは、頭上の紅葉と紅い空が覗けます。
「私は希望を唇に噛みつぶして
私はギロギロする目で諦めてゐた……
嗚呼、生きてゐた、私は生きてゐた!」
私が数ページ読み進めますと、
甘い鳴き声を飛ばしながら、
またやってきました。
今度は横になっている私の腹の上に飛び込んで、丸く収まっていました。
私は構わず詠み続けました。
しばらくすると、腹に感じられる呼吸が一定になって参りました。
ふと目をやると、私の思うように寝ているのであります。
構わず詠み続けました。
そのうち、私もうとうとするようになり、耐えきれず本を顔の上に被せて寝てしまいました。
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私は5時のチャイムで目を覚ましました。
猫もそれに驚いて、私の腹から転げ落ちました。
私は顔から落ちた詩集を拾って帰る支度をいたします。
門を出る際にふと振り返りますと、
猫がご丁寧にお出迎えしています。
「ずいぶん気持ちが良かったから、また来るかも知れない。」と私が申しますと、
猫は返事をいたしました。
その猫も背景の公園も、皆等しく夕日で紅く染められておりました。
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多分次回から展開が急激に変わるので、
気をつけて下さい。
それでは。
※注意※(11月28日)
この本文の冒頭と途中の詩は中原中也氏の書いた「汚れつちまつた悲しみに……」と
「少年時」の一部がありますが、
私は他著者の作品を一部載せている作品を読んでほんの出来心でやってみただけです。
このサイトではこのような行為は可能なのか私は確認しないでやってしまいました。後で調べます。
もし引っ掛かったらこの小説を途中で打ち切る事もあるかも知れません。
ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。