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そんなやりとりを見てた詩音が突然目に涙を浮かべて、俺と麻紀の手を握ると、
「あたし感動した!愛や!まさに愛や!」
何を言うてんねん。全然意味がわからへん・・・。
「あたしのお祖父ちゃん昔から、感動を忘れるな!感激を忘れるな!そして、感謝を忘れるな!って口癖のように言うてたんや!せやからあたしも常に感動感激感謝を忘れへんねん。人はあたしの事を三感詩音って呼んでるくらいや!」
三感詩音?四字熟語みたいなあだ名やな。
「ちょっとアンタ達!そんなくだらないやり取りはどうでもいいわ!それよりさっさと病院に戻るわよ!高台を降って集落を抜けないといけないから大変なのよ。時間も時間だし急がないとアタイ明日は早番なのよ!眠れなくなるじゃない!」
あの集落を抜けるって暗くてはっきり見えへんけど、結構距離ありそうや。まさに瞬間移動・・・。あかん、考えるだけ無駄や。深く考えんのは止めて、取り敢えず今は病院に戻る事に専念しよ。夢やったらいつか覚めるやろ。
コガッチを先頭に俺たち七人は足元に注意しながら順から借りたライトを頼りに先を急いだ。下り坂は思った以上に急勾配で、油断したら滑り落ちそうや。俺が麻紀を、順が詩音を、心が沙織をそれぞれサポートしながら、慎重に進んだ。
やがて、下りは終わりコガッチ曰く集落の入り口についた。集落っちゅうから、なんとなく古い住居が点在してて畑なんかがあるイメージやってんけど、ライトで照らし出した辺りは今風の家が建ち並び、それぞれの家には綺麗な車・・・と言っても暗いからはっきりとは見えへんけど、多分どれもそこそこ新しい車が車庫に収まってるんが見えた。
「なんや、新興住宅地みたいやな。」
心が呟いた。
「元々は高齢者ばかりで住宅なんかも古い建物ばかりだったのよ。所がここから少し離れた場所に日本最大の複合レジャー施設が去年オープンし、それに合わせてこの辺り一体も再開発が進められたの。まだ、奥の方は昔ながらの建物も点在してるけど、いずれは全て取り壊されて建て替えられるそうよ。もっともそれらに反対する住民も多数いて、今も話し合いが持たれているみたい。ウチの患者さんにも反対している人がいるんだけど、話し合いの翌日に事故に逢い、大怪我をしてウチの病院に担ぎ込まれたの。一時は意識不明の重体で、危なかったわ。そんな患者さんが何人もいるから、良くない噂も立ってるのよ。」
「開発陣営の仕業っちゅう、よくドラマであるパターンやな。まさか、実際にもそんな事あるんやな。せやけど、普通立て続けにそんな事起こったら、警察も不審に思って捜査するんちゃうの?」
「それが、色々と圧力もあるみたいで、迂闊に警察も手が出せないそうよ。まあ、あくまでも噂よ。噂。とにかくここから真っ直ぐ集落を抜けるからついてきて頂戴!」
心とコガッチのやり取りが終わると再びコガッチを先頭に歩き出した。それにしても恐ろしい話や・・・。
綺麗で今風な住宅街を抜けると、更に漆黒の闇に包まれた。新興住宅地の方には街灯もあり道も舗装されてて歩きやすかったし、住宅自体にも各家から漏れる灯りや防犯用の外灯なんかもあって、結構明るかったのに・・・。
それに、周囲の匂いも変わったんがわかった。草の匂いっちゅうやろか?田舎に来た!っちゅう独特の匂いや。都会育ちやけど、なんでか懐かしい感じがしてこれはこれでええ感じやねんけど、ちょっと肌寒い・・・。
「そ、それがしの苦手な香りがプンプンする。」
そう言えば、順は昆虫が苦手やったな。幽霊とか全然平気なくせに・・・って、順には幽霊と生身の人間の区別がついてへんねんけどな・・・。
「男のくせに情けないで!虫くらいどこにでもおるやろ?」
そう言う麻紀も虫は苦手や。爬虫類とか平気なんやけどな。
「ここからは足元も悪いから気をつけるのよ!マムシなんかもいるから注意して!まあ、病院に血清はあるから、余程運が悪くない限り死ぬ事は無いと思うけど、噛まれたら地獄の苦しみが待ってると思っておいて頂戴。」
無茶言うな!ただでさえ真っ暗でライトで照らしてる正面数メートルしか見えへんのに、どうやってマムシに注意すんねん!実物は見た事無いけど、たしか結構小さいし茶色っぽいはずや。夜なんか絶対気付かへん。
「それがし、蛇は大丈夫や!それがしの手刀で一刀両断にしてくれる!」
アホは放っといて先を急ぐで。噛まれたら洒落にならん。
「あら?あそこに誰かいるわ。じっとこっちを見てる・・・。」
突然沙織が暗闇を指さして呟いた・・・。こっちを見てる?そんなもん絶対にわからへんやろ・・・どんな目しとんねん!と、思いつつも全員が沙織の指さす方を見る。もし人がおったらさすがにライト向けるのは失礼やと思い、ライトは違う方向を向けたままやったから、はっきり言うて何も見えへん。
「暗くて何も見えへん・・・。気のせいちゃうか?」
詩音が呟く。しかし、沙織は尚も暗闇を凝視したまま、
「間違いなくこっちを見てるわ。それも二人、老夫婦のように見えるけど、ここからだと生身の人間なのか、それとも死者なのかはわからない・・・。ただ、恐ろしいまでの憎悪を感じるわ。」
おいおい・・・憎悪って言われても俺はそこまで人に恨まれるような事した覚えはあらへんで。すると、順がその方向に歩き始めた。
「おい!順!止めとけって・・・。」
心が止めようと声をかける。せやけど、その声には耳も貸さずどんどんと進み、順の姿さえ見えなくなった。
「あかん、行ってもうた。困ったやっちゃなぁ・・・。しゃあないからライト向けよか。」
俺は、あくまでも順を照らそうと順の向かった方向にライトを向けた。すると、順の後ろ姿が照らし出された。更にその先に二つの人影が浮かび上がった。
その二つの人影は視線までは見えへんかったんやけど、確実に俺達の方を見据えてる事だけはわかった。




