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順を促し一気に階段を駆け下りた。階段は地下二階で終わってて、それ以上下への階段は見当たらなかった。正面と右側は壁で左側に一階と同じ扉があった。
俺は近付くとノブに手を掛けて、勢い良く回した・・・が、一階とは違いしっかりとした重みがあった。ところが捻ったまま扉を押したり引いたりしてみるが一向に開く気配はない・・・。
「どないしたんや?さっさと開けんかいな。」
心が後ろから急かす。
「あかん!鍵がかかってるみたいや。非常階段のくせに、意味わからん!」
普通は鍵も手で捻ると開くはずなんやけど、その位置には、鍵穴やロック解除のツマミのようなものは無く、代わりにカードを差し込む場所があり、小さなランプが点滅していた。
「カードキーみたいやな。これはやっぱり山方さんに来てもらうしか無いんちゃうか?」
心がそう言うと、順が扉の前に立ってノブを掴むと、
「普通に開くやろ?太一君が非力なだけや。」
と、ノブを捻り始めた。すると、明らかに変な音を立てながらノブが回り始める。静まり返るこの場所では、その異様な音が一層不気味に聞こえた。何かのうめき声にも似た、なんとも表現のしがたいその音が収まると順が扉を押し、扉はゆっくりと開いた。
「どや!簡単やろ?」
「って、それは破壊やろ!見つかったら確実に怒られるで。っちゅうか、怪力過ぎるやろ!」
「急ぎやからしゃあない。ちゃんと弁償するからノープロブレムや!」
珍しく噛まずに発音出来た事に驚きながらも、改めて順の怪力ぶりに感心しつつも、今は麻紀達を探す為先を急いだ。
「めっちゃ暗いやん。それに線香の匂いとか、薬品の匂いとか入り混じってなんとも言えへん香りが立ち込めとるなぁ・・・。」
「まあ、霊安室フロアやからしゃあないやろ。ん?静かに!足音が聞こえへんか?」
心に言われて耳を澄ます。たしかに前方に足音が、それも複数の足音が聞こえた。
「麻紀らちゃうか?」
暗がりを慎重に前進する。しばらくすると前方に人影が見えてきた。
「麻紀か?そこにおるんは?」
少し躊躇しながらも人影に向かって声を掛けた。
「太一?ウチや!麻紀やで!」
あれ?一人デカいのがおる・・・コ、コガッチ!?
「あら、アンタ達、よくIDカードも無いのにこのフロアに来れたわね!山方さんか誰かに借りてきたの?」
「い、いや、普通に来れた・・・で。問題無く・・・。」
破壊して来たとは言い出せず、思わず嘘をついた。けど、狼狽してるんがバレたんか、
「どうやら、悪さをしてきたようね。まあいいわ。コチラ側のトラブルで閉じ込められたんだし、仕方無いわ。それにしても、よく警報も鳴らずに済んだわね。とにかく一旦一階に戻るわよ!」
コガッチを先頭に来た道を引き返す。麻紀達も無事のようやし、取り敢えず一安心や。
「あれ?アンタ達ここの階段から来たんでしょ?」
「そやけど、なんで?」
「おかしいわね。わざわざアンタ達が鍵を閉めるはずないし・・・。」
言われて扉を見ると開け放ってきたはずの扉が閉まってる。しかも、破壊したはずやのに、コガッチが開けようとしても開く気配が無い。それを見た順が再び力技に出ようと力を込めてノブを捻る。
「ぐっほぉ〜むむぅ!!カッ!?カッ!?・・・。おかしい、なんでや?さっきは簡単に開いたのに・・・。」
どうゆう事や?あの怪力順を持ってしても開かへんて・・・。
「困ったわね。誰かが悪さをしているのかしら?そんな事をする同僚はいないんだけど・・・。そもそも、ここに閉じ込める理由がわからないわ。」
そう言えば、なんで麻紀達がここに来たのか聞いてへんかった。
「なぁ、なんでわざわざ霊安室のある地下二階に来たん?俺らがエレベーターで来ようとしても、壊れてんのかボタンが反応せえへんかったし・・・。」
すると、麻紀が理由を説明し始めた。付け加えるようにエレベーターの件はコガッチが説明してくれた。聞き終えると心が、
「これもよくあるパターンや。この流れで行くと、コガッチの言う警備員の見回りはまず来えへん。となると、自力でここから脱出せなあかん。」
は、始まった・・・心の恐怖映画のパターンに置き換えて展開を予測する必殺技!?これが思いの他当たらへんねん。注目!と、ばかりに大きく咳払いをすると、更に続けた。
「さて、問題はここが地下やっちゅうこっちゃ。窓から外へ出る事は不可能や。そもそも地下に窓があるはずもない。」
すると、ここでコガッチが、
「あら、窓はたしかに無いけど換気用のダクトが外へ続いてるわよ。メンテナンス用に人が出入り出来るように設計されてたはずだから、頑張ればそこから外へは出られるはずだわ。」
今度は照れ隠しをするように咳払いすると、
「階段もエレベーターも何らかの力で封じられてるんや。ダクトかて間違いなく出る事は不可能や!不可能のはずなんや!」
「ちょうどこっちにあるこの扉が換気ダクトのメンテナンス室よ。」
コガッチは階段への扉とは別の少し小さな扉を指さして、そう言うと扉を開けた。
「あら、こっちは鍵が開いてるわ。アタイはメンテナンス室には入った事は無いけど、ここからだと、外へ出られるはずよ。」
コガッチが先にメンテナンス室へ入ろうとするのを、心が咎めるように慌てて叫んだ。
「あかん!それは罠や!よう考えてみ?いかにもダクトから出て下さいと言わんばかりのわざとらしい展開。階段は駄目。エレベーターも駄目。で、すぐ横のメンテナンス室・・・俺は騙されへんで!多分このままダクトから脱出しようとしたら、ドカンッや!相手の思う壺や!」
出た!心の必殺技の一つ!毎回思うんやけど、相手って誰やねん!麻紀が話してた、その昔処刑された誰かの霊とでも言うんか?そもそも、残酷やと思うし、同情はするけど、恨まれる筋合いは無いやろ・・・。
そうなると、田代家とか全然関係無いやん!と、俺の心の叫びを見透かしたかのように沙織が静かに口を開いた。
「今回の出来事は、間違いなく麻紀達が先日体験した田代館の出来事と繋がっているの。一見何の関係も無い様に思えるけど、小柄さんがこの病院に居たという事だけでも十分過ぎるくらい何かの因縁を感じずにはいられない・・・。」
これに対して頷きながら心が、
「沙織ちゃんはわかってるなぁ!俺の予想では、田代家と神崎家はどっかで接点があるんや。ただの医者と患者っちゅう関係以上の何かや。それも多分処刑場に関係してるんや。」
田代家と神崎家が繋がってるんは、まあ有り得るとしても、それと処刑場を繋げるんは強引過ぎるやろ。但しドラマやったらそういう強引な展開もよくある話やけど、何度も言うようにこれは現実や!
大体ここが処刑場やったっちゅうのさえ、誰かが七不思議的に怖がらせようと面白がって考えた作り話かもしれへん・・・。
ところが、心と沙織は更にエスカレートして話を進めた。その二人の盛り上がりを遮るように詩音が、
「そんなしょうもない話は帰ってからしてくれへん?せっかくシャワー浴びてさっぱりしたのに、ここ暑いから、汗出てくるしさっさと出たいねん!田代家とか神崎家とかどうでもええから、ここから出る方法考えてくれへん?」
もっともや!まずはこっから出るんが先決や!話が逸れ過ぎや。と、突然順が叫んだ。
「あっこにおる、白衣の女性に聞いたらええんちゃうの!?」
全員が一斉に順の指差す方向を見た。
「誰もおらへんやん!」
すかさず麻紀が突っ込んだ。
「それがしには見える。残念ながら顔は見えへんねんけど、間違いなくそれがしのど真ん中や!」
・・・。そう言えば順は前にも俺達には見えへん何かと会話したりしてた。順には見えてるんか?それとも怖がらせようというイタズラ心?順は薄暗い廊下を数歩歩くと立ち止まり、傍目から見ると独り言のように喋りだした。
「また、会いましたな。それがしはジョン言います。」
またや!また自分の名前で噛んだ!わざとか?って、相手は順の名前を知らへんから、そもそもボケが成立せえへんし・・・。そんな事はお構いなしに順は喋り続ける・・・。
「なんや、どうもこのフロアから出られへんみたいなんやけど、お茶でも一緒にどうでっか?」
言うてる意味がわからへん・・・。助けを求めてるんか、ナンパしてんのか、はっきりせんかいっ!
「・・・。」
「無口なとこがまた愛らしい・・・。お茶は今度でもええんやけど、なんとかここから出る方法教えて貰えまへんか?そこ?そこに入れば出られるんでっか?」
わからへん・・・自作自演なんか、それとも順には何か見えてるんか・・・。どっちにしても、俺らには順が一人で喋ってるようにしか見えへん。かなりイタい人になってるで。




