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「やっぱり故障なのかしら?管理会社に連絡しなくちゃいけないわ。中に入る事が出来れば守衛室に連絡出来るんだけど、外からじゃ無理ね。仕方無いけど階段で上がるしか無いわ。ついてきて頂戴!」
小柄は不機嫌そうにブツブツ呟くと、ウチらについてくるように促して、来た道を引き返した。
「ちょっと小柄ちゃんに聞きたいねんけど、あっちには何があるん?案内板も無いし、めっちゃ気になるねんけど。」
詩音も聞きたかったらしく、ウチの方見て『ナイス!』と口パクしながら親指を立てた。
「聞かない方が身のためよ。アタイ達看護師や医師だって立ち寄らないフロアなのよ・・・。お陰であっちは掃除さえ出来ず、多分荒れ放題のはず。綺麗好きの医院長でさえ文句も言わないんだから・・・。」
「ちょ・・・そこまで言うといて、ますます気になるやん!なんかあったん?」
大股で先々歩く小柄は数歩進んだ所で足を止めた。そのままウチらの方に向き直ると、
「もう一度だけ言うわ。聞かない方が身のためよ。それでも聞くというなら話してあげるわ。但し本当にタダじゃ済まないわよ?その覚悟はあるの?」
真剣な表情でウチら三人を見た。ウチらも三人で顔を見合わせた。沙織は無言のまま首を横に振る。一方詩音は、
「聞く聞く!聞かんと寝られへんし、聞くまで帰られへんやん!」
・・・。子供や・・・そこまでは言い過ぎや。けど、ウチもここまで来たら聞かんとモヤモヤしたままになってまう。民主主義に従い沙織には悪いけど、ここは聞くという事で小柄に伝えた。
「わかったわ。実はこの新館が最近完成した事は知ってるわね?実際工事を着工し始めたのは、五年も前なの。現代の技術力から考えると時間がかかり過ぎてると思わない?」
「ウチは詳しい事はようわからへんけど、言われてみれば長いと思うわ・・・。なんか理由があるん?」
「この辺り一帯の土地は代々大地主だった神崎家が所有してたんだけど、それ以前は処刑場だったのよ。そしてちょうど処刑される場所の近くには大きな木が二本立っていたそうなの。その木は返り血を何度となく浴びる内に地上から数メートルに渡り朱く染まっていたそうよ。いつしか人々はその日本の大木を血塗られた大木その一、その二と呼ぶようになった・・・。」
「そ、そのままやん!」
「やがて処刑場は閉鎖され、神崎家の所有物となった後も二本の大木だけは鎮魂の意味も込めて大切に祀られていたの。所が自体の流れとともに、毎年行われていた鎮魂祭も行わなくなり、立派に祀られていた大木は手入れされる事も無く放置され、そして遂には新館の建設の邪魔になると伐採する事になったの・・・。」
そこまで話し終えると小柄は一呼吸置いた。大きく息を吸い込むと、再び話し始めた。まあ、ここまで聞いたら大体の話は読めるんやけど、最後まで聞こ!
「ここまで話したらおおよその見当はつくわね?そう、アンタ達の想像通り、二本の大木を伐り倒そうとした作業員達は次々と原因不明の死を遂げた・・・。結局大木を伐り倒す事は出来ず、最終的には大木に火を放ちようやく排除する事が出来たそうなんだけど、それまでに工事に関係して亡くなった人の数は二十人にも上ったそうよ。その後、この新館が完成したんだけど、職員のほとんどが奇妙な出来事を体験しているの。もちろん患者さんの中にもいるわ。」
「奇妙な体験?具体的には?」
この手の話を信じへん詩音が、予想通り食い付いた。
「それはまた今度ゆっくり話すわ。アタイは残念ながら体験してないの。霊感が無いみたい。そういう訳でアタイが今はこのフロアを担当しているの。皆、怖がって二度とこのフロアには来たく無いって、ここの担当になるくらいなら職を変えるとまで言ってる人もいるくらいよ。特に、フロア表示を外してある反対側では、そう言った体験が多く、さすがに医院長もあっち側は閉鎖する方向で検討しているみたい。こっちだけで十分事足りているし、今は人手不足なのに、辞められたら病院としての運営にも影響しかねない状況だしね。」
小柄は一気に話すと、体の向きを変えて、
「そういう訳だから、あっちには行かない方が良いって事。アンタ達に何かあったら、ここのフロアを担当しているアタイの責任にもなりかねないわ!それだけは勘弁よ!わかったらさっさと、一階に戻るわよ。ついてきて頂戴!」
と、再び足早に歩き始めた。慌てウチらも歩き出した。




