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「わかったで!その部屋に入ったら出られる言うてるわ!」
そう言うて、通路の右側の部屋に近付いた。そして部屋に入ろうとドアノブに手を伸ばした瞬間、ほとんど同時に心と沙織が叫んだ。
「そこはあかん!」
「開けちゃ駄目よ!」
二人の剣幕に一瞬躊躇い、ドアノブから手を離す順。その表情は明らかに不快感を示していた。
「なんでや?早くここから出たいんやろ?白衣の天使ちゃんがここから出られる言うてるんや。ノープログレスや!」
プログレスってなんや!それにいつの間に天使になっとんねん!
「他の人達には見えていないようだけど、私には見えるわ。その人は天使なんかじゃないわ。悪意に満ちているの・・・残念だけど。但し、その女性は一連の出来事とは関係なく、ただ単に順君に興味を持っただけのようね。」
「興味?やっぱりそれがしに惚れたんやな!」
あかん、コイツには何を言うても無駄や・・・。
「とにかく、その部屋に入るのだけは止めておくことね。」
一体何の部屋や?俺はそっちの方が気になってコガッチに尋ねた。
「なあ、コガッチ。その部屋って何があるんや?」
「エレベーターよりこっち側は今は使って無いけど、元々このフロアは全て霊安室。こっち側と向こう側それぞれに四室ずつあるわ。造りはどれも同じよ。ご遺体を安置する棺とそれを支える台座。簡易の祭壇。後は、椅子なんかがあるだけよ。葬儀屋さんに引き継いでもらうまでだから、それ以上の物は無いの。」
そらそうや。けど、なんでそんな場所から脱出出来るなんて順に教えたんや?まあ、順の妄想かもしれへんけど・・・。普通はダクトから脱出するとか、もっともらしい事を教えるやろ。
「霊安室にも脱出出来そうな換気口とかあるん?」
「換気扇は各部屋についているわ。ただ、人が通れるかどうかは微妙ね。換気扇を分解すれば、もちろん人一人くらいは通れるだろうけど、脚立を準備したり、工具も必要だわ。それなら、そこから脱出する方が簡単ね。」
俺もそう思う。せやけど、心はどっちもあかんっちゅうんや・・・。ほな、一体どうしたらええんや・・・。
「なあ、心。その部屋はともかく、ダクトから脱出するんもあかんのやったら、他にええ方法でもあるんか?」
「残念ながら無いわ。」
「あっさり言うな!なんかせえへんかったら、このまま餓死してまうで。心の推測やと、警備員の巡回も無いんやろ?」
「展開的にはそうなるなぁ。」
あかん。このやりとりは無駄や。心のストーリーではバッドエンドや。それに加えて沙織のオカルト信仰・・・。順は何か見えてるみたいやし、ここはオカルトには一番無縁そうな詩音に聞いてみるか・・・。
「詩音はどう思う?」
「どう思うって?皆の言うてる意味が理解出来へんわ!さっさとダクトから脱出したらええんちゃうの?あたしには何も見えへんし、呪いとかありえへんし。」
そや。その通りや。それが普通の考えや!何も難しく考える事あらへん。
「ちょっと太一!なんでウチには聞かへんの?ありえへんし!」
「麻紀の考えはわかってるっちゅうねん!ほとんど詩音と同じやろ?」
「まあ、同じや・・・。って、それでも聞かんかいっ!」
麻紀と詩音はこういう状況下では同じ様な考えやろ。で、心と沙織は根本的な考えは全然違うねんけど、結果的には同じや。順は論外やし、後はコガッチや。
山小屋のコガッチはコガッチのじいちゃん・・・ややこしいけど別人なんや。見た目も喋り方もそっくりやけどな。
「コガッチ!やっぱダクトしかないやろ!霊安室から脱出出来るとは思わへんし、エレベーターも階段も無理やったら自力で上に行くしか無いわ。」
「そうね。何度か警備員に連絡してるんだけど繋がらないし、待ってても時間の無駄ね。」
ダクトからの脱出に苦言を呈してるんは心だけや。沙織もこの案には特に、異論は無さそうやし、このままここにおってもしゃあない。
「そういう訳やから、せっかくの心の考えやけど、他に方法も無いねん。敢えて危険を承知で、ダクトから脱出するで!」
すると、心は、
「まあ、俺も正直な所それが一番早いと思うねん。そこが逆に引っかかるんやけど、しゃあない。何かあった時の為に細心の注意だけは忘れんようにな!」
俺は心の手前、危険とか言うたけど正直普通に脱出出来ると思うで。むしろ、ちゃんとダクトが外へ続いてる・・・正確には人が外へ出られるまでの通路が確保されてるんかが心配や。
コガッチも通った事は無いみたいやし、換気扇の本体がメンテナンス出来れば問題無い筈やから、果たして外魔で続いてるんやろか・・・。
まあ、続いてへんかったら、その時は引き返せばええこっちゃ。取り敢えず俺達は扉を開けてメンテナンス室へ入る事にした。
中に入ると、さすがに七人やと狭過ぎる。
防音性も考慮したのか、扉を開けると狭い通路の奥に更に扉があった。
奥に進むにつれ、換気扇の音なんやろか、少しずつゴーっちゅう音が大きくなった。エアコンはここには付いてへんけど、地下やしひんやりと冷たい空気が漂ってた。
奥の扉の前までくるとコガッチが大声で、
「病院の構造を考えるとこの先から上に行けるはずよ!奥はもっとうるさいはずだから、会話も聞き辛いはずだから今の内に言いたい事があったら言っといて頂戴。」
通路が狭いから一列に並んでる。多分後ろの方は聞こえてへんやろ。せやけど、たかが10メートル程上るだけや。そないに言っとかなあかん事も無いやろ。
「じゃあ開けるわよ!地下に閉じ込められたのは病院の責任だし、アタイが責任を持って先導するからアンタ達はしっかりついてくるのよ!いい?わかったわね!」
コガッチの後ろにおる俺くらいしか聞こえてへんで・・・。コガッチはそんな事はお構いなしに、扉を開けた。
思ってたよりは静かやけど、たしかに会話は難しいやろ。扉の奥には更に通路があって、その奥に換気扇本体らしき大きな機械があった。その右手には扉があって、部屋らしきもんが見える。多分あれがメンテナンス室なんやろ。逆の左手には、よくマンホールなんかにあるような、鉄製の足掛けっちゅうんやろか?名称はわからへんけど、ハシゴの役目をするヤツが上へと延びてた。
女子達にはちょっとキツいかもしれへんけど、ここは頑張ってもらわなしゃあないやろ。まず、コガッチが右手でハシゴを掴むと、片足を一番下の足掛けにのせて、そのままどんどん上へと上がり始めた。




