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俺らは新館へ向かう為、再び階段を下りた。やっぱり下への階段は見当たらへん。ところが、沙織はちょうど階段が見えた、今は、ただの壁に向かうと、
「ちょっと待って!ここ、本当に凄い気を感じるわ・・・。私の力が通用するかわからないけど、除霊を試みるわ。」
突然何言い出すねん・・・。たしかに、階段が見えた・・・。せやけど今は飯が先やろ。それに除霊ってなんや・・・。他の連中も目が点になっとるがな。
「とにかく、早くしないと後々厄介なの!すぐに済むから下がって頂戴!」
普段無口で大人しい沙織の気迫に満ちた表情とその言動に半ば圧倒された俺らは言われるままに、数歩後ろに下がった。
「お、おい。何が始まるんや・・・。」
耳元で心が呟く。こっちが聞きたいわ!
すると、沙織は壁に向かい何やら両手で説明出来へん動きをし始めた。その手の動きに合わせて何かを唱え始めた。よく聞くと、それはとても除霊の為の呪文とは思えん内容やった。
――― となりの〜オバちゃん〜香水臭い〜はっきり言うけど〜それ香水ちゃうねん〜消臭スプレーかけただ・・・・・・ケッ!!!
・・・・・・・・・。さ、沙織・・・。だ、大丈夫か?普段標準語に近い話し方やのに、この時ばかりはめちゃめちゃ関西訛りやし、微妙なメロディーラインに乗せた呪文の内容は完全に昨日の出来事を並べただけにしか聞こえへん。
最後の「ケッ!!!」だけは気合い入れたせいか、呪文っぽく聞こえたけど。
「出た!沙織の封魔滅殺!」
麻紀が叫ぶ。ふ、封魔滅殺?言うてる意味がわからん。って、おまえら普段からこんな事してるんか・・・。心もポカンとしたままその光景を無言で見守ってた。ところが、順は手を叩きながら、
「フラポー!フラポー!ええもん見せてもろた!」
あかん!こいつが出て来ると、余計にややこしなる。ところでフラポーってなんや・・・。ブラボーって言いたいんか?そんなやり取りとは裏腹に沙織は除霊に疲れたようで、力なくその場にへたり込んだ。
「お、おい!大丈夫か?」
心がすかさず声をかける。
「だ、大丈夫よ。これで安心とは言えないけど、とりあえず怒りに満ちた怨念を少しは鎮める事が出来たはず。後は様子を見ながら私の力が続く限り、何度でも除霊して、必ず成仏させて見せるわ。」
何度も?何度もあれをやるんか!あれをやるくらいやったら、飯食うた後、車に戻った方がええんとちゃうか・・・。
と、沙織が俺の方を向くと、
「今、車に戻った方がいいと思ったでしょ?でも、すでに手遅れよ。どうやら、あなた達四人はここへ来る運命だったみたいね。つまり、この病院よりもあなた達に原因があるの。だからどこへ移動しても何らかの形で霊が関わってくると思うわ。」
と、真顔で言う。何度も言うけど霊なんかおらへん!恐怖心が創り出す幻覚や!と、自分に言い聞かせつつも、沙織の真っ直ぐな視線に恐怖を感じてる俺が居るんも事実やった。気を取り直して俺達は新館へ向かう事にした。
旧館の扉を開けて、新館へと続くコンクリートの道を歩く。ふと、背後に気配を感じたけど、振り返ると何か見えてしまいそうな気がしたから、ここは無視や!と、敢えて振り返らず歩き続けた。
すると、今度は気配と言うより足音が聞こえてきた。さすがに洒落にならんくらいハッキリと聞こえる・・・。
一瞬俺だけに聞こえるんか?と、思ったけど、前を歩く五人も一斉に立ち止まって振り返った。
「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
まず、麻紀が悲鳴をあげた。その悲鳴にますます俺は後ろを振り返る事が出来ず、このまま振り返らず走り抜けようかと考えたんやけど、目の前の五人を差し置いて逃げるのは格好悪いし、どうしてええかわからず狼狽えてると、順が突然、
「ぬっ!あんたはたしか・・・コガッチ!なんでこんなとこにおるんや?」
へ?コガッチ?その言葉に聞き覚えが・・・と、思わず振り返ると、そこには見覚えのある大男が立っていた。




